2019 Fiscal Year Research-status Report
磁気共鳴分光法を用いた脳内代謝物質による新生児重症仮死の高精度予後予測法の確立
Project/Area Number |
18K07826
|
Research Institution | Iwate Medical University |
Principal Investigator |
赤坂 真奈美 岩手医科大学, 医学部, 講師 (00405797)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
亀井 淳 岩手医科大学, 医学部, 特任准教授 (70275551)
佐々木 真理 岩手医科大学, 医歯薬総合研究所, 教授 (80205864)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 磁気共鳴分光法 / 重症仮死 / 低体温療法 / 脳内神経伝達物質 / 神経発達予後 |
Outline of Annual Research Achievements |
低酸素性虚血性脳症(hypoxic ischemic encephalopathy, HIE)は、新生児の0.1~0.3%に発生し、死亡や脳性麻痺の主原因となるため、予防や早期対策は重要である。近年、重症仮死に対して低体温療法(therapeutic hypothermia,TH)などの治療の取り組みがなされているが、有効性の客観的指標や神経学的予後を予測する方法は確立していない。本研究では、重症仮死児(TH群、非施行群)を対象に、生後12か月までの前方視的・経時的な磁気共鳴分光法(magnetic resonance spectroscopy, MRS) による脳内代謝物:gamma aminobutyric acid(GABA)、N-acetyl aspartate(NAA)、glutamate-glutamine complex(Glx)、creatine(Cr)、choline (Cho)、myo-inositol(Ins)、Lactate(Lac)の測定と神経学的評価を行い、生後12か月の発達を、正常群、軽度~中等度遅滞群、重度遅滞群に分類して、脳内代謝物質との関連を検討し、MRSによる重症仮死の神経学的予後の予測マーカーを確立することが目的である。 我々は過去に当院NICUに入院した早産児にMRSを施行し、正常基準値をすでに設定している。2019年度はこの基準値を用い、重症仮死児の出生早期のMRSデータを比較した。対象の重症仮死児は9人(TH群5例、非施行群4例)で、それぞれのデータを中央値で比較した。GABA/CrはTH群で低値、Glx/CrはTH群・非施行群で高値、Ins/CrはTH群・非施行群が低値、Lac/Crは非施行群のみ高値であった。重症仮死児で見られた、Glx/CrとLac/Crの高値、Ins/Cr低値は、TH群よりも非施行群で明らかであった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
重症仮死児のMRSは、生後早期のNAA低値、GlxとLacの高値が予後不良予測因子であることは過去に報告されているが、その後の経時的変化やGABA、Insについての報告は少ない。2019年度は重症仮死の対象を増やし、MRSを生後6か月まで施行し、GABAとInsを含めた脳内代謝物の経時的な変化を解析した。当院NICUに入院した早産児で、修正12か月まで正常発達であった11人の修正37―46週(Ⅰ期)と、修正64―73週(Ⅱ期)のMRSデータを基準値(A群)とした。対象は重症仮死14人(TH群9人、非施行群5人)であった。Ⅱ期に発達評価を行い、遅滞無が10人(B群)、有は4人(C群)であった。右基底核に関心領域を置き、脳内代謝物を測定し、LC Modelで解析し、B・C群のデータをA群と比較した。CrとChoはⅠ期C群で有意に低値であったため、代謝物は生データ、Cr比、Cho比のすべてについて中央値で解析した。A群とB・C群のMRS施行週数に有意差はなかった。3群のGABAはⅠ期では有意差がなかったがⅡ期C群のみ低値、NAAはⅠ・Ⅱ期ともにC群のみ低値、LacはⅠ期C群のみ高値、GlxはⅠ期B・C群ともに高値だがC群はより高値、InsはⅠ期B・C群ともに低値だがC群はより低値で、Ⅱ期はC群のみ高値であった。重症仮死で遅滞有C群の、Ⅰ・Ⅱ期のNAA低値、Ⅰ期のCr・Cho低値、Glx・Lac高値は、既知の報告と一致していた。C群のGABAは、Ⅱ期のみ低値、InsはⅠ期で低値であるがⅡ期では高値となり、A・B群とは明らかに経時的な変化が異なっていた。Ⅱ期のGABA低値はGABA介在神経細胞障害を、Ins高値はグリオーシスを反映すると考えられるが、このような経時的変化の報告は過去になく、2020年度はさらに症例を増やし、MRSと発達を生後12か月まで経時的に観察する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
新生児のMRS施行および脳内代謝物の測定に関する手法は確立しており、2019年度の対象児14例が、2020年度は全例が生後12か月を過ぎるため、経時的な代謝物の変化および発達評価を行い、さらに検討する予定である。その結果は、2020年10月栃木で行われる第15回小児放射線研究会および同年11月に盛岡で行われる第26回日本小児神経学会東北地方会で発表し、さらに英語論文を作成する予定である。
|
Causes of Carryover |
昨年度中に購入予定であった統計解析ソフトを購入しなかったため、使用額に残が生じたが、今年度は研究課題の最終年であるため、データ処理や解析を行うためのデータ解析ソフトを購入する。さらに今年度は症例が増えるため、画像保存用の暗号化USBや、経時的な発達評価表の購入を予定している。昨今のCOVID-19感染症の世界的蔓延に伴い、本年7月に予定されていた演題登録済の第65回日本新生児成育医学会・学術集会は中止となり、さらに海外発表も可能かどうか不明であるため、2020年10月に栃木で行われる第15回小児放射線研究会および同年11月に盛岡で行われる第26回日本小児神経学会東北地方会で成果発表を行うとともに、英語論文を作成する予定であり、英語校正費、論文投稿費が必要である。
|