2019 Fiscal Year Research-status Report
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー病態に関与する内在性レトロウイルスの探索
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18K07511
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
三橋 弘明 東海大学, 工学部, 准教授 (20466220)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三橋 里美 横浜市立大学, 医学部, 助教 (40466222)
中川 草 東海大学, 医学部, 講師 (70510014)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | DUX4 / ロングリード / ERV |
Outline of Annual Research Achievements |
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)は常染色体優性遺伝を示す遺伝性筋疾患であり、筋線維の壊死に加え炎症が顕著なことが知られている。患者の細胞では本来、初期胚にしか発現していない転写因子DUX4遺伝子の発現が発現しており、これがFSHDの原因と考えられているが、DUX4が筋変性を起こすメカニズムはわかっていない。本研究では、転写因子DUX4が骨格筋細胞で発現を誘導する転写産物を明らかにすること、特に遺伝子としてアノテーションされていない反復配列からの転写産物に着目し、FSHDの発症メカニズムに迫ることを目的としている。今年度は、DUX4を発現させたヒト骨格筋細胞からの抽出したRNAを用い、ナノポアロングリードシークエンサーを用いたdirect RNAシークエンスを行い、統計解析に十分なデータを獲得した。大量の塩基配列データをバイオインフォマティクス解析し、25倍以上の有意な発現増加を示す遺伝子を121個、反復配列由来転写産物を61個、遺伝子と反復配列の融合転写産物を247個検出した。発現増加した遺伝子は主に初期胚特異的に発現する遺伝子であり、これまでの知見通りDUX4が初期胚特異的な転写ネットワークを制御することが確認された。非遺伝子領域である反復配列からの転写産物や遺伝子と反復配列の融合転写産物には新規のものも含まれており、今後、これらの転写産物の疾患への関わりが注目される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DUX4-fl及びコントロールとしてDUX4-sを強制発現したRD細胞から抽出したトータルRNAを用いて、poly-A RNAを精製し、ナノポアDirect RNAシークエンスの解析を行った。3回のbiological replicateを行い、6サンプルで平均5.9百万リード(平均長824塩基)を得ることができた。LASTを用いてヒトゲノムリファレンス配列(GRCh38)にマッピングし、平均75%のリードをマッピングすることができた。DESeq2を用いて発現変動遺伝子解析を行い、DUX4-flによって発現が誘導される2細胞期遺伝子が有意に発現上昇していたため、本手法の妥当性が確認された。また、公開されているIllumina short readのRNAseqデータとの比較を行い、我々の手法と結果に相関があることを確認した。次に、dfam及びRepeatMasker、gEVEなどの反復配列のデータベースにアノテーションされている領域からの転写産物のリードカウントを行い、DESeq2によって発現変動のある反復配列由来転写産物を同定した。gEVEデータベースにある反復配列には有意差が得られなかったが、dfam、RepeatMaskerにアノテーションされているERV配列が優位に発現上昇していた。さらに、融合転写産物解析を行い、ERV配列と遺伝子、lncRNA、偽遺伝子との融合転写産物を247個見出した。このうち216はこれまで報告のないものであった。また、サテライト配列が3箇所の領域から主に1方向性に発現上昇していることを見出した。さらに、DUX4-flによって発現上昇する反復配列は、高確率にスプラシングされることも明らかとなった。これらの結果は、長鎖シークエンサーを用いたDirect RNAシークエンスによって、DUX4-flが制御する転写産物の網羅的な解析を信頼性高く行うことが可能であることを示しており、期待される結果を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今回、長鎖シークエンサーを用いたDirect RNAシークエンスによって、DUX4-flが制御する反復配列を同定した。さらに、ERV/MaLRによって近傍の遺伝子との融合転写産物が多数発現していることを見出した。今後は、これらの転写産物の中からORFのあるものを中心にクローニングを行い、これらの転写産物が与える細胞毒性について調べていくことを計画している。普段はsilencingされている反復配列の発現により炎症反応を引き起こすのではないかと仮説を立てており、今回新たに同定した転写産物によって炎症応答が起きるかどうかを、IL6などのサイトカイン経路の解析により測定していく予定である。また、今回、DUX4-flによって発現誘導される反復配列が、高頻度にスプライシングを受けていることを新規に見出した。このスプライシングの機序を詳しく調べることにより、反復配列の発現が細胞毒性を引き起こすメカニズムを明らかにしたいと考えている。
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Causes of Carryover |
文部科学省の「先進ゲノム支援」に採択していただいたため、予定していたナノポアロングリードシークエンシングにかかる費用に余裕ができた。また新型コロナウイルスの影響で研究できない期間が生じたため次年度使用額が発生した。来年度も新型コロナウイルスの影響が懸念されるが、研究が再始動した際には予定しているクローニングおよび発現実験と、DUX4標的転写産物に対するクロマチン修飾因子の関与を調べる実験に予算を利用して行く計画である。
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