2019 Fiscal Year Research-status Report
癌初代培養CTOS法を用いた、大腸癌新規治療とバイオマーカー同時開発の基盤確立
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18K07926
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
近藤 純平 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (80624593)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井上 正宏 京都大学, 医学研究科, 特定教授 (10342990)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 大腸癌 / BMP / MEK阻害 / 併用療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
多数の大腸がんCTOSラインを用いたBMP阻害剤感受性試験により、感受性症例の詳細な分布が明らかとなった。BMP阻害剤への感受性は、明らかな感受性例/耐性例の2群に分類されるのではなく、そのIC50はむしろ正規分布に近い分布を示した。BMP阻害剤に対し比較的効果が弱い群では、BMPR/SMAD経路の恒常的な不活性状態や、BMPリガンドのautocrineの欠損など、多様な機序がその原因となっていた。またBMP阻害剤感受性例の多くでは、BMP阻害によるMEK/ERK経路の抑制がみられた。BMP阻害剤と併用効果のある薬剤としては、cetuximabよりもMEK阻害剤において、より強い効果が認められた。現在、併用効果をもたらす分子機序およびバイオマーカー開発に向け、マウス移植腫瘍を用いた治療実験を行っている。 さらに、大腸がんにおけるBMP経路と深い関連のあるシグナル経路として、候補Xが見つかった。本標的経路Xは、正常上皮のオルガノイドに対してBMPが持つ幹細胞性良抑制能を解除する分子のスクリーニングにより見出された。本来正常上皮細胞が持つ性質である「BMPによって増殖・幹細胞性が抑制される」をがん細胞が回避している機序としてこのシグナル経路Xの異常活性化が重要である。経路Xの異常活性はAPC変異などによるWnt活性化によりもたらされ、これが多くの大腸がん症例でBMPを増殖に有利に利用している機序の一つと考えられる。今後、シグナル経路Xの阻害を併用した大腸がん治療法の開発の可能性も探る予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
BMP阻害剤への感受性について、CTOSライン間での多様性を顕在化させるには、培養条件の最適化が必要であった。本年度の研究により、再現性をもって定量化できる最適な培養条件(液体培地組成)に到達した。この培養条件は、BMP阻害剤のみならずMEK阻害剤に対する感受性の多様性も鋭敏に検出することができ、併用療法の効果判定にも威力を示す。シグナル経路の評価の結果、BMP阻害剤により増殖が抑制される機序・されない機序については、単一の因子により規定されるのではなく、複数の機序が存在することが明らかとなった。比較的頻度の高いSMAD4変異だけでなく、それ以外の原因によるBMPR/SMAD経路の恒常的な不活性状態や、BMPリガンドのautocrineの欠損などがBMP阻害剤不応の原因として観察された。また、BMP阻害による増殖抑制についても、これまでに報告のない新しい機序によるMEK抑制を介していることがあきらかになりつつある。 加えて、新しい併用療法標的候補として、シグナル経路Xを明らかした。シグナル経路Xの異常活性は未知の機序により、多くの大腸がん症例の原因となるWntシグナルの恒常的活性としてもたらされる。この発見は、大腸がん発がんの機序、新規治療法の開発など、多方面において有用となると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
マウス移植腫瘍に対する治療実験をすすめ、in vivoでのBMP阻害剤併用療法の効果とin vitroでの感受性試験の相関を検討する。前述のように、BMP阻害剤に対する反応の多様性には様々な機序が関与するため、単一のバイオマーカーを確立するのは困難であると予測される。このため、複数の因子(遺伝子およびタンパク発現、遺伝子変異)を複合した判定を行う必要があると考えられるが、in vitroでの感受性試験が機能的バイオマーカーとして有効なのであれば、それを採用することが現実的な可能性もある。今後、両方の可能性を吟味しつつ最も有用なバイオマーカーの確立を目指す。 一方、「BMP阻害剤不応症例」には、そもそもBMPを生存に有利に用いることができていない症例があり、このような症例では、逆にシグナル経路Xの阻害とBMPの活性化ががん細胞の増殖抑制につながる可能性がある。またシグナル経路Xの生理的機能は多岐にわたるため、高容量で阻害を行うと正常細胞への影響が経年される一方、様々な薬剤との併用により低用量での抗腫瘍効果がもたらされる可能性もある。今後、既存の分子標的治療薬を含め併用薬剤の候補を探索し、新規治療法の開発につなげる。
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Causes of Carryover |
ほぼ予定通り使用できている。繰り越し分は、翌年度分の細胞培養試薬購入に充てる。
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