2019 Fiscal Year Research-status Report
Optimization of olfactory ensheathing cell suspension to be transplanted for repair of spinal cord injury – a study with in vivo and in vitro models.
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18K08980
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
吉岡 昇 帝京大学, 医学部, 講師 (20365985)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 前額断脳スライス培養 / 交連軸索可視化 |
Outline of Annual Research Achievements |
神経疾患の様々な細胞治療が提案され、臨床研究・治験が進む中、受傷後1年以上を経過したような慢性的状態に対する根治療法に関する研究は、未だ多くの成功例を見ない。本研究は、そのような慢性的状態での軸索再生を、軸索経路の再構築によって実現しようとするものであるが、軸索経路の再構築のためには白質の再生を見る必要がある。その意味で、in vitro スライス培養系として注力すべきは、長年に渡って研究に用いてきた皮質脊髄共培養系よりは、新規に開発した、脳内最大の白質を含む前額断脳スライス培養であるとの考えに至った。そこで、この1年間は、 「交連軸索の投写を可視化できる前額断脳スライス培養系の確立」 という課題を設定し、反対側の大脳皮質で放射状に伸びる軸索の投写パターンをはっきりと観察する、というところに目標を置いた。 まずは、動物をラットから遺伝子操作技術が発達しているマウスに変えた。マウスの皮質II~V層の錐体細胞に、蛍光タンパク質である DsRed2 の発現プラスミドを、エレクトロポレーションによって導入して、十分な標識を得ることを目指したが、脳梁を渡る可視化された軸索の本数が10本未満という不十分な結果に終った。そこで、動物をラットに戻し、エレクトポレーションの条件を更に検討した結果、120本以上の軸索が培養組織中の脳梁を反対側へと渡り、反対側の大脳皮質で放射状の投写パターンを示すに至った。 脳梁を特異的に事故で損傷するような病態はあまりないが、自閉症スペクトラム障害においては、脳梁の形成不全が見られる例が多く、これが病態の原因となるとの議論もなされている。脳梁の萎縮が見られる自閉症モデル動物も提案されており、白質の再生をテーマとした一貫性のある研究が構築可能と考えられる。交連軸索に焦点をあてたこの系で移植用生体材料を最適化し、脊髄損傷に適用するという、有力な方針を設定することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
脳スライス培養系を用いた研究により、嗅神経鞘細胞が軸索経路を再構築するメカニズムを解明することが、現在までの2年間の計画であった。そのために重要なことは、軸索経路である白質の再生を実現することである。したがって、必要な実験系は、投写経路の白質を全て省略してしまった皮質脊髄共培養ではなく、脳内最大の白質である脳梁を含んだ前額断脳スライス培養である。そのため、この1年間は、「交連軸索の投写を可視化できる前額断脳スライス培養系の確立」という課題に取り組んだ。本研究の初頭において既に、ラット前額断脳スライス培養系で、脳梁を渡る数本の軸索を可視化することには成功していた。しかし、脳梁に障害を与えた上で、脳梁の白質構造を再生させ、そこを通過する軸索の投写を観察するには、はなはだ不十分であった。そこで、遺伝子操作の技術が発達しているマウスにおいて、この課題に取りかかったが、不十分な結果に終った。次に、動物をラットに戻し、実験条件を検討した結果、設定した課題を達成することができた。軸索が脳梁を反対側へと渡り、反対側の皮質で放射状の投写パターンを示すに至ったのである。 本来は、軸索経路再構築のメカニズム解明までが2年間の目標であったが、この交連軸索を可視化できる前額断脳スライス培養系は新規な実験系でもあり、満足すべき成果と考えている。 なお、昨年の報告に書いたとおり、研究代表者吉岡は現在、学内発の細胞治療のプロジェクト: ADC SCTCブランチ: https://www.teikyo-u.ac.jp/affiliate/laboratory/adc_labo/summary/stem_cell_therapy_consortium.html に参画している。こちらも、順調に進んでおり、本研究との相乗効果が期待できる状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、白質中の交連軸索を可視化できる前額断脳スライス培養系を軸としてin vitro, in vivo の実験を進める。いったん皮質脊髄路の再生の研究から離れる形になる点が、研究計画の主な変更点となる。課題と対応策は以下の通りである。 (1) in vitro 前額断脳スライス培養系において、一連の再生過程の詳細を捉えること。そのために、損傷後の白質の変化、嗅神経鞘細胞との共培養による白質再生の過程、再生した白質を通過する交連軸索の挙動を動的に可視化する。これには、独自技術である共焦点顕微鏡下ステージトップCO2インキュベータを用いたライブ観察法を用いる。 (2) 軸索経路再構築の分子メカニズムを解明すること。そのために、移植細胞やホスト細胞の遺伝子 (ACTL6B、integrin β3 など) を欠損させたときに起る現象を調べる。また白質障害の有無による移植細胞での遺伝子発現の差異を調べる。GFP 陽性の移植細胞をセルソータで単離して遺伝子発現を調べる方法と、顕微鏡下でGFP 陽性の移植細胞ひとつを採取し、遺伝子発現を調べる方法を試みる。 (3) 移植用生体材料の最適化を行う。そのためには、真っ先に分子発現を操作するのではなく、まずは現状において臨床応用可能な範囲での最適化を目指す。嗅神経鞘細胞の培養法および細胞密度の最適化、嗅粘膜など様々な組織由来の間葉系幹細胞の効果の検討などを行う。in vitro においては、正中を離断した前額断脳スライス培養系での移植細胞との共培養を行う。これによる反対側への交連軸索の投射量の増加を定量的に評価し、最適化を行う。in vivo においては、脳梁の形成不全が見られる自閉症スペクトラム障害モデル動物の脳梁部位への移植による行動学的改善を見る。また、皮質脊髄路片側完全焼灼モデルの障害部位への移植による行動学的改善を見る。
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Causes of Carryover |
ステージトップCO2インキュベータの購入を差し控えた分があること、リージョンジェネレーターが未購入であることが次年度使用額が生じた主な理由である。 2020年度は、ライブ観察に使っている中央機器室のレーザー顕微鏡の保守期限が確実に切れる。現在、機器更新の申請作業を行っているが、機器が更新された場合は、ステージトップCO2インキュベータも、いよいよ更新する必要が生じる可能性が高く、そのためにこの次年度使用額が使われる可能性が高い。リージョンジェネレーターも購入する必要がある。エレクトロポレーションにおける電流量のモニターのために、オシロスコープも購入。また、多色での観察のために、プラスミドを追加購入・増幅する必要もあり、これにも使用して行く予定である。実験系をラットを主体としたものにするので、動物代も予想以上にかかる可能性がある。これらのために、B - A は吸収されると考えている。
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