2019 Fiscal Year Research-status Report
前頭前皮質機能に着眼した慢性疼痛発症メカニズムの解明と治療への応用
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18K08821
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
徐 民恵 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 講師 (60381886)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉浦 健之 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (20295611)
大澤 匡弘 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(薬学), 准教授 (80369173)
祖父江 和哉 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (90264738)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 慢性疼痛 / 前頭前皮質 |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性疼痛の発症には、情動に影響を与える脳回路の機能変化が関与していることが示されている。特に情動を生み出す神経回路の中心的な役割を担う脳領域である前頭前皮質(mPFC)は、うつなど気分障害の発症に関与していることが知られ、疼痛の慢性化にも関わることが示唆されている。一方、我々の前年度までの結果より、情動に対して強い影響を及ぼしている脳領域である島皮質(insular cortex)が、神経障害性疼痛発現に対しmPFCよりも強い影響を与えていることが明らかになったことから、本年度は島皮質も含めた脳領域が疼痛の慢性化に関与するかについて、神経活動の測定を行い評価した。 神経活動の測定は、カルシウムイメージングを微細蛍光顕微鏡により、in vivo において行った。まず、カルシウム蛍光たんぱく質であるGCaMP7をアストロサイトと一部のニューロンに発現するGCaMP7マウスの側坐核へGRINレンズを埋殖し、蛍光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、自発的なカルシウムシグナルの変化を捉えることができた。また、GRINレンズを側坐核へ埋植したGCaMP7マウスの神経活動を極微細蛍光内視鏡(U-FEIS)を用いて測定したところ、蛍光顕微鏡と同様に神経活動を可視化することができた。U-FEISは、非常に軽量な蛍光内視鏡であり、自由行動をしているマウスの動きを制限することなく、蛍光を観察できることから、脳深部の神経活動をカルシウムイメージングで可視化することが可能になった。 なお、脳深部の神経活動をin vivo の実験条件でカルシウムイメージングにより観察することに成功した前例は世界的にも少なく、極微細蛍光内視鏡により脳深部のカルシウムイメージングに世界で初めて成功することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、行動学的評価を補強するためのカルシウムイメージング法の確立に注力し、脳深部における神経活動を可視化することができた。また、無麻酔・無拘束の自由行動をしているマウスの脳活動を観察することが可能な極微細蛍光内視鏡によるカルシウムイメージングも達成できた。これら生理学的測定法は、昨年度までに実施が不可能であると結論づけた組織学的解析に代替するものであり、最終年度に計画した研究を完了する可能性が高くなった。また、DREADDsについても、動物の準備は間に合わなかったが、アデノ随伴ウィルスベクターを用いることで対処できており、昨年度までの遅れを取り戻すことができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる次年度は、本年度に確立した脳深部カルシウムイメージングの手法を用いて、mPFCや側坐核における神経活動を測定する。 まず、これらの脳領域の神経活動を、神経障害の前後で、麻酔下のマウスを用いて測定する。次に、自由行動をしているマウスの脳深部のカルシウムイメージングを行い、神経障害性疼痛の前後における脳活動の変化を同一マウスにおいて経時的に測定する。そして、mPFCから投射する興奮性および抑制性神経の投射を明らかにするため、それぞれのプロモーター制御下でEGFPを発現するアデノ随伴ウィルスベクターを用いて検討する。また、mPFCから投射する興奮性および抑制性神経の機能を選択的に抑制・興奮し、痛み閾値に対する影響を検討し、さらに疼痛の慢性化への影響についても検討する。 これらの検討を行うことで、mPFCから投射している各種神経系の疼痛制御における役割を明らかにすることができ、さらに、疼痛の慢性化に関わる脳領域やその脳領域の活動変化についても明らかにすることができる。 また、慢性疼痛患者においても情動を司る脳領域の活動が、健常者と比較して亢進しているかを検討するため、機能的MRIを用いて検討を行う。これに先立ち、年度のはじめに臨床試験を開始するための倫理申請などの手続きを開始し、臨床試験を滞りなく行い、mPFCと慢性疼痛の強度や罹患期間の相関性を解析し、痛みを客観的に評価できる指標となりうるか検証する。
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Causes of Carryover |
脳深部カルシウムイメージングやアデノ随伴ウィルスベクターを用いた検討を継続して行うため、、GRINレンズやウイルスベクターのほか、神経障害モデルマウスの作成、免疫組織化学的解析などに必要な試薬、器具の購入費用が必要である。また、臨床試験を開始したら、機能的MRIの実施費用も必要となる。
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