2020 Fiscal Year Research-status Report
術後アウトカム指向麻酔法の探求:内因性睡眠物質を応用した円滑な周術期管理への道標
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18K08807
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
櫛方 哲也 弘前大学, 医学研究科, 准教授 (80250603)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
廣田 和美 弘前大学, 医学研究科, 教授 (20238413)
二階堂 義和 弘前大学, 医学研究科, 講師 (50613478)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 全身麻酔 / 睡眠障害 / オレキシン / 内因性睡眠関連物質 / 周術期管理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究課題「術後アウトカム指向麻酔法の探求:内因性睡眠物質を応用した円滑な周術期管理への道標」に基づき以下の諸点について検討した。遺伝子改変ラット(TG)と野生型(WT)ラットにおける麻酔時間の検討。TGとWTオレキシン(OX)活性がケタミンの麻酔状態に影響することは前年度までの検証で判明したが、本年度は他の静脈麻酔薬とOX活性の関係を検討した。OX神経活性が低い遺伝子改変ラット(TG)と野生型(WT)にデクスメデトミジン(DEX)とミダゾラム(MDZ)の麻酔時間を正向反射の有無を指標に麻酔時間を比較した。その結果TGはいずれの麻酔薬でもWTより麻酔時間が延長した。WTラットにアルファ2アンタゴニストのyohimbineを1.0、3.3、10㎎/㎏腹腔内投与しケタミン100㎎/㎏を腹腔内投与し麻酔時間を測定した。他日、同一個体に生食とケタミンを腹腔内投与し麻酔時間を測定しこの値を基準値としてyohimbine 投下のケタミン麻酔時間の変化を相対値で評価した。その結果、yohimbineは用量依存性にケタミンの麻酔時間を延長した。LPS投与後の睡眠の変化;LPS(1mg/kg)の腹腔内投与により敗血症モデルを作成しTGとWTで睡眠の変化を比較した。24時間の対照値のNREM時間はWT、TGとも正常な睡眠動態であったが、LPS投与直後にNREM時間が減少傾向にあった。REM時間は対照値のTGで少なめであった。 LPS投与後はWTに比べTGで有意に減少した。このモデルの自律神経活性を心電図解析を基に検証した結果、LPSは交感神経活性を抑制する傾向にあった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
WTとTGを比較することでOX神経活性が全身麻酔薬に及ぼす影響を検討できたと考える。また、敗血症モデルにおけるOX活性が睡眠に与える影響を定量することで、このような病態にいかなる鎮静、麻酔薬を選択すべきか、という端緒が得られた。更にこのような病態では交感神経が抑制されることもモデル化を通じて確認でき、様々な病態における術後アウトカム指向に麻酔法の探求の一序をなすものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
各種全身麻酔薬の麻酔時間にOX神経活性がどのように影響するか、これまでケタミンデクスメデトミジン(DEX)とミダゾラム(MDZ)の麻酔時間をTGとWT比較した。この結果TGではケタミンの麻酔時間が短縮し、一方MDZ、DEXの麻酔時間が延長することが判明した。この一見相反する結果の機序としてTGでは脳内のノルアドレナリン活性が変化しておりこの変化が上述の麻酔時間の差に影響している可能性がある。OXは内因性の覚醒物質であり脳内のノルアドレナリンは上行性賦活系の一要素であるからOX活性の低下はノルアドレナリン活性を低下させている可能性がある。もしそうであるなら以前の我々の発表、すなわちノルアドレナリン活性を低下させるとケタミン麻酔時間が短縮し、バルビツレートの麻酔時間を延長したと言う結果と矛盾しない。今後の展開としてTGとWTにおけるプロポフォールの麻酔時間も検討し、様々な全身麻酔薬の麻酔時間とOX活性の関係を探求したい。これによりOXが様々なGABA、NMDA、BDZ、アルファ2受容体に作用する各種静脈麻酔薬の麻酔時間に影響するか否か検証可能になる。その結果、現在臨床で用いられている静脈麻酔薬をほぼ網羅することになりOXと静脈麻酔薬のリンクが包含的に把握できることが期待される。さらに敗血症モデルでOX活性と麻酔薬の関係、麻酔後の睡眠に及ぼす影響の検討を行うことで病態による麻酔薬の作用の解明につながり、ひいては臨床において病態に応じた麻酔法の選択に基礎的なエビデンスを提供し得ると期待する。
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