Outline of Annual Research Achievements |
現在行われている標準的ながん治療として,放射線治療,化学療法,外科治療などがあるが,近年,免疫細胞ががん細胞を攻撃するメカニズム,およびがん細胞が免疫細胞からの攻撃を回避するメカニズム(がん免疫寛容)が明らかにされたことから,がん免疫療法が着目されている.その中心的な分子メカニズムであるがん免疫チェックポイントを治療標的とすることで,新たながん治療戦略が見つかる可能性がある. (1) 571症例の膠芽腫の解析において,多変量解析によりヘルパーT細胞と免疫チェックポイントに関連する遺伝子の発現量から予後予測式を構築し,両者をスコア化してそれらのバランスを評価したところ,Th-2Low/PD-1Low あるいはTh-2Low/PD-L2Lowの患者群は比較的予後良好であることがわかった.(2) 27症例の中枢神経系原発リンパ腫におけるエクソーム解析において,PIM1, MYD88, CD79B, DST, IRF4, ERBB3, MYH11, DCC, KMT2Dのエクソン領域に高頻度の変異が検出され,KMT2A, AR, NSD1, EPHA3, MYH11, NTRK1, UBR5にエクソン変異をもつ患者群は予後不良であった.また,遺伝子コピー数の解析から,RAS, MAPK, PI3K, AKT, mTOR, MYCのいずれかのコピー数増加とFAS, PTEN, FOXO1, TP53のいずれかのコピー数減少が同時に検出された患者群は予後不良であった.(3) 27症例の中枢神経系原発リンパ腫におけるマイクロRNAの発現解析を行い,多変量解析により候補マイクロRNAを絞り込み,miR-30d, miR-93, miR-181bで構成される予後予測式を構築した.この予後予測式によって得られるスコアが高い患者群は予後不良であった.(4) その他として,メソトレキセート耐性中枢神経系原発リンパ腫細胞株において,メソトレキセートとその他の分子標的治療薬の相乗効果を検討した結果,ボルテゾミブを併用したとき,メソトレキセート感受性が上がることがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度の実験計画に沿って,膠芽腫並びに中枢神経系原発リンパ腫患者から得られた検体のゲノム解析,遺伝子発現解析,マイクロRNAの発現解析などを行った.その結果,膠芽腫において,ヘルパーT細胞と免疫チェックポイント遺伝子PD-1, PD-L2の発現バランスにより予後予測が可能であることがわかった.また,中枢神経系原発リンパ腫において,診断マーカーあるいは予後マーカーとなりうる遺伝子エクソン変異候補が同定され,予後に関連する細胞内シグナル経路の候補が絞り込めた.さらに,中枢神経系原発リンパ腫において,わずか3つのマイクロRNAで構築された簡単な数式により,患者の予後を予測出来る可能性が示された.
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