2020 Fiscal Year Research-status Report
NASH発症過程におけるリン脂質の産生および転移による脂肪滴形成促進の分子機構
Project/Area Number |
18K07982
|
Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
伊藤 雅方 東邦大学, 医学部, 講師 (20459811)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 肝炎 / 肝臓 / 脂肪肝 / 脂肪滴 / 脂質 / ホスファチジルコリン / NAFLD / NASH |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、肥満人口の増加にともない非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease; NAFLD)及びNAFLDが進行した非アルコール性脂肪性肝炎 (Non-alcoholic steatohepatitis; NASH) が増加傾向にある。NASHは肝硬変・肝癌へと進行する。そのため、NAFLD/NASHの予防法や診断法の確立が急務である。 NAFLDは肝細胞に過度な中性脂肪(TG)が蓄積した状態であり、TGは脂肪滴の内部に包まれている。脂肪滴表面の脂質一重膜はホスファチジルコリン(PC) がその大部分を占める。そこで、肝細胞における脂肪滴形成機構の解明を目指し、PCを脂質膜間で転移させる活性を有するSTARD10 (Steroidogenic acute regulatory protein-related lipid transfer domain containing 10)とLands’ 経路でPC産生を担うリゾPCアシル基転移酵素であるLPCAT1 (lysophosphatidylcholine acyltransferase 1)に着目した。マウス肝癌由来細胞株Hepa1-6にLPCAT1を過剰発現させると比較的小さい脂肪滴の割合が増加し、STARD10及びLPCAT1の共発現で大きい脂肪滴の割合が増加した。そのためSTARD10とLPCAT1とが協調して脂肪滴のsurface-to-volume ratioを調節し、脂肪滴形成を促進すると考えられた。さらにStard10及びLpcat1の遺伝子欠損マウスでは肝細胞に脂肪滴が蓄積しにくい傾向があったがアデノウイルスベクターを用いLpcat1遺伝子を過剰発現させると肝細胞に脂肪滴が増加した。そのため、LPCAT1とSTARD10の脂肪滴形成促進機構の存在が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「肝細胞においてホスファチジルコリン(PC)産生酵素であるLPCAT1とPC転移タンパク質であるSTARD10とが協調して脂肪滴サイズを制御する」という仮説を検証 することを目的に研究を遂行しているが、培養細胞系の実験においてSTARD10とLPCAT1の協調作用で大きな脂肪滴が形成されうること、遺伝子欠損マウスの解析と遺伝子欠損マウスへの遺伝子発現ベクター導入の実験により肝臓での脂肪滴形成と脂肪蓄積にSTARD10とLPCAT1が関与していることが裏付けられている。脂肪滴形成の分子機構がリン脂質の産生と転移とい う新たな観点から解明されつつあるため、おおむね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の結果、培養細胞系の実験においてSTARD10とLPCAT1の協調作用で大きな脂肪滴が形成されうること、Stard10遺伝子欠損マウス(Stard10-/-マウス)及び Lpcat1遺伝子欠損マウス(Lpcat1-/-マウス)が高脂肪食負荷およびコリン欠乏飼料による肝臓への脂肪蓄積が起こりにくいこと、さらに両遺伝子欠損マウスでは その傾向が強まることが示された。さらに、コリン欠乏飼料によりNASHを誘導してStard10-/-マウス及びLpcat1-/-マウスの肝臓の脂肪滴の形状を脂肪滴染色蛍光試薬および共焦点レーザー顕微鏡を用いて3次元画像を取得することで詳細に解析し、野生型マウスとの比較を行った結果、Stard10-/-マウス及びLpcat1-/-マウスでは脂肪滴の球形度が小さくなる傾向があることが示された。これは脂肪滴内の中性脂肪と脂肪滴表面を覆うリン脂質の割合(surface-to-volume ratio)が 変化し、リン脂質の比率が大きくなっていることを示している。また、Stard10-/-マウスとLpcat1-/-マウスの交配によって得られたダブルノックアウトマウス においてはその傾向が強まった。さらに、野生型マウス、Stard10-/-マウス、 Lpcat1-/-マウス、両遺伝子の欠損マウスにアデノウイルスベクターを用いてLpcat1遺伝子を肝臓に過剰発現させると肝細胞への脂肪滴蓄積が増加したものの、Stard10遺伝子が欠損している場合はその程度が小さいことが明らかになった。今後は脂肪滴の3D画像解析を行うことでSTARD10とLPCAT1によるリン脂質の産生と転移が脂肪滴のsurface-to-volume ratio にどのように影響を与えるか明らかにする。そのことでNASHの発症過程におけるリン脂質転移タンパク質とリン脂質産生酵素の役割を示す。
|
Causes of Carryover |
(理由) 緊急事態宣言に伴う在宅勤務等のため当初行う実験等が次年度にずれこんだため。 (使用計画) 当初の計画に合わせて使用する。
|
Research Products
(1 results)