2019 Fiscal Year Research-status Report
非アルコール性脂肪肝炎発症・進展機序における迷走神経肝臓枝の役割についての検討
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18K08014
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
寺谷 俊昭 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任講師 (40624408)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 非アルコール性脂肪肝炎 / 肝臓線維化 / 肝星細胞 / 副交感神経 / 迷走神経 |
Outline of Annual Research Achievements |
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症を背景とした、肝臓における生活習慣病の表現型である。NASHは、肝硬変、ひいては肝細胞癌に進行する疾患であり、NASH患者が急増する我が国において、NASH病態発症・進展機序の解明/NASHの治療法・予防法の確立は、早急に取り組むべき課題と言える。近年、全身の代謝機能維持における「肝脳相関」の重要性が示されている。肝臓は、全身のエネルギー状態のセンサーとして機能し、肝臓のエネルギー蓄積情報は迷走神経肝臓枝を通じて脳に伝播する。そして、脳からエネルギー消費指令が、末梢組織に伝達され、末梢組織の代謝が亢進される。しかし、NASH病態発症・進展機序における「肝脳相関」の役割は未だに解明されていない。加えて、肝臓構成細胞が肝臓神経活動にどのように関わっているのか不明な点が多い。上記の疑問点を解決するために、外科的手法もしくは遺伝子改変技術を用いてマウス迷走神経肝臓枝を遮断し、NASH病態発症・進展における「肝脳相関」の役割を明らかとすることを目的として本研究課題に取り組む。 上記に課題に対する本年度の取り組みは、既存データベースを利用して肝星細胞に発現している神経伝達物質受容体を解析した。肝星細胞は、ムスカリン型アセチルコリン受容体サブタイプM2(mAchR2)が顕著に発現していたが、その他の肝臓構成細胞においては、mAchR2の発現を認めなかった。肝線維化病態形成におけるmAchR2の役割を評価するため、mAhcR2欠損マウスを用いて検討を行った。四塩化炭素もしくはメチオニン-コリン欠乏食を与えると肝臓内に線維化病態が形成されるが、いずれの肝臓線維化病態も野生型マウスに比べmAchR2欠損マウスで増悪していた。肝星細胞のムスカリンシグナルは肝線維化病態に対して抑制的に作用することが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的は、肝臓-脳連関における肝星細胞の役割である。肝臓と脳を結ぶ神経回路は、主にnodose ganglionを経由する迷走神経回路とdorsal root ganglionを経由する神経回路とされる。これまでの検討において、副交感神経線維で構成される迷走神経は肝臓線維化病態形成に抑制的に働くことが知られてきた。一方で、我々が病態モデル動物で検討した結果とオープンアクセスとなっているデータベースを利用することで、肝臓においてムスカリン型アセチルコリン受容体サブタイプM2(mAchR2)が肝星細胞で著名に発現していることが明らかとなった。さらに、肝星細胞に発現するmAchR2はNASHおよび肝臓線維化病態に対し抑制的に働くことが明らかとなった。これらの知見より、脳からの伝達が、迷走神経を通じて肝臓に伝播して、肝星細胞のmAchR2を介して肝臓線維化病態に対して抑制的に働くと考えられ、さらに、肝臓-脳連関において肝星細胞が重要な役割を担うことが想定された。
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Strategy for Future Research Activity |
ウイルス肝炎および非アルコール性脂肪肝炎は、肝臓に線維化病態を引き起こし肝硬変へと進展する。肝硬変は難治性かつ非可逆的な病態とされ肝細胞癌や肝不全へと至る重篤な疾患である。肝硬変の治療法は未だで限定的であり有効な手段が見つかっていない。そこで本年度は、新規肝臓線維化病態の治療法の確立に向けて、肝星細胞のムスカリンシグナルの可能性を検討する。具体的には、四塩化炭素誘導性肝線維化モデルおよび食餌性NASHモデルマウスにムスカリンアゴニストもしくはアンタゴニストを投与し、肝線維化病態の変化を精査する。さらにビタミンA修飾したリポソームを用いて、肝星細胞特的にムスカリンシグナルを損失させて、ムスカリンアゴニスト投与による肝臓線維化改善効果の有無についても同時に検討を行う。さらに肝星細胞のムスカリンシグナルが欠損した際の大腸、膵臓、肺、腎臓の変化についても検証を行う。
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Causes of Carryover |
前年度までに得られた実験結果より実験計画を見直した。肝臓においてムスカリン型アセチルコリン受容体サブタイプ2(mAchR2)は肝星細胞に特異的に発現していることが我々の検討および既報のデータベースが明らかとなった。当初の実験計画ではコンディションノックアウトマウスを用いて肝星細胞特定的に神経伝達関連遺伝子を欠損させる予定であったが、mAchR2欠損マウスを用いることで動物実験に用いる動物数を削減することにした。そのため、実験に必要となるマウス数の削減に加えて、遺伝型の確認作業などに用いる試薬の削減に繋がった。 本年度の実験目的は、新規肝臓線維化治療法確立に向けて、肝星細胞特異的なドラックデリバリーシステムを用いた検討を実施することとしており、次年度使用額はそれら実験に必要な試薬代に充当する予定である。
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[Journal Article] Indigo naturalis is effective even in treatment-refractory patients with ulcerative colitis: a post hoc analysis from the INDIGO study.2020
Author(s)
Naganuma M, Sugimoto S, Fukuda T, Mitsuyama K, Kobayashi T, Yoshimura N, Ohi H, Tanaka S, Andoh A, Ohmiya N, Saigusa K, Yamamoto T, Morohoshi Y, Ichikawa H, Matsuoka K, Hisamatsu T, Watanabe K, Mizuno S, Abe T, Suzuki Y, Kanai T; INDIGO Study Group.
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Journal Title
J Gastroenterol.
Volume: 55
Pages: 169-180
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Lipoprotein Lipase Up-regulation in Hepatic Stellate Cells Exacerbates Liver Fibrosis in Nonalcoholic Steatohepatitis in Mice.2019
Author(s)
Teratani T, Tomita K, Furuhashi H, Sugihara N, Higashiyama M, Nishikawa M, Irie R, Takajo T, Wada A, Horiuchi K, Inaba K, Hanawa Y, Shibuya N, Okada Y, Kurihara C, Nishii S, Mizoguchi A, Hozumi H, Watanabe C, Komoto S, Nagao S, Yamamoto J, Miura S, Hokari R, Kanai T.
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Journal Title
Hepatol Commun.
Volume: 6
Pages: 1098-1112
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Plasmacytoid dendritic cells protect against immune-mediated acute liver injury via IL-35.2019
Author(s)
Koda Y, Nakamoto N, Chu PS, Ugamura A, Mikami Y, Teratani T, Tsujikawa H, Shiba S, Taniki N, Sujino T, Miyamoto K, Suzuki T, Yamaguchi A, Morikawa R, Sato K, Sakamoto M, Yoshimoto T, Kanai T.
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Journal Title
J Clin Invest.
Volume: 129
Pages: 3201-3213
DOI