2018 Fiscal Year Research-status Report
赤血球ATP受容体シグナリングを標的にマラリア感染を防ぐ:耐性のない治療法の確立
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18K08450
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Research Institution | Tokyo Women's Medical University |
Principal Investigator |
越野 一朗 東京女子医科大学, 医学部, 講師 (80328377)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
新敷 信人 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (80569658)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | マラリア / 赤血球 / 情報伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
マラリア原虫の赤血球侵入に関わる、細胞外ATPをアゴニストとする宿主赤血球内のシグナル伝達経路の同定を目的に、その第一段階としてアンタゴニストを用いたin vitro感染実験を行い、原虫の赤血球侵入に関わる赤血球膜上のプリンヌクレオチド受容体を検索した。赤芽球系細胞でのRNA-seqならびに薬理学的検討から成熟赤血球に発現していると予想されたP2受容体、P1受容体に対するアンタゴニストを用いて単独ならびに多剤併用の効果を検討したが、有意な侵入阻害効果を示さなかった。 他方、我々のこれまでの知見からはATPシグナリングによるPKAの活性化が原虫の侵入には重要であることが示唆されたため、PKAの活性化に必要であるcAMPの及ぼす影響について検討した。1) cAMPを加水分解するホスホジエステラーゼの阻害剤であるIBMXは、濃度依存的に原虫の侵入を抑制した。2) 膜透過性の類似体であるSp-cAMP添加により原虫の侵入は抑制された。3) 同様に膜透過性類似体であるがPKAを阻害するRp-cAMPは原虫の侵入を全く阻害しなかった。4) 膜透過性のペプチド性PKA阻害剤であるPKI-mは原虫の侵入を抑制しなかった。5) 予備実験段階ではあるが、アデニル酸シクラーゼを活性化して細胞内cAMP濃度を上昇させるフォルスコリンは、原虫の侵入を抑制する結果を得ている。 以上より、当初の予想とは異なり、cAMPの上昇(とそれによって起るPKAの活性化)は原虫の侵入をむしろ抑制すると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
先行研究ならびに我々自身の研究結果から、第一選択として「細胞外ATP→プリンヌクレオチド受容体→細胞内cAMPの上昇→PKA活性化→原虫侵入」の仮説に重点を置き、流れに沿って解析を始めたため、なかなかポジティブな結果が得られず、検討するアンタゴニストの種類を増やすなど結果として遠回りすることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の目的である「原虫の侵入に必要な赤血球内の情報伝達経路を同定し、それを遮断することによってマラリアを制圧する」こととはアプローチの仕方が反対にはなるが、今回の検討で見出した「赤血球内cAMPを上げると侵入が阻害される」ことを応用して、本研究の核心的問い・独創性である「宿主細胞を標的として耐性を生じない原虫感染防御策を確立する」方向へは、研究を一歩前に進められていると考えられる。 今後は、まだ検討していない様々なメカニズムにより赤血球内cAMPを増加させ、いずれの場合にも原虫の侵入が抑制されることを検証し、最も効果的に、かつ最も副作用のない薬剤の同定、ならびに薬剤標的分子とそのシグナル経路の検討を進めていく。
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Causes of Carryover |
今年度の交付額はおおむね使い切っており、次年度使用額(10,258円)で購入可能かつ必要な物品等が無かったため。 次年度使用額(10,258円)が翌年度の交付額に占める割合は1%にも満たず、使用計画に変更は必要ないと考える。
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