2019 Fiscal Year Research-status Report
プラズマ照射液/NOxドナーによるメラノーマ治療の基礎研究
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18K08279
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
落合 豊子 日本大学, 医学部, 教授 (40133425)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 良弘 一般社団法人プラズマ化学生物学研究所, 研究部, 代表理事 (80206549)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 低温大気圧プラズマ照射液 / メラノーマ / 細胞死 / 一酸化窒素 / ミトコンドリア |
Outline of Annual Research Achievements |
低温大気圧プラズマ照射液(PSM)内にNOx(NO2- およびNO3-)が産生されるかどうかを知るためにこれらの濃度をGriess法によって測定した。その結果、低温大気圧プラズマの照射時間に比例してこれらのNOxが産生されることがわかった(例 照射時間1分/5 mL輸液剤ではNO2-: 81μM, NO3-:20μM;1分/5 mL輸液剤ではNO2-: 1253 μM, NO3-:461μM)。これに対してH2O2濃度はそれぞれ8.4および 124 μMであり、PSMは、H2O2だけではなくその約10倍濃度のNO2-を含むことが明らかとなった。さらに、mMオーダーのNO2-の添加によって細胞内NOが有意に上昇した。次にNOxのミトコンドリアダイナミクス調節における関与を検討した。H2O2やNO2-の細胞外からの添加によってミトコンドリアの分裂が促進された。同様の結果は細胞内でNOを産生させるNOドナーNOR-3の添加でも認められた。これに対して、細胞内NO消去剤carboxy-PTIOの添加によって、ミトコンドリアの分裂が阻害されてミトコンドリアの過剰融合が観察された。これらの知見から、PSM内のH2O2とNO2-によって細胞内に産生されたNOがミトコンドリアの分裂に関与している可能性が考えられた。次に細胞内NO産生の分子メカニズムについて検討した。テトラハイドロビオプテリン(BH4)の競合阻害剤アミノ化BH4がNO産生を有意に減少すること、PSMが細胞内カルシウム濃度を増加させることから、BH4ならびにカルシウムが活性化に必須な内皮型NO合成酵素(eNOS)の関与が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の研究成果として、PSM(低温大気圧プラズマ照射液)が誘発する抗腫瘍効果はRONS(活性酸素・窒素)を介することが明らかとなっていた。そこで、本年度の課題の一つはその化学的性質を明らかにすることであった。この問題の解決に関して、PSM中のNOx(窒素酸化物)による細胞内NO産生ならびにNOのミトコンドリア分裂-融合ダイナミクスにおける関与を明らかにすることができた。この結果、従来不明な点が多かったPSMを構成する成分が、細胞死を誘導する過剰なミトコンドリア分裂の誘発と関連していることを見出した。また、この成果はPSMとNOドナーの併用がPSMの抗腫瘍効果を増強するというデータの分子レベルでの裏付けとなり、その妥当性を明確化するものとなった。もう一つの課題であったPSMが誘導する細胞内カルシウムシグナルに対する作用の検討に関しても大きな成果が得られた。PSMは細胞内外からのカルシウム流入を介して細胞内カルシウム濃度を分レベルで上昇させる働きを持つが、興味深いことに、細胞における主要なカルシウム流入経路であるStore operated-calcium channel (ストア依存性カルシウム)を介したカルシウムの流入は逆に抑制することを明らかにした。PSMによる細胞死誘発メカニズムの解析に関しては、メラノーマ細胞は高栄養条件下でも不断にオートファジーフラックスが起きており、PSMがこれを抑制するという点に注目し、PSM刺激によりオートファジーの抑制経路であるmTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク)経路の活性化が関与するという事実からそのメカニズムが腫瘍細胞において活性化されている細胞保護的オートファジーと関連していることを明らかにした。これにより細胞保護的オートファジーの抑制を介したPSMによる細胞死誘発カスケードの一端を明らかにした
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、申請者らはPSM抗腫瘍活性作用の中心がNOx(窒素酸化物)による細胞内NO産生である事を明らかにした。今後解決する問題として(1)PSM誘導細胞死と関連する細胞内NO供給源の同定、(2)PSM刺激時に観察されるカルシウムインフラックス流入メカニズムの解明、(3) NOによるミトコンドリア分裂調節のメカニズム分析の解明が挙げられる。(1)NOの産生はiNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素)、nNOS(神経型一酸化窒素合成酵素)、 eNOS(内皮型一酸化窒素合成酵素)によって行われる。eNOS補酵素であるテトラハイドロビオプテリン阻害剤aminoBH4を併用することでPSM細胞死が抑制され、またeNOS活性化に必須のカルモジュリン結合はカルシウム依存的であるという事実とPSM刺激によってカルシウム上昇が誘導されることからPSM誘導細胞死関連NOの供給源がeNOS である可能性が高い。この仮説の立証のためにeNOS遺伝子の発現とそのノックダウン実験を行う。(2)PSM刺激はSOCE (ストア依存性カルシウムチャネル)を抑制した。この結果は、PSMによるカルシウム流入は別の経路によるものであることを示唆する。SOCE以外のカルシウム流入機構としては電位差依存性カルシウムチャネルが知られておりこの関与を阻害剤の併用効果および顕微鏡を用いた細胞内小器官形態変化観察により検討する。(3)PSM刺激時にNO はミトコンドリア内にも検出され、同時にミトコンドリア内にスーパーオキシドも産生させることから、両者の結合によるペルオキソ亜硫酸の産生とDrp1(ミトコンドリア分裂促進GTP結合タンパク質)などのミトコンドリア動態調節タンパク質のS-ニトロシル化が誘導され、結果これらの形態変化が誘導された事が考えられる。蛍光プローブを用いたペルオキソ亜硫酸の検出によりこの機構の解明に取り組む
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