2019 Fiscal Year Research-status Report
癌放射線治療における稀で重篤な正常組織障害発症例のゲノムシーケンス解析
Project/Area Number |
18K07696
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
今井 高志 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, QST病院, 室長(任常) (50183009)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 放射線治療 / 正常組織障害 / 遺伝子多型 / ゲノムシーケンス / 骨代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、これまでに収集した放射線治療を受けた癌症例の中から特に重篤な正常組織障害発症例を選択し、ゲノムワイドなシーケンス解析を進めている。 本年度の解析では子宮頸がんの放射線治療後、照射野に含まれる骨盤の骨折が観られた症例において興味ある遺伝子多型を見出した。 放射線照射は、骨芽細胞数の減少、骨基質合成能の低下を引き起こし、結果として骨形成能を低下させることが知られている。また放射線照射を受けた骨では、骨形成能の低下に加えて血管内皮細胞の障害、血管の栓塞形成による局所の血流減少、骨髄の線維化など一連の障害が起こり、創傷治癒能力が衰弱するとされている。本研究でシーケンス解析した症例では、放射線感受性との関連ではよく知られているトランスフォーミング増殖因子-b(TGFb)とそれを含む骨代謝系の複数の遺伝子にcSNP (coding SNP, コードするタンパク質のアミノ酸を変える多型)を見出した。ひとつひとつのcSNPはヘテロであり1種類の分子としての影響は少ないかもしれないが、骨代謝に結びつく複数の遺伝子産物でアミノ酸変化があることから、パスウエイとして考えると骨代謝に影響を与える可能性がある。即ちこの症例では遺伝的に放射線による骨の創傷治癒能力が他の患者より弱まっていた可能性が考えられる。骨代謝系には多数の遺伝子が関わっているが、それらの多型と機能との関連について詳細に検討することによって重要なリスク多型を絞ることができるかもしれない。将来的には、選択した多型を用いて治療前に放射線照射による骨折リスクの高い患者を予測することができれば、治療法の選択、防護薬を含むリスク軽減方法の提案などが可能になると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で対象としている放射線治療後の正常組織障害の中で、骨折が観られた症例は非常に少なく、統計的解析の対象とすることは難しい。この症例のゲノムシーケンスにより骨代謝に結びつく複数の遺伝子産物でアミノ酸変化があることが分かった。この遺伝子多型の一つは放射線感受性遺伝子として以前からよく知られていたトランスフォーミング増殖因子であったが、他の遺伝子群は当初予想していた遺伝子ではなく、ゲノムシーケンスにより初めて見いだされた放射線による骨折リスク遺伝子候補であり大変興味深い。また、これまで放射線治療後の正常組織障害としての骨折はゲノム解析の対象とされていなかったことからもこのデータは重要である。これらの知見が得られたことから、本研究は順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画に従い、ゲノムシーケンス解析を進めると共に、改めて他の症例についても骨折の有無を調査し直し、今回見つけた遺伝子多型について検討することが必要になったと考えている。
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Causes of Carryover |
解析予定であった症例のDNA品質に問題があったため解析が遅れ、次年度に実施することにしたため消耗品費の一部が未使用となった。次年度の物品費、その他費用に組み入れて使用する予定である。
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