2020 Fiscal Year Research-status Report
膵臓癌幹細胞の初期肝転移を決定するエクソソームの関与と転移阻害剤に関する基盤研究
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18K08705
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
堀 裕一 神戸大学, 保健学研究科, 教授 (80248004)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
清水 一也 神戸大学, 保健学研究科, 保健学研究員 (50335353)
三好 真琴 神戸大学, 保健学研究科, 助教 (50433389)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 膵癌 / エクソソーム / 遠隔転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の全体構想は膵癌細胞の遠隔転移機構を明らかにして新規治療法を開発することである。膵臓癌は癌死亡率の第4位にあり、早期診断が困難できわめて予後不良の疾患で、遠隔転移や局所浸潤が予後を左右する。我々はこれまでに正常膵幹細胞と高悪性度のヒト膵癌細胞が幹細胞マーカー(CD133)を発現することを明らかにした(Stem Cells 2008; Pancreas 2009; Pathobiology 2011)。また、既存の抗がん剤Gemcitabine(GEM)に耐性の膵癌患者から10種類のCD133陽性膵癌幹細胞株を樹立し、細胞外基質を再構築することで自己複製能を獲得することを明らかにした(PLoS One, 2013)。また、これまでにマウス膵臓組織幹細胞にGreen Fluorescent Protein、変異型KRASG12D、変異型p53、cyclin dependent kinase 4を遺伝子導入してマウス人工膵癌細胞(親株)を作成している。さらに、in vivoで作成した親株由来腫瘍にGEMを長期投与することにより、耐性を獲得した腫瘍からGEM耐性株を樹立している。本研究では、我々が樹立作成した(1)ヒト膵癌幹細胞株と(2)マウス人工膵癌幹細胞株(親株、耐性株)由来のエクソソームによる肝臓でのpre-metastatic nicheを再構築し、転移機構を分子レベルで比較解明し、新規治療薬の開発を目指す。本年度は、マウス由来の癌細胞に加えて、ヒト膵癌細胞株由来のエクソソームを使った実験でも対照群に比べ遠隔転移が亢進することを明らかにした。また、この機序としてエクソソームにより血管透過性の亢進が誘導される可能性を見出した。さらに、特定の分子に対するsiRNAノックダウンにより、エクソソーム内の責任分子の同定にも成功している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) ヒト膵癌幹細胞株由来エクソソームによるpre-metastatic nicheの解析 癌性腹膜炎による腹水貯留患者に対して緩和ケアで行われるCell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy療法の膵癌患者腹水からエクソソームを分離した。一方、コントロールとしては原発性胆汁性肝硬変患者の腹水由来エクソソームとした。マウスにエクソソームを投与したのち、当研究室で樹立したGFPラベルのヒト膵癌細胞を投与し、GFP染色により肝転移を解析した結果、コントロールエクソソームに比較して膵癌細胞由来エクソソーム投与群で有意に肝転移が亢進した。また、エクソソーム投与により二層培養法でのFITC-dextran漏出が亢進したことから、血管内皮細胞のtight junctionの傷害が遠隔転移を亢進させる可能性が明らかになった。また、in vitroで血管内皮細胞を培養し、エクソソーム投与下で細胞間接合が破壊されることを証明した。 (2) マウス人工膵癌幹細胞由来エクソソームによるpre-metastatic nicheの解析 初年度は、マウス組織幹細胞に遺伝子導入して樹立したマウス人工膵癌幹細胞株(親株)を使って、in vivoで腫瘍形成させたのちにGEMを長期投与して、一旦腫瘍が縮小効果を示したのちに再度増大傾向を示した腫瘍からGEM耐性マウス人工膵癌細胞(耐性株)を樹立した。耐性株はGEM耐性かつ高転移株であることを確認した。親株と耐性株の培養上清から分離したエクソソームを野生型マウスに投与すると、耐性株由来エクソソーム投与群では明らかに肝転移が亢進した。さらに、親株と耐性株のマイクロアレイによる網羅的な解析を行い、血管透過性を亢進させる候補分子を同定した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、我々の研究室で樹立作成した(1)ヒト膵癌幹細胞株と(2)マウス人工膵癌幹細胞株由来のエクソソームによる肝臓や肺でのpre-metastatic nicheを再構築し、転移機構を分子レベルで解明し、新規治療薬の開発を目指す。昨年度の成果ではヒト膵癌幹細胞株やマウス人工膵癌耐性/高転移株由来のエクソソームによる遠隔転移の亢進をin vivoで証明した。すなわち、膵癌細胞や耐性株由来のエクソソームを前投与したのちに癌細胞を移植すると明らかに肝転移が亢進することを明らかにした。また、二層培養法での蛍光ラベルしたデキストランの漏出実験を行い、エクソソーム投与による漏出亢進現象を見出した。今年度は、血管透過性亢進やtight junctionの障害を免疫染色やWestern blotting法で証明した。また、マウス人工膵癌細胞親株と耐性株のマイクロアレイによる網羅的解析結果から、耐性株で発現が亢進している遺伝子の中で、血管透過性を亢進させる候補遺伝子を抽出してリアルタイムPCRやWestern blotting法で発現が亢進していることを確認した。さらに、候補遺伝子によるタンパク質の発現もリアルタイムPCRで確認した。最終年となる来年度は、siRNAによるマウス人工膵癌幹細胞のノックダウン実験を行い、由来するエクソソーム内の発現低下を確認したのちに、血管内皮細胞のtight junctionの障害抑制、蛍光ラベルしたデキストランの漏出抑制、さらには遠隔転移亢進が抑制されるかを検討する予定である。最終的にこれらを論文にまとめて国内外に発信する予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していた複数の学会参加が新型コロナ感染症のために中止になり、さらに緊急事態宣言の発令により研究活動が制限されたため、次年度500,075円の使用額が生じた。
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Research Products
(10 results)