2022 Fiscal Year Research-status Report
人工知能を用いた鎮静及び鎮痛スケールの予測モデルの構築
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18K08896
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
横瀬 真志 横浜市立大学, 附属病院, 講師 (70614402)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高木 俊介 横浜市立大学, 附属病院, 准教授 (90644823)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 人工知能 / 表情認識 / 遠隔集中治療 / 鎮静スケール |
Outline of Annual Research Achievements |
我々はネットワークにより医療情報を集約化した遠隔集中治療室(Tele-ICU)を介して医療者の負担軽減や医療の質の向上を目標としている。その一つの機能として本研究の目指す鎮静・鎮痛スケールの予測モデルを持つ人工知能の開発がある。天井設置型カメラで得られた患者の表情画像をデータベース化し、同時刻の鎮静・鎮痛状態を評価するスケールと紐づけた表情特徴量を機械学習することで、鎮静・鎮痛状態を常時推定できるモデルの作成を目的としている。 初年度はICU患者の特性上酸素マスクや点滴ライン等の人工物が対象者の顔の付近に多い状況下でも顔パーツを認識可能なモデルの必要性を明らかとした。2年目は、顔、眼にフォーカスして、人工物存在下での認識正答率を複数の機械学習・物体検知モデルを用いて性能比較を行った。最も高性能なモデルでも眼の検出精度が50%程度と課題が残った。3年目はモデル精度向上のための学習用データ収集とAVPUスコア[Alert(意識清明)Verbal(声かけに反応) Pain(疼痛刺激に反応) Unresponsive(反応なし)]のうち、AとVPUの2群を判別するモデル作成を目標としたが、COVID-19による症例数減少があった。昨年度は眼の物体検出性能の向上、並びにAとVPUの2群を判別するモデル作成を行なった。Faster R-CNN(Region Based Convolutional Neural Network)を用いたモデルは眼の検出精度が90%程度まで向上した。開閉眼の割合を元としたAVPU判別性能の医療従事者による判別との一致率は約50-80%であった。今年度は眼等の物体検出性能の更なる向上と、実用化に向けモデルの軽量化を目指し使用モデルの変更を行なった。眼の検出精度が92%程度まで向上した他、1サンプルあたりの解析平均計測時間を83%程度削減することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
今年度は、眼等の物体検出性能の更なる向上と実用化に向けたモデルの軽量化を目標とした。初期モデルは、物体検出の推論を行う際に(1)矩形内部の物体と背景の識別後に、(2)矩形内部の物体が指定の物体であるか識別する二段階の処理が行われるFaster R-CNNを採用した結果、計算処理に大きな負荷がかかった。一方で、(1)を省略するSingle Shot Multi-box Detector等の従来のモデルアーキテクチャの場合、計算処理負荷が落ちる一方で、検出精度が下がる課題があった。今年度のモデル設計の改良としては、まず、2021年8月に公開されたYOLOX(Ge, Zheng, et al., 2021)をベースモデルとして採用した。当該モデルは、前述の(1)の処理を省略しつつ、速度と精度を両立できるモデルであり、本研究の目的に最適と考えられた。次に、一昨年度までは画像中から開閉眼を直接検出していたが、開閉眼検出前に顔検出処理を挟むこととした。これにより、検出された顔の中から開閉眼検出を行うこととなり、解像度が上がり、眼の検出が容易になることが期待された。その結果、眼の検出精度は90%程度から92%程度へと向上した。また、1サンプルあたりの解析平均計測時間はFaster R-CNN使用時は1枚あたり340ミリ秒要していたが、YOLOX使用時は1枚あたり5.48ミリ秒と大幅に処理負荷を削減できた。AVPU認識のプロトタイプモデルの妥当性の検証と一致率の向上を継続して行うために対象者のリクルートを継続し、次年度以降にモデルの正答性向上のための機械学習に使用するデータ収集の継続を並行して行った。今年度は210名の患者から研究同意を取得し、そのうち110名から画像データを収集でき、画像データを収集できた症例数の5年間の累計は、491症例となった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、これまでに収集した491名の患者データを対象とし、今年度に開発した開閉眼検出モデルを用いた鎮静・鎮痛スケールの予測性能について後ろ向き観察研究にて検証を行う。具体的には、当該患者のうち、集中治療室管理期間中に人工呼吸管理を行った123名の患者を対象とし、鎮静スケールを参考にした患者重症度に応じて患者をケース群(n=60)、コントロール群(n=63)に二分類する。分類した患者群それぞれの画像データ全てに対して開閉眼検出を行い、開閉眼状態と判定時刻情報に関するデータベースを構築する。これらのデータを元に二群間比較を行い、患者の鎮静スケールに応じたケース・コントロール別の特徴量を抽出する。症例数を元にした事前の統計仮説検定によれば、効果量0.8、有意水準0.01とした場合に、検出力0.96を得ることから、当該二群間比較により得る統計解析結果は有意差が認められた場合に十分な症例数であると考えられる。また、前述の二群間比較の結果、ケース・コントロール群に有意差が認められた場合、そこで得た特徴量を元に、「鎮静・鎮痛スケール予測モデル」を構築し、当該予測モデルの感度、特異度、AUC(Area Under the Curve)を測定し、鎮静・鎮痛予測性能を評価する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスパンデミックなどによる研究計画の遅れによって、当初想定されていた症例登録数を下回った状況が継続している。またそれに伴って、人件費・謝金の支出の時期が後ろへシフトしていることも理由の一つである。研究者および研究協力者など、予算による人件費が発生しない人員によるデータ整理・学習用データ作成の業務量が当初の想定よりも多く行うことができ、昨年度と同程度の業務量を継続することができた点も、人件費・謝金などの予算との乖離の理由の一つである。また、新型コロナウイルス感染の影響により学会活動に制限が生じたため、旅費や参加費などが初期の見積もりほどに回復しなかったことも理由の一つである。次年度は、人件費・謝金に残りの支出を当てる事を見込んでいる。また、経年による影響を受ける物品の更新やデータ整理・保存のための必要物品の購入などに充てることも想定している。
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