2018 Fiscal Year Research-status Report
海馬歯状回のin vivoカルシウムイメージングによるてんかん原性獲得の機序解明
Project/Area Number |
18K07589
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
神出 誠一郎 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (30376454)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菅谷 佑樹 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (00625759)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 歯状回 / 苔状細胞 / てんかん / カルシウムイメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である30年度は、組織学的実験による検討も交えて、予備的検討で用いた手法の妥当性を検証したのち、カルシウムイメージングによる自由行動時の苔状細胞の自発的な活動を検討し、確実な基礎データを取得することに主眼を置いた。 イメージングに使用するモデル動物の作成とその検証として、まず我々が保有する苔状細胞特異的cre組み換え酵素発現マウスを用い、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの歯状回への定位的な注入でカルシウムセンサーであるGCaMP6fを苔状細胞に発現させた。GCaMP6fの発現については、苔状細胞特異的creマウスにAAV-DIO-GFPを注入し、組織学的に検討したところ、歯状回門部、歯状回内側分子層におけるGFPの発現パターンから苔状細胞に特異的な発現を確認した。 覚醒下・自由行動時のin vivoカルシウムイメージングについては、上記の苔状細胞選択的GCaMP6発現マウスを用い、ウイルスベクター注入から2~3週間後に歯状回の直上に屈折率分布型(GRIN)レンズをデンタルセメントで固定し、6日後以降に行動実験を行った。なお、マイクロエンドスコープについては、予備実験で最適と考えられた座標と同じ位置(脳表から1.6mm)にステレオタキシックフレームを用いて設置した。覚醒下・自由行動時における苔状細胞の興奮性について、オープンフィールド試験での苔状細胞カルシウムイメージングを各マウス共に10分間記録した。30年度は計6匹を用いて32個の苔状細胞から安定した記録を得ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海馬歯状回の苔状細胞選択的にカルシウムイメージングを行う本研究では、その土台となる苔状細胞に特異的なGCaMP6の発現が重要である。今回の実験にて、我々の保有する苔状細胞選択的creマウスの歯状回にAAV-DIO-GFPを注入したところ、歯状回門部のGFP陽性細胞の形態に加え、歯状回内側分子層に発現した帯状のGFPを認めたことから、GFP陽性細胞は苔状細胞特異的なものと確認することができた。 カルシウムイメージング自体も順調に進んでおり、いわゆるマウスがfree-movingの状態における苔状細胞の活動について、30年度では事前に年間6匹程度から10-15細胞程度の記録を想定していたが、実際には6匹から30以上の苔状細胞の活動を安定して測定・記録することができた。これらの細胞については、オープンフィールドでのマウスの活動時にカルシウムイメージングを行ったが、フィールドの中央部と辺縁部における苔状細胞の活動性の変化など、全体の傾向として概ね一定の方向性を示していることが視される結果を得たことから、今回のカルシウムイメージングについては高い再現性を確認することができたといえる。 以上の結果を踏まえて、30年度の目標であったカルシウムイメージングの基礎的な部分はほぼ確立しており、順調な進捗であると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
30年度に確立した上述の実験方法を用い、今後は下記2つの実験を行うことで、貫通線維刺激後の苔状細胞の活動性に着目することに加え、苔状細胞の活動を選択的に抑制あるいは促進した後に生じるてんかん閾値の変化や顆粒細胞の興奮性の変化を明らかにする ・貫通繊維刺激後の苔状細胞の活動記録:研究分担者の菅谷が既に確立した手法を用い(Sugaya et al., 2013)、苔状細胞選択的GCaMP6発現マウスに対し外科的手技にて貫通線維の角束に刺激電極を固定する。歯状回への主な入力である貫通線維を刺激することによる苔状細胞の興奮性変化について、刺激強度がけいれん閾値を超える場合、超えない場合での苔状細胞の活動の違いをカルシウムイメージングにより比較検討する。これにより、てんかん発作に類似した強い興奮性入力に対する苔状細胞の特徴が明らかにされる。 ・苔状細胞活動抑制後の顆粒細胞の興奮性変化:苔状細胞選択的Cre発現マウスの歯状回へのウイルス注入によって、苔状細胞選択的に抑制性もしくは興奮性DREADDを発現させる。また、同様にAAVベクターを用いてCaMKIIプロモーター下に歯状回の顆粒細胞にGCaMP6fを発現させる。特異的リガンドであるclozapine-N-oxide (CNO)の腹腔内投与により苔状細胞の活動を選択的に調整し、自由行動下やてんかん発作時に生じる顆粒細胞のカルシウムイメージングを行うことで、苔状細胞の活動を選択的に調整した後の顆粒細胞の興奮性の変化をリアルタイムに観察することができる。
|
Causes of Carryover |
カルシウムイメージングが順調に進行したため、物品費については想定していたよりも消耗品の購入額が少なくなった。しかし31年度に施行予定の貫通枝刺激やDREADDを用いた実験は容易ではなく、十分な条件検討を要するため、むしろ想定よりも消耗品の購入が増える可能性が高いことが予想される。以上から、次年度使用額については31年度の電気生理学的、分子生物学的消耗品の費用として使用する計画である。
|