2018 Fiscal Year Research-status Report
廃用性関節拘縮におけるRA系の役割:高齢者ADL維持への新戦略
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18K07485
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Research Institution | Morinomiya University of Medical Sciences |
Principal Investigator |
川畑 浩久 森ノ宮医療大学, 保健医療学部, 教授 (30454680)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青木 元邦 森ノ宮医療大学, 保健医療学部, 教授 (00346214)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 関節拘縮 / レニン・アンギオテンシン系 / アンギオテンシン II / HIF1-α |
Outline of Annual Research Achievements |
高齢者における廃用性関節拘縮の病態解明及び新たな予防アプローチの開発は、ADLの低下した高齢者のQOL維持のために重要な課題であるが、その分子メカニズムは未だ不明である。近年申請者らは、血圧調節機構の中心的メカニズムであるレニン-アンギオテンシン系(以下RA系)が軟骨細胞の増殖分化を調節することを見いだし、関節疾患と高血圧の新たなリンケージを示唆した。一方で不動性関節拘縮の病態進展に転写因子HIF1-α活性が強く関与していることも示したが、RA系/ HIF1-α活性の相関を含め、未だその全貌を解明するに至っていない。そこで本研究ではこれまでの検討をさらに進め、RA系を軸とした関節拘縮進展分子メカニズムにおけるHIF1-αあるいはNF-kBなど他因子の役割を模索し、同時にRA系阻害剤の関節拘縮進展阻害の可能性を明らかにすることを目的とし検討を行った。 まずは、生体内の正常滑膜組織でのRA系の存在を検討するために、関節不動化モデルを作成し、滑膜組織でのAngiotensin II受容体(以下AT1R)の発現状況について組織学的、観察を行った。その結果、正常な滑膜組織においてはAT1Rの発現はほぼみられなかったが、不動化2週後の肥厚した滑膜組織では広い範囲にAT1R陽性細胞が分布していた。またAT1Rの遺伝子発現も不動化1週後には有意に上昇しており、これは2週後も続いていた。さらに関節不動化モデルにAngiotensin II(以下Ang II)投与したところ、非投与群に比べ2週後より徐々に関節可動域(以下ROM)が制限され、3週後には著しく制限されていた。 本結果から、Ang IIは関節拘縮による滑膜組織の線維化に強く関与していることが示唆され、関節拘縮の病態進展においてHIF1-α活性のみならずRA系シグナルを抑制することが重要であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在マウス関節不動化モデルにおいて、線維化滑膜組織にAT1Rの発現が上昇していることや、Ang IIの持続投与によりROMが著しく制限されることなどが明らかとなった。とくにAT1R発現細胞は、滑膜組織の線維化に伴って滑膜組織内に広がるように分布していた。またその遺伝子発現は関節不動化1週後で最も上昇しており、これまで報告したCTGFやVEGFの発現状況と一致していたことから、RA系はこれらの因子と協調して滑膜組織の病態進展に関与していると考えられた。またAng IIの持続投与によりROM制限が経時的に強くなっていくことも、滑膜組織の線維化による関節拘縮の病態進展にRA系が関与していることを示唆しており、これらはきわめて有用な知見であると考える。 しかしながらRA系阻害剤による滑膜組織の線維化の抑制やHIF1-αやNF-kBの発現ならびに転写活性についての検討は未だできていないことから、本研究の核心部を解明するには至っていない。RA系阻害剤により滑膜組織の線維化を抑制ができれば、本研究の大きな目的である血圧調節機構と関節拘縮の相関分子メカニズムを解明できることから、これについての検討を行うことが本研究にとっては最優先課題である。これについては現在HIF1-αタンパクの抽出、転写活性を測定する試薬などの準備が整ってきており、現在予備実験を行っている段階である。またAng IIを介したNF-kB の転写活性についても、測定用試薬や炎症性サイトカイン(IL-6,IL-1β、TNF-α)の遺伝子発現などを測定する準備を進めている。 以上のことから本研究は、現段階では当初の研究目的は達成するべくおおむね順調に進行していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで線維化滑膜組織におけるAT1Rの発現状況やAng IIの持続投与によるROM制限については検討したものの、Ang IIによるHIF1-αやNF-kBの発現誘導や転写活性についての検討には至っていない。しかしながら関節拘縮の病態進展におけるAng II-AT1Rシグナルの役割を解明することが、本研究の最も重要な目的であることから、今後はこれについての検討を中心として研究を進めていく。 したがってまずは培養滑膜細胞をもちいて、Ang II-AT1RシグナルがHIF1-α/NF-kBを介して直接線維化関連分子(CTGF、VEGF)や炎症性サイトカイン(IL-6、IL-1β、TNF-α)の発現を誘導する分子メカニズムについて解析を行っていく。これについては、現在滑膜細胞の適切な培養方法を確立するための準備を進めている。またin vivoにおいて、Ang II持続投与によるHIF1-αやNF-kBの転写活性や、線維化関連分子(CTGF、VEGF)や炎症性サイトカイン(IL-6、IL-1β、TNF-α)の発現状況について経時的に検証していくため、Ang IIを持続投与した関節不動化マウス膝関節の滑膜組織からmRNAならびに蛋白を抽出し、リアルタイムPCR法ならびにbinding assay法による解析準備を進めている。またこれらとあわせて形態学的変化についても検討するため、組織切片作成や各種染色(HE染色、Sirius red染色、免疫組織化学的染色)、画像解析を行うための準備も整えている。さらにその後RA系阻害剤であるomlesartanの投与により、分子動態や形態学的な変化が抑制されることについても同様の方法をもちいて検証する。
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Causes of Carryover |
今年度おおむね順調に研究を進めることができたが、試薬や実験動物の購入に際して価格の変動があり、わずかながら予定していた価格との差額が生じた。 次年度繰越分については実験動物の購入費用の一部として使用する予定である。
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