2019 Fiscal Year Research-status Report
幼少期ストレス負荷ラットの衝動的攻撃性への前頭前野を標的とした根治療法開発
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18K07557
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
一坂 吏志 鳥取大学, 医学部, 助教 (50359874)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 幼少期ストレス / 児童虐待 / 攻撃性 / 戦争 / 前頭前野 / 眼窩前頭皮質 / 治療 / 平和 |
Outline of Annual Research Achievements |
人への不適切な攻撃性は戦争、犯罪、いじめ、虐待につながり、その改善は世界平和と人類の幸せと存続につながる。本研究は独自の児童虐待ラットモデルとして離乳後社会的隔離(I)と離乳後フットショックストレス(S)の両方を負荷するI+Sモデルのオスでみられる衝動的攻撃性増加のメカニズムの解明と新規治療法開発を目的としている。幼少期ストレス負荷による攻撃性増加のメカニズムとして、児童虐待は解離性同一性障害(多重人格)の原因であるが、成熟後の虐待での発症は知られていないことなどから、攻撃性に関わる人格形成には幼少期の臨界期可塑性が関与することを想定している。しかし、先行研究を調べてみると、社会的隔離のみのストレス負荷を幼少期(離乳後)ではなく成熟後におこなった場合でも不安様行動やうつ様行動の増加が幼少期同様に増加することが報告されており(Ieraci et al., 2016)、特に幼少期のストレスの特異性ついての報告は見つけることができなかった。攻撃性への影響に関しても研究の進んでいる離乳後社会的隔離だけのストレス負荷モデルでも予想に反して成熟後ストレスの影響を調べた論文を見つけることが出来なかった。もちろん独自モデルであるI+Sモデルでは不明である。そこで、今年後はI+Sストレスを成熟後に負荷し、攻撃性増加への影響を調べた。なお、実験スケジュールはストレス負荷時期以外は幼少期と同じである。その結果、成熟後のストレス負荷では攻撃性と衝動性に有意な変化はみられなかった(未発表データ)。この結果は、ストレス負荷による衝動的攻撃性増加は、ストレス負荷を幼少期におこなう方が成熟期におこなうよりも影響が大きいことを示唆している。この結果とこれまでに得られている脳萎縮や神経活動変化が主な原因ではないことを示唆する実験結果から、想定していた治療法を変更する必要はないことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、既に報告があると予想していた既存のモデルにおける成熟後のストレス負荷の攻撃性への影響に関して、報告が見つからず、メカニズムを考えるうえで重要な点であることから、その効果を独自モデルであるI+Sモデルで確かめたため、治療法開発研究が少し中断し遅れることとなっている。しかし、成熟後のストレス負荷による攻撃性への影響を調べた報告は我々の知る限り無く、今回初めてストレス負荷による衝動的攻撃性増加において成熟後よりも幼少期にストレスを負荷した方が影響が大きいことが明らかとなり、想定していた幼少期可塑性の分子メカニズムが関わることが示唆される。 また、本研究で重要なのは、I+Sモデルが示す行動異常の再現性と有用性、そのメカニズムの解明、根治療法治療法の開発である。再現性の確認は終了しており、有用性として他のモデルより影響の強い攻撃性への治療法を調べるモデルとして有用であるとの結果をえている。また、近年、離乳後社会的隔離(Iのみ)による攻撃性増加が、成熟後の治療として抗うつ薬によるセロトニン作用の増強と再社会化(複数匹での飼育)により改善されることが報告された(Mikics et al., 2018)が、抗うつ薬も再社会化もヒトでは既におこなわれている治療法であり、離乳後社会的隔離のみのストレス負荷モデルは既存の治療法が効果を示すヒトのモデルである可能性がある。しかし、我々の独自モデルであるI+Sモデルでは同様の治療法では効果がほとんど無いことが、成熟豊環境飼育(セトロニンを増加させ、複数匹で飼育[再社会化]するというほぼ同様の方法)での実験結果により明らかとなっており、今後、難治性の攻撃性増加を示す精神疾患の治療法開発における有用性が高まることが予想される。メカニズムに臨界期可塑性のメカニズムが関与することが明らかとなり、今後は治療法開発をおこなう予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
幼少期ストレス負荷による攻撃性増加メカニズムとして、攻撃時の前頭前野神経活動の変化が原因である可能性について、c-Fosの免疫染色で調べているが、就職活動の学生が多く、予定よりも遅れている。しかし、新しい卒研生3人が入り、実験が進むことが期待できる。幼少期の虐待等のストレス負荷による衝動的攻撃性増加のメカニズムとして、不適切な神経回路がつくられ消去できないことが原因と想定している。近年、成熟後でも可塑性があり、抗うつ薬によるセロトニン作用の増強や脳由来神経栄養因子(BDNF)により、成熟後でも可塑性を再活性化できることが視覚野の研究などで明らかとなっているが、そのメカニズムとしては新たなシナプス形成と増強による効果である。確かに大人でも人格を高めることは可能であり、人格を担う前頭前野でも成熟後に長期増強がおこることが知られている。しかし、「三つ子の魂百まで」と言われるように幼少期に形成された人格を完全に消すことは難しく、幼少期のストレス経験の影響は残ると考えられる。そのメカニズムとして幼少期では不要な神経回路は消去されるが、成熟後では安定化され消去するのが難しくなることがある。本研究ではその安定化に関わる分子経路を阻害することでの治療を目指しているが、動物モデルでストレス負荷による攻撃性への影響が幼少期と成熟期で異なるとの報告が見つからず、本年度はそれを確認したため、治療法研究が中断された。もし、成熟後のストレス負荷でも同様の結果が得られていれば、上記の想定を考え直す必要があった。しかし、本年度の実験結果より、想定していたメカニズムが関わる可能性が高まったことから、想定どおりの治療法開発が可能となった。来年度からは治療法開発を進めることに重点をおく予定である。
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Causes of Carryover |
今年度の途中に実験機器(刺激装置)が故障し、新規に購入を検討していたため残しておいた。具体的には、新規に刺激装置を購入するのに約30万円かかるため足りず、次年度に繰り越すことを考えていた。しかし、研究室にあった別の装置が使用可能であることが最近判明し、次年度になってからはそちらを使用しているため新たに購入する予定はない。しかし、別に行動解析用PCがWindows7で動いているが、昨年度末に更新がなくなったため、今後購入を検討している。
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