2019 Fiscal Year Research-status Report
視床下部-下垂体-副腎系の成熟特性から探る発育遅延児の疾病と認知障害の同時予防策
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18K07795
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
岩田 幸子 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 助教 (40465711)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 新生児 / 副腎皮質 / 唾液 / 尿 / 発達 / 認知機能 / 下垂体 / 視床 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,在胎週数に比して体格が小さいSmall for gestational age(SGA)児が,成長の様々な過程で比較的高率に発症する疾病を予防するために,その根底にある視床下部‐下垂体‐ 副腎(HPA)系のSGA児に特異的な制御パターンを明らかにすることを目的としている.研究代表者の研究チームである久留米大学病院および名古屋市立大学病院の新生児集中治療室(NICU)に入院した新生児を対象に,非侵襲的バイオマーカー(唾液・尿)を経時採取し,ステロイドプロファイルを評価するとともに,頭部MRIを退院時と1歳6か月時に撮影し, SGA児のHPA系が,生後一過性の亢進,抑制を経て,より 早期の再亢進を認める過程,および,出生時に過成熟した神経系の発達が,髄鞘化が完了する時期に広範性萎縮を来す,という仮説を検証する.当初2施設で同じプロトコルによる研究を補完的に行う予定であったが,久留米大学病院NICUにおける症例リクルートメントが順調なため,予定した70症例はすべて久留米コホートで完了する予定となった,現在リクルートメントと並行して,保存検体のアッセイ,フォローアップでの発達評価及,プレリミナリな解析を進めている.研究成果として,SGA児のコルチゾール分泌が,生直後は亢進気味であるのに対し,生後数週間を経てAGA児に比べて抑制に向かって行くことを横断的データから予見した論文を英文査読誌に(Iwata S et al. PeerJ),また,児の体格や生後の成長と睡眠および母体の抑うつにこれまで知られていなかった相互関係を見出した解析結果(Iwata S et al. Sci Rep.)を英文査読誌に公表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本支援研究初年度に代表者前任施設である久留米大学病院にてパイロット研究およびその解析を終え,2年度には 症例リクルートメントおよび検体採取・MRI撮影を進めている.久留米大学病院NICUにおける症例リクルートメントが順調なため,予定した70症例はすべて久留米コホートで完了し,検体のアッセイ,フォローアップでの発達評価及,プレリミナリな解析を同時並行で進める予定としている.名古屋市立大学では本研究に由来する発展的なリサーチクエスチョン(SGA児において,生体周期およびその確立過程にAGA時と比べて特徴や差異があるか)に答える研究プロトコルを作成し,新たにメラトニン代謝産物(6- sulphatoxy melatonin)および体動周期ロガー(アクチグラフ)を測定項目に組み込んだ測定系を盛り込んだ計画書の倫理審査準備を追加で進めている.久留米大学病院NICUでは,すでにBayley式発達評価法第III版による正確なアセスメントが可能であるが,2年度には名古屋市立大学NICUにおいても,フォローアップ外来におけるBayley式評価ができるよう,テスター2名を育成し,評価キットを整備した.業績の概要に記した通り,初年度の研究成果として,SGA児のコルチゾール分泌が,AGA児に比して,生直後は高値となり,HPA系が亢進気味であることを示唆していたのに対し,生後2-8数週間を経て,AGA児と同等レベルに低下し,後により低値になり,HPA系の亢進から抑制にダイナミックに変化することを発見した(Iwata S et al. PeerJ).生後1か月の健診を訪れた1300組の母子を対象にした研究では,SGAを含めた児への健康不安や体重増加への不安が,母体の睡眠および抑うつスコアを著しく上昇させることを突き止め,英文査読誌に発表した(Iwata S et al. Sci Rep.).
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Strategy for Future Research Activity |
前述のように,久留米大学病院において予定していた症例数のリクルートメントが最終年度内に終了予定であるため,名古屋市立大学病院における同じプロトコルでのリクルートメントは行わない方針とする.久留米コホートにつき,引き続き高いフォローアップ率を維持するために綿密な連絡を徹底しつつ,アウトカムデータを収集して行く.また,新たにリクルートされた症例の入院中に収集した検体について,アッセイを順次行って行く.名古屋市立大学では,本研究結果に基づき,次の段階で実施予定であった研究について,プロトコルを作成し,最終年度前半に開始する予定である.この研究では,SGA児においては,HPA系だけでなく,視交叉上核―松果体―末梢性体内時計の制御においても,AGA児と大きく異なることを示唆するパイロットデータに基づき,概日周期獲得の違いや,接触行動の差異,成長や認知機能の発達に関するSGA児に特有の制御機構を突き止めるデザインとなっている.現在久留米コホートで取得しているデータに加え,メラトニン代謝産物(6- sulphatoxy melatonin)および体動周期ロガー(アクチグラフ)を測定項目に組み込んだ測定系によって,症例リクルートメントを開始できるように,計画書の倫理審査準備を急いでいる.
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Causes of Carryover |
久留米大学病院における症例リクルートメントが順調であったため,予定していた名古屋市立大学病院での設備投資や消耗品購入を大幅に節約することができた.最終年度は,名古屋市立大学において発展型研究を開始するため,2年度に控えていた備品購入(解析用ワークステーションや遠心分離機など)び及消耗品(尿・唾液採取キットおよびアッセイキット)購入を行う予定である.一方,これらの研究は,新型コロナウイルスの流行の影響を強く受ける可能性があり,その状況によっては,研究の一部が4年目に繰り越しした基金によって行われる可能性がある.また,久留米大学・名古屋市立大学双方のチームからのデータ解析や英論文投稿にかかる費用を引き続き支出する.国内外の旅行が可能となった暁には,学術集会発信およ び名古屋・久留米チームのミーティングを実施するため,必要な最低限の旅費を計上する.
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Research Products
(5 results)
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[Journal Article] Visual function scale for identification of infants with low respiratory compliance.2019
Author(s)
Harada E, Kinoshita M, Iwata S, Saikusa M, Tsuda K, Shindou R, Sahashi T, Kato S, Yamada Y, Saitoh S, Iwata O.
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Journal Title
Pediatr Neonatol.
Volume: 60(6)
Pages: 611-616
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Body Temperature, Heart Rate, and Short-Term Outcome of Cooled Infants.2019
Author(s)
Tsuda K, Iwata S, Mukai T, Shibasaki J, Takeuchi A, Ioroi T, Sano H, Yutaka N, Takahashi A, Takenouchi T, Osaga S, Tokuhisa T, Takashima S, Sobajima H, Tamura M, Hosono S, Nabetani M, Iwata O
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Journal Title
Ther Hypothermia Temp Manag.
Volume: 9(1)
Pages: 76-85
DOI
Peer Reviewed / Open Access