2019 Fiscal Year Research-status Report
胃腺粘液糖鎖αGlcNAcの消失による胃がん悪性化の制御機構
Project/Area Number |
18K08613
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
藤井 千文 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (10361982)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | αGlcNAc / 分化型胃がん |
Outline of Annual Research Achievements |
当研究グループではこれまでに、マウスの個体レベルならびにヒト胃がん患者の病理学的解析の結果から、胃腺粘液特異的糖鎖αGlcNAc産生量の低下が、分化型胃がんの発症および悪性度と密接に相関していることを報告してきた。病理学的手法で示されたαGlcNAcの消失が胃がんの悪性化に関与している可能性を培養細胞レベルで証明できるか否か、できるとすればどのような分子機構で関与しているのか、を解明するため、昨年度よりαGlcNAcの産生が認められない中分化型胃がん細胞株AGSを用いて解析を行ってきている。本研究課題では、最終的に、培養細胞を用いた研究から得られた結果を基に、早期胃がん診断法、新規治療法の開発へと繋げる基礎的知見を得ることを目標としている。 胃がん細胞株でのαGlcNAc産生量と、がん細胞の悪性形質の関係について解析するため、AGS細胞にTet-Onシステムを用いてαGlcNAcを産生させ、その形質について解析を行った。その結果、αGlcNAcの産生により、in vitroでの細胞増殖能のわずかな低下とマトリゲル浸潤能の低下を認めた。さらに、in vivoでの解析を行い、αGlcNAcの産生により免疫不全マウスでの造腫瘍能の著しい低下が起こることを見出した。これらの悪性形質変化の分子メカニズムを解析するため、ドキシサイクリン添加後のAGS細胞内でαGlcNAcが結合しているタンパク質の同定を試みたところ、がんの進展に関与するαGlcNAc結合タンパク質2種を同定した。以上の結果は、αGlcNAc産生量の変化が胃がんの悪性度を制御している可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までに、胃がん細胞株でのαGlcNAc産生量と、がん細胞の悪性形質との関係について解析するため、αGlcNAcの産生が認められない中分化型胃がん細胞株AGSにαGlcNAc生合成に必須な酵素α4GnTをTet-Onシステムを用いて発現させる細胞を作成し、その形質について解析を行ってきた。昨年度は、in vitroでのがん細胞の悪性形質についての解析を中心に行い、上記細胞でのαGlcNAcの産生により、細胞増殖能のわずかな低下とマトリゲル浸潤能の低下が起こることを見出した。本年度は、免疫不全マウスを用いて、in vivoでの解析を行った。上述の様に作成した細胞を、免疫不全マウスの背部皮下に移植し造腫瘍能を解析したところ、マウスへのDoxの投与により造腫瘍能の著しい低下が見られた。以上の結果は、αGlcNAc産生が胃がんの悪性度を制御している可能性を示唆している。 また、この分子メカニズムを解析するため、AGS細胞内でαGlcNAcが結合しているタンパク質の同定をプロテオミクス法により試みた。その結果、Doxの添加によりαGlcNAcが結合する2種のαGlcNAc結合タンパク質を見出した。これらの分子は、いずれもがんの進展に関与する分子として知られており、これらの分子へのαGlcNAcの結合が、AGS細胞での悪性形質変化に関与している可能性が示唆された。 以上より、本研究はおおむね順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、2点の大きな進捗があった。まず、がん細胞でのαGlcNAc の産生により、in vivoでの造腫瘍能が著しく低下することが明らかとなった。今後は、形成された腫瘍の病理学的解析を行い、αGlcNAc の産生が造腫瘍能の低下をもたらした機構について解析する。 2点目として、これまでに、胃腺粘液においてαGlcNAc が結合するタンパク質としてMUC6が知られているが、今回AGS細胞内でαGlcNAcが結合している新規のタンパク質2種を同定した。これらの分子はいずれもがんの進展に関与することが報告されており、今後は、これらの分子の下流シグナルがαGlcNAc結合の有無によりどの様に変化するかを解析し、がん細胞の悪性形質の変化への関与について考察する。必要に応じて、コラーゲンゲルやマトリゲル内での3次元培養系、オルガノイド培養系の確立を試み、これらの培養条件下でのシグナル変化について解析を行う。 これまでの解析は、中分化型胃がん細胞株AGSを用いて行ってきたが、AGS細胞のみならず、他の細胞株でも同様の実験を行い、がん細胞の分化度の違いとαGlcNAc産生量の違いによる形質変化の関係について考察する。
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Causes of Carryover |
今年度は、採択当初配分された額に対して概ね予定通りの予算執行を行うことができた。昨年度からの繰越額は、281,141円、次年度使用額は267,992円であり、昨年度からの繰越分がほぼそのまま次年度へと繰り越されることとなったため、次年度使用額が生じた。使用予定額は以下のとおりである(概算値)。試薬・キット・抗体・プラスチック器具等の消耗品700千円、動物購入・飼育費用200千円、論文投稿・掲載費用300千円、共通機器使用料60千円。
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