2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of precision medicine to control the microenvironment in glioma stem cells.
Project/Area Number |
18K08998
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
阿部 竜也 佐賀大学, 医学部, 教授 (40281216)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
増岡 淳 佐賀大学, 医学部, 准教授 (50359949)
中原 由紀子 佐賀大学, 医学部, 講師 (50380770)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 脳腫瘍 / 腫瘍幹細胞 / precision medicine |
Outline of Annual Research Achievements |
悪性神経膠腫が治療抵抗性を獲得する原因として、さまざまな要因が考えられているが、我々は微小環境、中でも低酸素環境と腫瘍幹細胞に注目し、悪性神経膠腫の患者検体から腫瘍幹細胞株を単離・樹立し、低酸素環境における遺伝子変化を検討した。腫瘍幹細胞は、腫瘍幹細胞は微小環境下で多様性を獲得すること、腫瘍幹細胞が腫瘍微小環境を利用する分子機構などが分かってきた。すなわち、腫瘍幹細胞自身も、ゲノム・エピゲノムに変化を生じ、多分化能のバランスをとり、様々な環境に適応し、腫瘍形成や増殖に深く関わっている。そこで、微小環境における腫瘍幹細胞の多様性獲得機構を解明することは極めて重要であり、それらをターゲットにした治療は新たな分子標的になりうると考えられる。本研究では、多くの腫瘍幹細胞株、特にクエン酸代謝関連酵素であるIDH変異型幹細胞株、K27M異常を有する幹細胞株など用いて、遺伝子異常に基づいた微小環境制御という視点からprecision medicineの開発を目指すことを目的とした。 本研究には膠芽腫細胞株、悪性神経膠腫患者の組織から単離・培養した複数の患者由来腫瘍幹細胞、特にIDH1変異細胞株や脳幹腫瘍患者由来のK27M変異細胞株Saga 027を用いて遺伝子相違による影響を比較検討している。脳腫瘍幹細胞をマウスに移植すると、患者腫瘍の特性を有した組織形態を呈する。組織間で形態変化の特徴を捉え、そのメカニズムについて検討を行っている。なかでも、炎症の関与について検討を行ったところ、脳腫瘍幹細胞を維持するためには、PI3KNF-κBなどの活性化し、炎症シグナルを惹起し、さまざまなサイトカインケモカインを産生することが分かった。また、臨床で治療抵抗性であるSaga 027細胞について検討したところ、多くの既存の抗がん剤や分子標的薬に対しては、殆ど総ての治療に抵抗性であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで樹立できた脳腫瘍細胞株や幹細胞株ではIDHの変異のない細胞しか株化できなかったが、共同研究者らとIDH変異のある幹細胞株樹立に成功している。これらの細胞を用いて様々な研究を行っているのに加え、小児脳幹部腫瘍の患者由来のヒストン蛋白K27M遺伝子異常を有する幹細胞株Saga027細胞の樹立にも成功した。そこで、このような背景のもと、患者検体から得られた遺伝子プロファイルの全く異なる脳腫瘍幹細胞を用いて、腫瘍細胞ニッチについて検討し、ゲノム異常に基づいた新規治療法の開発を目指している。その中で、脳腫瘍に発現しているN-myc downstream regulated gene 1 (NDRG1)が脳腫瘍細胞の増殖を抑制することがわかり、その機序を解明した。更には、脳腫瘍細胞のNDRG1発現を誘導しGBM腫瘍の増殖を抑制する物質としてdifferentiation inducing factor-1(DIF-1)を見出した(Cancer Res 80:234-248, 2020)。 また、脳腫瘍幹細胞の非対称分裂の分子機構について解析し、米国脳腫瘍学会などで発表し、論文が掲載された(Oncol Lett.19:12, 47-1254, 2020)。
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Strategy for Future Research Activity |
・神経膠腫の発生にはIDH変異が関与している。IDH変異によってoncometaboliteと呼ばれる2-ヒドロキシグルタル酸(2-HG)が産生され腫瘍化する。2-HGはゲノム DNA 脱メチル化酵素である ten- eleven translocation (TET)の活性を低下させる。これまでの研究で TET蛋白は正常脳に発現しているが、がん細胞では 2-HG の蓄積により TET 酵素活性が低下し、ゲノム DNA のメチル化異常が促進されることから、tumor suppressor gene としての機能を有していることが分かっている。2016年の脳腫瘍WHO分類第4版の改訂版では、新たに診断としてdiffuse midline glioma, H3 K27M-mutantという分子診断の腫瘍群が規定された。H3K27M変異は、H3 K27のトリメチル(H3K27me3)を減少させ、腫瘍化に関与しているとされている。近年、IDH野生型細胞にR132変異をトランスフェクションすると、H3K27me3が増加することが示された。ES細胞の分化において、分化制御遺伝子のプロモーター領域に、H3K27me3(転写抑制)とH3K4me3(転写活性化)が共存する“bivalent domain”が形成され、その両者のバランスにより分化制御遺伝子の発現が制御されている。これまで我々が注目してきたTET蛋白はこのヒストン修飾に関与している分子である ことから解析を進める。 また、腫瘍幹細胞の栄養飢餓環境における代謝メカニズムの解明と治療効果ついて比較検討を行っており、従来の切り口とは異なった視点での解析や治療法の開発も進行中である。
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Causes of Carryover |
少額のため次年度に繰り越しました。
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Research Products
(6 results)