2018 Fiscal Year Research-status Report
原発避難区域を含む福島県内全域のダニ媒介性感染症の調査と新たな診断手法の開発
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18K08442
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Research Institution | Fukushima Medical University |
Principal Investigator |
金光 敬二 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (90277971)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
門馬 直太 福島県立医科大学, 医学部, 博士研究員 (00816390)
仲村 究 福島県立医科大学, 医学部, 講師 (30736690)
壁谷 昌彦 福島県環境創造センター, 総務課・野生生物共生センター, 専門獣医技師 (80715003)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ダニ媒介性疾患 / つつが虫病 / 野兎病 / 日本紅斑熱 |
Outline of Annual Research Achievements |
福島県は以前から様々なダニ媒介感染症の高リスク地域であり、特につつが虫病については県内で報告された患者検体から複数の血清型の病原体が検出され、一部の血清型については既存の検査系では検出が困難な場合があるなど、患者数だけでなく病原体の多様性も公衆衛生上の課題となっている(Med. Entomol. Zool. 64-1. 2013)。さらに福島県の浜通り(原発周辺地域)を中心に広域の避難地域が設定されたことで、野生動物の生息域の拡大や高密度化など、生態系に急激な変化が生じている。野生動物の生息域の拡大や高密度化は全国的に問題となっているが、この6年間に福島県で生じた変化はこれまで前例が見られない程広域でかつ急激な変化と考えられる。ダニ類は吸血源とする野生動物の生息域と密接な相関があり、生態系の急激な変化が与える感染症のリスクを分析する上で非常に有効なツールとなる。本研究では病原体を媒介するダニ類に注目することで、地域で発生する感染症のリスクを把握すると共に、野生動物の生息状況と感染症との関連性を明らかにすることを目指して施行されている。 平成30年度の研究実施内容として、福島県内でマダニやツツガムシ等の採取を行い、地域における生息状況を明らかにすると共に、捕獲したダニ類が保有する病原体を遺伝子検査により検索している。平成30年度は県内各地より144匹のげっ歯類を捕獲し、脾臓等の検体を得た。またげっ歯類に付着していたおよそ100匹のダニ類を採取し遺伝子抽出を行った。また、福島県環境創造センターに所属する分担研究者との協力しながら調査を行っているが、保護・捕獲された36個体の野生動物から血液や臓器を採取し、病原体の検索及び血清抗体価の測定を行える状況となった。県内の医療機関で発生した不明熱症例について血清学的な解析を行い、つつが虫病の診断に至った症例等がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で調査対象としている野生動物については捕獲予定頭数を厳密に定めることは不可能であり、場合によっては検体数が大きく減少する可能性も想定される。そのため、ほとんどの地域に安定して生息している野鼠の捕獲も同時に行うとともに、研究期間を5年間とすることで、気象条件等による年ごとのバラつきを平均化し、確実な結果が得られるよう計画している。更に、本研究は採取したダニ類や野生動物から病原体検出を試みるが、病原体の保有率は一定ではなく、場合によっては検出例が限られ、地域におけるリスクの解析が困難となる場合も想定される。そのため野生動物については血清抗体価も併せて測定し、地域における病原体の浸淫状況を解析する手法も同時に取り入れている。野生生物を幅広く調査するため、本研究ではトラップを用いた通常の野鼠捕獲を県内の各地域で行うことに加えて、福島県環境創造センターに所属する分担研究者との協力しながら調査を行っている。これにより、旧避難区域を中心に福島県環境創造センターが生息調査等を目的に定期的に捕獲しているイノシシに加え、県内で交通事故等により負傷したため治療目的で搬入されるタヌキ等の野生動物から血液を採取し、解剖により摘出した臓器及び血液について今後の調査検体とする準備を実際に整えることが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進方針として以下を予定している。 (1)ダニ類の生息状況調査:自然環境あるいは捕獲された野生生物より採取されたダニ類を1個体ずつ、顕鏡による形態同定を行う。併せて、ミトコンドリアDNAの塩基配列による遺伝子同定(Med. Entomol. Zool. 65-1. 2014.)を実施する。また、採取されたダニ類と野生生物との関連性についても解析し、県内の野生生物の病原体保有状況の調査を行う。 (2)検査系の構築方法;採取したダニ類は試験管内で破砕し、ダニ破砕液を調整する。その後、ダニ破砕液をテンプレートとしたPCR反応により病原体の検索を行う。PCRに使用するプライマーは高感度検出が必要となるため、既存のプライマーの一部改変や新規設計により、新たな検査系の構築を行う。PCRで陽性となった検体については、塩基配列を解析し同定及び遺伝型を決定する。なお、検査系の構築と病原体検索は並行して進める。 (3)血清抗体価測定:福島県環境創造センターが生息調査等を目的に定期的に捕獲しているイノシシに加え、県内で交通事故等により負傷したため治療目的で搬入されるタヌキ等の野生動物から血液を採取し、検体とする。また、県内全域で野鼠の捕獲を行い、解剖により摘出した血液も併せて検体とする。血清については、対象病原体をそれぞれ抗原とした免疫ペルオキシダーゼ法により抗体価を測定する。 (4)患者情報からのリスク因子の解析:東日本大震災後に福島県内の各医療機関において診断されてきたダニ媒介感染症の症例について、協力を得られた施設に匿名で疾患のタイプや感染推定地域、リスク行動などの調査を行う。
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Causes of Carryover |
本研究では野鼠を含む野生生物の捕獲状況に応じて、解析対象となるダニ検体数が決定される。このため、より多くの野生生物を捕獲出来れば、より多くのダニ検体を入手可能となる。個々のダニ検体を対象に核酸抽出とその後の遺伝子解析などを行うため、採取個体数に応じて解析費用が決定されることとなる。今年度の状況としておおよそ目標としていたダニ個体数を確保出来たが、一部予測よりも少ない個体採取地域などが存在し、これが次年度使用額が生じた一つの理由となった。次年度は、今回の調査結果の解析を元に、予定していたよりも十分なダニ個体が採取できなかった地域への追加調査などが必要となるが、次年度使用額はそれらに対する予算として使用することが決定している。
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Research Products
(1 results)