2018 Fiscal Year Research-status Report
An anticancer strategy of genes driven by KRAS-activating mutations
Project/Area Number |
18K07957
|
Research Institution | Shizuoka Cancer Center Research Institute |
Principal Investigator |
大浪 俊平 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, 主任研究員 (60291142)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | KRAS / colon cancer / whole exsome sequencing |
Outline of Annual Research Achievements |
KRAS遺伝子変異は、がんドライバー遺伝子として多くのがん組織で検出され、特に大腸がんでは頻度が高い。したがってKRASを標的にした分子標的薬が開発されれば、その恩恵を受ける患者さんは膨大な数に上る。大腸がんでは、抗EGFR抗体薬が分子標的薬として承認されているが、KRAS野生型症例、という条件が付く。したがって大腸がん患者の約半数を占めるKRAS変異を持つ患者には、利益(延命効果や縮小効果、等)が得られない。KRAS遺伝子は細胞内シグナルネットワークの中心分子で、KRASを直接標的とする薬剤は体内で他のタンパク質と予期せぬ反応を示し、がん細胞の増殖に有利な条件を獲得する可能性も指摘されていることから、KRAS変異の下流で機能するシグナル経路に的を絞って治療薬開発を進める。しかしながら、日本人がん患者におけるRASシグナル経路の遺伝子変異や遺伝子発現の異常を同時に網羅的に解析した体系的な研究が不足している。2018年度においては、大腸がん906例について、全エクソン領域のシークエンシング(WES)およびがん関連409遺伝子を対象としたディープシークエンシング(CCP)を行い、同時に網羅的遺伝子発現解析を行った。KRAS変異は、大腸がんの41.0%(372/906)に認め、WESとCCPの一致率は91.4%であった。コドン12の変異は64.5%と最も高く、次いでコドン13(20.2%)、146(8.1%)、61(2.7%)、117(2.7%)、59(1.1%)、22(0.8%)の順であった。KRAS野生型大腸がん534症例では、変異型症例に比較してBRAF、PIK3CG、PIK3CDやNRAS変異の頻度が高かった。既報のRASシグナル経路に含まれる遺伝子を含む体細胞変異および網羅的遺伝子発現解析結果を基盤として、KRAS変異大腸がんに対する有効な治療薬を開発する意義は高い。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大腸がんにおける網羅的体細胞変異および遺伝子発現解析によって、約半数の症例においてKRAS変異が認められ、KRAS変異症例においてはPIK3CA変異の頻度が最も高かった(23.1%)。一方、KRAS野生型では、KRAS変異型に比較してBRAF、PIK3CG、PIK3CDおよびNRAS変異の頻度が高く、RALGDSの変異は野生型のみに認められた。KRAS変異型では、RAS遺伝子シグナル伝達経路関連遺伝子の内、CCND1、DUSP2、DUSP4、RAC2、 RAC3、SPRY4、RALGDS、RASAL1および転写因子ETS2、JUN、ELK1の発現上昇を認め、これらの遺伝子がKRAS変異大腸がんの創薬の標的となる可能性を示した(第77回日本癌学会発表-2018年)。次に、大腸がんにおいて最も頻度の高いKRASコドン12変異によって制御される新規のより特異的な創薬ターゲットを同定する目的で、KRAS G12変異症例(n=240)とKRAS野生型症例(n=390)を対象として、両者の間で最も発現差を示す遺伝子を探索した。KRAS野生型は、RASシグナル伝達経路に影響を与えると考えられるPIK3CA、PIK3CD、PIK3CGG、RALGDS、RGL1-3、BRAF、ARAF、RAF1およびHRAS、NRASに変異を有する症例は解析から除外した。野生型と比較してG12変異型において2倍以上(かつBenjamini-Hochberg P=1E-07>)の発現差を示す遺伝子は53遺伝子であった。53遺伝子のうち4遺伝子(RASAL1、RHOBTB3、 DUSP4、DUSP6)は、既知のKRASシグナル伝達経路の下流遺伝子であった。新たに形質転換や細胞増殖、浸潤に関わるがん遺伝子様の機能を持つ12の候補遺伝子を同定し、KRAS変異を有する大腸がんに対する治療薬の開発を順調に進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
大腸がんにおけるKRASコドン12の変異は、G12Dが最も頻度が高く、次いでG12V, G12C, G12A, G12S, G12Rの順であった。これら6種類のKRAS変異体蛋白質発現プラスミドを作成した。これらの変異体を正常ヒト細胞株や大腸がん細胞株に遺伝子導入し、前年度に同定したKRAS変異によって制御されている可能性のある12の候補遺伝子について、KRASコドン12変異体の種類により、その遺伝子発現や細胞増殖の促進能に差異があるのか否か明らかにし、KRAS変異をもつ大腸がんの創薬ターゲットの標的遺伝子を絞り込む。一方、KRASコドン12変異体蛋白質発現プラスミドに加え、コドン13、61、117、146、22、59の変異体蛋白質発現プラスミドを作成し、コドン12変異体導入細胞株の遺伝子発現との差異について調べる。特に、大腸がんにおいて頻度の低いコドン22と59の変異については、その形質転換や増殖、浸潤能を中心に網羅的に調べる。以上の結果を基盤として、KRAS変異有無の大腸がん細胞株に、最終的に選択された候補遺伝子のcDNAを組み込んだ蛋白質発現プラスミドを個別に過剰発現、あるいは翻訳制御等の方法でその機能的意義を明らかにする。これらのインビトロの成果をもとに、大腸発がん動物モデルで検証しKRAS変異を有する大腸がんに対する治療薬の開発を目指すが、動物モデルに対する検証は資金不足の可能性があり、その際には新たな研究費を確保した時点で実施する。
|
Causes of Carryover |
正常細胞株およびがん細胞株へのKRAS変異体プラスミドの遺伝子導入の最適条件設定の遅延により、一部の遺伝子導入試薬や細胞培養試薬の購入が翌年度に繰り越されることになった。計上する予定の試薬等の物品は、翌年度予算に計上する(296,619円)。 翌年度に計画している主な研究項目と研究経費は次のものである。引き続き、KRASコドン12変異体蛋白質発現プラスミドに加え、大腸がん患者において検出されたコドン13、22、59、61、117のKRAS変異体蛋白質発現プラスミドを作成する。これらのKRAS変異体を正常ヒト細胞株や大腸がん細胞株に導入し、当該年度に同定した12候補遺伝子の再バリデーションを行う。最終的に選択された創薬ターゲット候補遺伝子に対する蛋白質発現プラスミドを構築し、大腸がん細胞株への過剰発現あるいは翻訳制御等などの方法でその機能的意義を明らかにする。以上の研究計画に対して、①変異蛋白質発現プラスミド作成のための変異導入試薬②ヒト細胞株への変異体導入トランスフェクション試薬および細胞培養関連試薬③遺伝子発現解析試薬および遺伝子発現定量のためのリアルタイムPCR試薬④KRAS変異体のタンパク質定量・検出試薬⑤網羅的遺伝子発現およびデータ解析のための分析ソフト⑥動物モデルに対する検証のための器具・試薬⑦これらの研究により得られた成果公表のための関連学会等の旅費・参加費を研究予算に計上する。
|
Research Products
(1 results)