2021 Fiscal Year Research-status Report
幼少期ストレス負荷ラットの衝動的攻撃性への前頭前野を標的とした根治療法開発
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18K07557
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
一坂 吏志 鳥取大学, 医学部, 助教 (50359874)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 攻撃 / 眼窩前頭皮質 / 児童虐待 / モデル動物 / 治療法開発 / 戦争 / 平和 / 反社会性パーソナリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、戦争、凶悪犯罪、いじめ、ハラスメント、DV、ストーキング、危険運転等の「不適切な攻撃性」は人類の存続と幸福における重大な問題である。不適切な攻撃性を示す悪性の精神障害に反社会性パーソナリティ障害、自己愛性パーソナリティ障害、素行症等がある。その原因に児童虐待がある。また、攻撃性制御、適切性の判断、人格等に関わる脳領域が前頭前野の眼窩前頭皮質である。この問題の解決には、攻撃性増加の脳内メカニズムの解明と新たな根治療法の確立が必要である。本研究では、身体的虐待とネグレクトの両方を想定した2種類の幼少期ストレスを負荷した独自のモデルラットが示す不適切な攻撃性増加のメカニズム解明のため、前頭前野等の脳活動の変化の有無を調べ、治療として問題の神経回路を消去するため、外科的な眼窩前頭皮質への試薬投与と豊環境飼育による治療を試みている。本年度は、幼少期ストレスによる攻撃性増加のメカニズム解明のため、前頭前野各領域と扁桃体の神経活動の変化を調べる研究を続けている。その結果、攻撃時の前頭前野と扁桃体における神経活動マーカー発現はほとんどの領域で変化はみられなかった。前頭前野IL領域のみ減少したが、まだn数が少なく再現性を確かめているところである。また、治療法開発研究では眼窩前頭皮質に複数の分子の阻害剤等を投与し豊環境飼育したが、有意な治療効果はみられなかった。しかし、予想外の結果として、長期間の豊環境飼育により攻撃性が有意に低下することが明らかとなった。これまで2週間の短期間の豊環境飼育では改善効果はみられておらず、豊環境によるセロトニン作用の増強や運動療法では治療困難と考えていたが、長期間では効果があることが明らかとなった。しかし、この改善効果は治療をやめるとすぐに元に戻ってしまうという結果も得ており、さらなるメカニズムの解明による根治療法の開発が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の進捗状況は、全体としてはコロナウイルスの影響により多少遅れている。また、治療法の開発では、残念ながら改善効果がみられなかったことから、別の分子の阻害剤を追加して調べる等の変更が必要となり、研究の目標達成はやや遅れている。しかし、独自の児童虐待モデル動物ではセロトニン作用の増強や運動することによる治療効果はあるが根治ではないとの人間同様の結果が得られており、攻撃性増加への新規治療法開発への有用性は高いと考えられ、継続的に研究を進めることが可能である。本研究は戦争の問題解決にもつながる可能性があり、人類のリーダーに多いサクセスフルサイコパスを含む悪性の精神疾患のAI診断などによる人類のリーダーのこころの健康状態のチェックシステムも必要であるが、診断後の治療法開発も重要で、虐待やいじめなどの加害者の治療により被害者の救済も可能となり、連鎖を止めることができるようになることが期待できる。人類存続と平和における本研究の重要性から、研究を早めたいが、予算不足とこの規模では研究がなかなか進まないのが現状である。昨年度は私を含め7名で研究をおこなっているが、攻撃性を調べる行動解析で使用していた解析用PC(10年前購入でWin7)が故障で使用不可となったままであり、予算不足でPCを買い替えられず、学生のPCで録画させてもらい、手動で解析することで乗り切っている。数年前までは学生に学会に参加・発表してもらえていたが、旅費不足のため、自分自身ですら学会にも昔の様に参加することはできず発表もできていない。コロナの状況を見ながら、灌流固定を行い、密にならないように、免疫組織化学染色等できるだけ1人でできる実験で対応している。博士課程に1名を含む全員が進学し人数は十分であるものの、卒研の希望者は複数名いたが、研究費不足により断り、研究の進展を早めることはできていない。
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Strategy for Future Research Activity |
人間では児童虐待による攻撃性増加の原因として、虐待する養育者の真似の神経回路を想定している(力で支配されて育つと力で支配するようになる)。一方、幼少期ストレス負荷モデルラットでは、遊びの未経験やストレスによる攻撃促進神経回路形成等が原因と想定しているが詳細は不明である。このモデルの雄で雌より攻撃性増加が強いことから男性ホルモンの関与が考えられ、眼窩前頭皮質活動を変化させることから間接的に作用すると考えている。このモデルではストレスホルモンの増加や脳萎縮はみられておらず原因とは考えにくい。現在、前頭前野の神経回路が原因であると考えているが証明は難しい。成熟後の同ストレス負荷では恐怖記憶は残るが攻撃性は増加しないとの結果を得ており、PTSDは成熟後でもおこるが、不適切な攻撃性の増加は幼少期の経験が重要で、今後再現性ならびにその臨界期を調べる予定である。今年度の研究結果では、前頭前野への試薬投与と豊環境による短期間の根治を目指した治療では改善効果がみられなかった。その原因として、前頭前野は成熟後も逆転学習できる等神経回路形成が可能な事から、神経突起伸展分子の作用が強く、そのため問題の回路を消去できなかった可能性がある。来年度は神経回路を不安定化する試薬に、神経突起伸展を阻害する試薬を追加することで問題の神経回路を消去し、治療できないか調べる予定である。本研究により、児童虐待問題が解決し、サクセスフル・サイコパスを含む反社会性パーソナリティ障害が人類のリーダーに多い問題も解決し、未来の子ども達が幼少期に愛情を十分に受けて育ち、人類のリーダーのこころが健康になり、不適切な攻撃が減り、リーダー同士で話し合いが可能になることによる平和への道が開ける可能性がある。悪の正体が国、人種、宗教等ではなくこころの問題であるなら、解決法は対人攻撃兵器より医学的な診断と治療が適切であると考える。
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Causes of Carryover |
2年前に、行動解析の録画解析用パソコンが購入より約10年たち、故障により使用不可能となった。今年度に購入予定であったが、今年度も予算不足により購入できなかった。現在は学生のパソコンを使用させてもらうことで乗り切っている。来年度購入を希望しており、余った予算を少しでも残しておきたかったため、次年度使用額が生じた。
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