2018 Fiscal Year Research-status Report
ケトン体代謝に着目した糖尿病性腎症の病態解明ならびに新規治療戦略の探索
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18K08241
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Research Institution | Shiga University of Medical Science |
Principal Investigator |
久米 真司 滋賀医科大学, 医学部, 助教 (00452235)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 糖尿病性腎症 / 糖尿病性腎臓病 / ケトン体 / 腎機能低下 / SGLT2阻害薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、主に遺伝子改変マウスならびに薬剤を用いた動物実験により、難治性腎症の病態形成におけるケトン体の重要性、血中ケトン体濃度維持を標的とした新規腎症治療の可能性を探索することを研究全体の目的としている。 本年度行った実験の背景と結果を以下に示す。糖尿病性腎臓病において、蛋白尿を有さない早期腎機能低下に対する治療法の開発が望まれている。近年、SGLT2阻害薬による腎保護効果に、血中ケトン体上昇に伴う組織内エネルギー代謝の改善が寄与している可能性が示唆されているが、その詳細は不明である。本研究では、動脈硬化のモデルマウスであるApoE欠損マウスに高脂肪食負荷を加えた肥満2型糖尿病モデル (HFD-ApoE-KO)を作成し、肝臓でβ-ヒドロキシ酪酸に変換されるケトン体前駆物質である1,3-ブタンジオール(1,3-BD)の経口投与による腎保護効果を検証した。通常食飼育の野生型マウスに比し、HFD-ApoE-KOマウスは、尿中アルブミン排泄増加を伴わない血清シスタチンCの上昇を認めた。またHFD-ApoE-KOマウスでは、腎組織内ATP含量の低下、腎間質でのF4/80陽性細胞数とフィブロネクチン沈着の増加が確認された。一方、経口1,3-BD投与により血中ケトン体濃度は有意に上昇し、HFD-ApoE-KOマウスの腎病変は全て改善した。 本研究により、ケトン体による腎へのエネルギー供給が、糖尿病に伴う動脈硬化に起因した早期腎機能低下に対する治療戦略となる可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画した実験内容を遂行し、仮説に見合った結果を得ている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は主に、遺伝子改変マウスを用いて、腎のケトン体利用低下が難治性腎症モデルマウスの腎障害に及ぼす影響を検証する。1,3ブタンジオール投与が腎症改善効果を示した際には、腎局所のケトン体取り込みが腎症改善効果に関与したかを検討する。Scot遺伝子は細胞内へのケトン体取り込みに不可欠な遺伝子であるが、興味深いことに、我々の使用する2つの腎症モデルマウスでは共に腎でのScot発現が増強している。この結果は、障害腎ではケトン利用が亢進している可能性も示唆している。そこで、Scot-floxマウスとポドサイト特異的Creマウス、あるいは近位尿細管特異的Creマウスを用い、ポドサイト特異的、近位尿細管特異的Scot-KOマウスを作製し、血中ケトン体上昇による腎症改善効果がKOマウスで消失するかを確認し、糖尿病における腎Scot発現上昇の意義、腎症改善における腎局所でのケトン体利用の意義を検証する。 また、細胞実験を用いてケトン体による腎保護効果の分子機構を明らかとする。ケトン体(β-OHB)添加が、低酸素、高血糖、高脂肪酸といった腎症病態に関連する刺激による細胞障害を有意に抑制することを確認できている。この実験系を用い、ケトン体による細胞障害抑制機構の解明をおこなう。また、これまでの動物実験の腎検体を用い、メタボローム解析を行い、ケトン体代謝と腎内代謝との関連を明らかとし、より安全な腎症治療探索研究の発展を目指す。
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Research Products
(2 results)