2019 Fiscal Year Research-status Report
肝線維化および肝発がんにおけるTLL1-TGFβ相互活性化機構の解明
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18K07915
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
堤 進 (浜田進) 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 研究員 (30367693)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松浦 健太郎 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 講師 (30580576)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | TLL1 / 肝発がん / メタロプロテアーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトTLL1遺伝子内多型rs17047200はC型肝炎排除後の肝発がんを予測する遺伝因子として同定された。TLL1は分泌型メタロプロテアーゼをコードし、そのN末端側はプロテアーゼ活性ドメイン、C末端側ドメインは基質結合および活性調節領の機能を有する。興味深いことに、rs17047200の多型A/Tのうち発がんに関連するリスクアレルT保因者ではC末端側を欠失したタンパクをコードする短いmRNA (short variant)の発現が有意に上昇していた。したがって、リスクアレル保因者における発がんにこのshort variantが関連する可能性が考えられた。そこで本年度はTLL1 short variantの同定と機能解析を行った。 TLL1には全長(1,014アミノ酸)をコードするvariant 1に加え、C末端側ドメインの大部分を欠失したタンパク(392アミノ酸)をコードする短いmRNA (variant 2)が報告されている。しかしこのvariant 2は極めて発現量が低いため、リスクアレル保因者で高発現しているshort variantではない可能性が高い。そこで我々は肝星細胞株LX-2由来RNAを用いてRNAseq解析を行い、未同定の転写産物を検索した結果、C末端側ドメインを欠失した2種類の転写産物(variant 3および4)が新たに同定された。Variant 3 mRNAは13塩基延長したexon 7を持ち、それ以降のコドンがフレームシフトするためにexon 8内に出現した終始コドンまでの302アミノ酸の分子をコードする。Variant 4はexon 9の下流で終結する短いmRNAであり、418アミノ酸の分子をコードする。これらのvariantがコードする短いTLL1分子の機能を探るためそれぞれ強制発現ベクターを構築し、メタロプロテアーゼ活性 (既知のTLL1基質であるChordinの切断活性) を測定した。その結果、variant 1がコードする全長TLL1はChordin切断活性を示したが、variant 2、3、および4がコードする短いTLL1分子はいずれもChordin切断活性がなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
TLL1の基質としてTGFβ活性化を制御するLTBP1が知られていたことから、当初の想定ではTLL1はTGFβの活性化を介した肝繊維化を促進することにより発がんに寄与すると考えていた。しかし、肝星細胞や肝細胞におけるTLL1の発現は24時間以内の一過性であること(2018年度実績)からTLL1は長期に慢性的に進行する肝繊維化に関連することは考えにくい。またrs17047200によってメタロプロテアーゼ活性を有しない短いTLL1分子が増加すること(2019年度実績)から、当初の想定とは逆にTLL1はがん抑制遺伝子として機能する可能性が高まった。現在のところ、TLL1の実際の機能を推定する手がかりが不足しているため研究が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
rs17047200リスクアレル保因者ではメタロプロテアーゼ活性を失った短いTLL1分子が増加することを明らかにした。一方、ヒト骨肉腫細胞株を用いた研究により、発がんに関わる炎症プロモーターであるANGPTL2をTLL1が切断することから、TLL1はがん抑制遺伝子として機能することが報告されていた。以上を踏まえると、rs17047200リスクアレル保因者ではメタルプロテアーゼ活性を失った短いTLL1分子が増加した結果、何らかの発がんプロモーターが増加した可能性を現在想定している。 メタロプロテアーゼであるTLL1の基質は初期発生に関連するChrodinや細胞外マトリックス成分であるコラーゲン前駆体などが知られているが、肝発がんの過程で標的となる基質は不明である。今後、肝細胞、肝星細部および血管内皮細胞を材料としてプロテオーム解析を行い、発がんに関連するTLL1標的基質の同定を行う必要がある。
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Causes of Carryover |
2019年度は主にTLL1転写産物の解析を行った。RT-PCRや発現ベクターの構築、RNA合成などin vitroの実験が中心であったため使用金額が予定より減少した。2019年度当初予定していたプロテオーム解析は実験計画の変更により行えなかったため、2020年度に行う予定である。また次年度使用額はTLL1導入細胞で変動する遺伝子を探索するためのRNAseq解析などの委託実験へ支払う予定である。
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