2018 Fiscal Year Research-status Report
幼少期ストレス負荷ラットの衝動的攻撃性への前頭前野を標的とした根治療法開発
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18K07557
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
一坂 吏志 鳥取大学, 医学部, 助教 (50359874)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 幼少期ストレス / 児童虐待 / 攻撃性 / 戦争 / 前頭前野 / 眼窩前頭皮質 / 治療 / 平和 |
Outline of Annual Research Achievements |
人への不適切な攻撃性は戦争、犯罪、いじめ、虐待につながり、その改善は世界平和と人類の幸せと存続につながる。独自の児童虐待モデルI+Sモデルの攻撃性増加のメカニズムとして前頭前野の関連性を調べた。攻撃性増加が雌でなく雄のみである原因として男性ホルモンについて文献を調べ、眼窩前頭皮質に作用することが分かり、治療標的に問題はないことがわかった。また、治療法は原因によって異なり、幼少期ストレスによる①萎縮が原因であれば神経細胞注入が、②神経活動変化であれば神経活動の制御が、③神経回路が原因であれば神経回路の再編成が治療法となる。本年度は前頭前野の①萎縮はないことの再現性が得られた。現在、②神経活動を調べるため神経活動マーカーc-Fosの免疫染色をおこなっている。まだ、途中であるが、雌(n=2)で前頭前野で発現量に差はなかった。次に、I+Sモデルの作製法で、離乳後に社会的隔離とフットショックを用いているが、攻撃性の増加は離乳後社会的隔離だけでも報告されており、攻撃性の増加がI+Sモデルの方が強いという結果を得ていたが、さらに再現性を調べた。結果、再現され、I+Sモデルの有用性が強まった。さらに、ショックストレスの電気強度を弱めてみたところ、攻撃性増加は有意でなくなり、弱められないことが分かった。次に治療法について、成熟後の豊環境(セロトニン増加)のみでは改善効果がなかったが、幼少期ストレスによる不安様行動の改善効果等が知られる幼少期の豊環境の効果については不明であった。そこで、幼少期の豊環境の改善効果を調べた結果、効果は非常に弱かった。そこで当初予定していた豊環境を組み合わせた治療法は不十分であると考え、眼窩前頭皮質への神経回路固定関連分子経路標的薬の投与と恐怖の消去学習と複数匹での飼育を組み合わせた治療法を試みた。結果、データ量がまだ不十分であるものの弱い改善効果がみられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で重要なのは、独自モデル動物であるI+Sモデルが示す行動異常の再現性と有用性、そのメカニズムの解明、根治療法治療法の開発である。独自モデルを開発した原因も既存の母子分離モデルでの再現性に問題があったためである。I+Sモデルの行動異常の再現性の確認は終了しており、有用性として他のモデルとの比較をおこない、攻撃性への治療法を調べるモデルとして特に有用であるとの結果をえるところまで来ている。しかし、2つのストレスを組み合わせることでの攻撃性増加効果を高めるメカニズムについては完全ではない。児童虐待モデルでの研究の難しさは、幼少期に負荷するストレスの強さにある。同様の効果が得られるのであれば、できるだけ動物へのストレスを弱めるべきである。本研究でもその可能性を探っていたが、負荷するストレスの強さを弱めると攻撃性増加が弱まり、治療法開発のモデルとしては適さなくなることが確認でき、モデル作製法の検討についてはこれで終了と考えている。攻撃性増加のメカニズムの解明に関しては、萎縮が原因である可能性は低いことが再現実験により確かめられ実験は終了した。神経活動変化が原因である可能性に関しては、現在、c-Fos免染の実験中である。研究する学生の多くが就職希望で就職活動もあり、研究が進まず、まだ途中であり、雌のみのn=2である。今後、雌雄共にn数を追加する予定である。次に治療法に関しては、成熟期、幼少期の豊環境ともに改善効果がほぼないことが明らかとなった。この結果から、豊環境は不安とは異なり攻撃性には効果がほぼないことをつきとめ、豊環境の治療実験は終了した。新規治療法として、眼窩前頭皮質への神経回路固定関連分子経路標的薬の投与により幼少期の脳の状態にもどし、恐怖の消去学習と複数飼育を組み合わせ、適応させる治療法を試し、弱い改善効果が得られるところまできており、順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
幼少期ストレス負荷による攻撃性増加メカニズムとして、前頭前野神経活動の変化が原因である可能性について、c-Fosの免疫染色で調べているが、予定よりも遅れている。しかし、新しい卒研生2人も入り、次年度での実験終了を目指したい。さらに、攻撃行動時の神経活動についても調べたい。また、攻撃性増加の原因が前頭前野等の萎縮や神経活動の異常でなかった場合に適切な神経回路がつくられず、不適切な神経回路がつくられ消去できないことが原因と考えてよいのか、他の可能性についても考えたい。 治療法開発に関して、成熟後豊環境に攻撃性への治療効果がないことは、抗うつ薬による治療が不十分なことと一致する可能性があるが、幼少期豊環境に効果がなかったのは予定外であった。また、豊環境を用いない変更した治療法ではn数が少なく確かな事は不明なものの、弱い改善効果がみられた。しかし、根治を目指す上でこの効果は不十分である。脳内試薬投与では濃度が薄まり投与試薬の濃度設定が難しい。次年度は濃度を上げる予定である。また、投与試薬として、不適切な神経回路の消去のため、スパイン安定化関連シグナル伝達経路の阻害剤と適切な神経回路作製のためPKA経路の活性化剤の混合試薬を使用している。しかし、本年度の報告で、ヒトの脳の特徴として前頭前野がチンパンジーに比べ大きく、特に白質が大きいことが報告されたことから、前頭前野の神経突起伸展能力が非常に高いため、幼少期ストレスでできた不適切な神経回路の消去が難しい可能性もあり、神経突起伸展関連分子の阻害剤の追加を検討中である。また、治療実験では、例えばI+Sモデル20匹(Vehicle投与群10匹と試薬投与群10匹)に浸透圧ミニポンプを両側の眼窩前頭皮質に移植し、20匹に手術をおこなっても、電気ショック誘発闘争試験は2匹で行うためn数が半分の5になる。匹数を増やしたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、実験動物の飼育のための飼料を購入する予定であったが、まだ残りが多くあったため未使用額が生じた。次年度に購入することとし、未使用額はその経費に充てることとしたい。翌年度分として請求した助成金と合わせて、実験動物を飼育し、攻撃性への治療法の開発をおこなう予定である。
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