2018 Fiscal Year Research-status Report
神経膠腫アルキル化剤治療後の高度点変異誘導機序解明による個別化療法の開発
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18K09004
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
野口 明男 杏林大学, 医学部, 講師 (30311971)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
永根 基雄 杏林大学, 医学部, 教授 (60327468)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 神経膠腫 / 遺伝子異常 / 高度点変異誘導 / アルキル化剤 / 個別化治療 |
Outline of Annual Research Achievements |
神経膠腫に対する標準治療薬はアルキル化剤であるテモゾロミド(TMZ)である。その主たる殺腫瘍効果であるO6-メチルグアニン (O6-MG)形成は、DNA複製の際にC:T transitionによる点突然変異が生じる源泉となる。経過が相対的に長い低悪性度神経膠腫でTMZ治療後に腫瘍が再発時に悪性転化し、点突然変異数が著しく多いhypermutator形質を獲得することから、このような神経膠腫に対するTMZ療法の是非が問われている。本研究では、TMZ及び他のアルキル化剤(特にニトロソウレア薬であるACNUなど)による神経膠腫細胞に対するhypermutator形質の発生度、その分子機序を解析し、薬剤の種類や腫瘍細胞の背景形質や遺伝子異常のパターンによる相違を明らかにすることで、TMZ治療におけるhypermutator化の危険因子を探索し、神経膠腫治療の基盤となるTMZ治療の良好な対象群を解明することを目的とする。 我々の研究室で保有するヒト・グリオーマ細胞株、TMZおよびニトロソウレア薬(ACNU)への耐性の主因であるMGMTを強制発現した細胞株を用いて、TMZならびにACNUへの感受性をMTSアッセイを中心に実施し評価した。その結果、各薬剤への感受性が高い細胞株に対して、TMZあるいはACNUをsublethalな低濃度で持続暴露し、生存した細胞を引き続き同濃度~濃度を増加して、再培養することで、各薬剤に対する耐性株の作成を試みた。それらの細胞株における治療耐性因子、特にMGMTおよびミスマッチ修復機構(MMR)に関与する遺伝子の発現状況をWestern blot法を用いて評価検討した。現時点では、MGMT の発現亢進がみられた細胞株は得られているものの、MGMT発現の増加なく、MMR関連蛋白の有意な変化を来した株は得られておらず、引き続きの耐性株作成、検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
TMZによるhypermutationの分子機序解明と、その克服法の開発が目的となる。我々の研究室で保有するヒト・グリオーマ細胞株、TMZ耐性グリオーマ株などを使用し、TMZ及びACNU等による治療をin vitroならびにin vivoで行い、治療後の生存細胞及び再発腫瘍を用いて、その遺伝子異常の変化につき解析を行うことを計画した。 今年度は、グリオーマ細胞株のうち、既に先行研究でTMZおよびニトロソウレア薬であるACNUに感受性を示す細胞株、U251を主として用い、これら薬剤治療におけるIC50値を求めた。U251細胞株には、TMZおよびACNU耐性の主因と考えられているMGMTの遺伝子プロモーター領域のメチル化があることが知られており、そのためMGMT蛋白が発現していないことをWestern blot法で確認した。一方、U251にMGMT遺伝子を強制発現させたMGMT陽性U251株もこれまでの研究の中で作成しており、その株がTMZおよびACNUに耐性となるかを同様にMTSアッセイならびにWestern blot法で検討した。この基礎実験結果を基に、TMZ治療およびACNU治療がhypermutation形質、あるいはその前駆状態をもたらす可能性があるか検討するため、低用量の薬剤による持続治療を行い、治療後も生存する耐性細胞を収集し、薬剤耐性関連因子の発現状況を調べたところ、多くの場合、MGMTの発現が誘導されていることが明らかとなった。しかし、一部の細胞においては、MGMT発現の誘導は認められなかったため、引き続きミスマッチ修復機構(MMR)関連因子の発現変化を解析した。現時点まで、安定したMMR蛋白の変動は検証できておらず、引き続き治療-耐性細胞収集-因子解析を行っていく。また他の細胞株も使用する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当研究室に保管するヒト悪性グリオーマ細胞株から、U251株以外の細胞株も用いて、治療感受性に関与が予想される分子の遺伝子異常や発現状況について検討する。特にTMZ、ACNU感受性に関与する遺伝子・因子(MGMT, MSH1, MSH6, MLH1, PMS2など)に加えて、hypermutatorに関連しえる遺伝子異常(TP53, IDH1/2, Rad51, Chk1/2など)、神経膠腫におけるdriver mutationなどをCancer Panel等を用いて検索し、それら遺伝子異常とTMZ治療後のhypermutationの有無の相関を検討する。遺伝子異常や蛋白発現異常を検出し、細胞の治療に対するcharacterizationを行う。 これらの細胞をTMZ及びACNUで治療する。最終的に初年度に開始したTMZ及びACNU耐性株を作成を成功させたい。親株⇔耐性株間におけるMGMT statusとMMR機能・発現・遺伝子変異の変化の有無を解析する。樹立した細胞及び各親株のペアに対し、遺伝子変異の解析を行う。 その上で、ヌードマウス脳腫瘍モデル(Nagane M, et al. Cancer Res 56: 5079-5086, 1996など)を用いて、遺伝子異常背景が明らかとなっているTP53野生型、TP53変異型の双方の細胞株の移植後、TMZあるいはACNUでマウスを治療し、治療後の再発腫瘍を摘出し、移植した親細胞と遺伝子変異にどのような差が生じているか、解析、比較評価する。 これらの実験結果から、グリオーマ細胞において、hypermutationを惹起する因子として、MGMT、MMR、使用薬剤(TMZ/ACNU)の組み合わせ、その他有意な因子を総合解析する。
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Causes of Carryover |
初年度において、当研究室に保管しているヒト・グリオーマ細胞株U251を主に使用し、テモゾロミド(TMZ)およびACNUを用いてin vitroでの治療を継続し、これら薬剤に対して生存し、増殖できる耐性株を、治療濃度を徐々に増加させながら作成することを年度内の実験の中心として行った。それら耐性を示す細胞のサブクローンから、蛋白を抽出し、これら薬剤に対する感受性を規定する主因子と考えられているMGMTおよびミスマッチ修復機構(MMR)関連因子の発現状況や変化をWestern blot法を用いた解析を行ってきた。全体計画の中に含まれる、がん遺伝子パネルを用いた次世代シークエンサーでの遺伝子解析、また中核となると判断された遺伝子導入実験や、マウスを用いた動物実験は初年度には実施しなかったことから、計上した初年度予算より、実際の使用額は少なく済んでいることが理由である。 次年度より、使用する細胞株を増やすこと、治療の継続と、耐性株の樹立をより多く確保すること、その上での上記諸解析、特にパネルシークエンスや動物実験を開始することで、初年度に持ち越した研究費を次年度の予定額に加えて使用していく予定である。
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Research Products
(3 results)