2020 Fiscal Year Research-status Report
Establishment of a novel therapy for hemiplegia through repair pathways of Reelin/Disabled/GSK3.
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18K09009
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Research Institution | St. Marianna University School of Medicine |
Principal Investigator |
高井 憲治 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 教授 (60121167)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 登 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 教授 (40235982)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 細胞移植治療 / ヒトiPS由来神経前駆細胞 / 片麻痺モデルマウス / Reelin / yotariマウス / Disabled1 / 1次運動神経 / 神経再生 |
Outline of Annual Research Achievements |
片麻痺モデルマウスを、大脳皮質運動野(後肢領域)に凍結損傷を与えることによって実験的に作製し、それらにヒトiPSから分化誘導した神経幹・前駆(NSP)細胞を、損傷部下部の線状体に移植する治療を行ったところ、後肢運動機能が回復した。 ここで大脳皮質の発生に重要な役割を果たしていることが知られているReelinに着目し、成体マウスでのその機能を確認した。ReelinはDab1を細胞内アダプタータンパク質としている。yotariマウス(yot/yot)はDab1遺伝子に欠失があるために中枢神経に機能不全を起こす。このマウスのニューロスフェア細胞を上記片麻痺マウスに移植し、正常マウスのニューロスフェア細胞を移植した場合と比較した。Reelinは中枢神経の大脳皮質・海馬・小脳などの発生時、それらの層構造形成にかかわり、yot/yotマウスでは層構造が乱れる。yot/yotマウス由来ニューロスフェアの細胞移植では、移植細胞は皮質損傷部への移動を妨げられ、損傷部は機能回復できない。正常マウスのニューロスフェアの細胞移植では、移植細胞は皮質損傷部へ移動し、運動機能は回復した。この原因はReelinシグナル経路の有無にある。yot/yotマウスの中枢神経には組織学的な異常が見られる。そこで認知機能に係わる海馬の異常を確認した。錐体細胞や顆粒細胞は数も少なく正常マウスで見られるような整然とした層構造をなしていない。このことはDab1のリン酸化が特にY198で低下していたことやリン酸化Aktの発現も低下していたことなどから海馬を形成する神経細胞の数の低下はもとより軸索伸張やシナプス形成の低下による機能不全が予想された。yot/yotマウスにおけるこのような異常は、逆にそれに係わるDab1の機能が、神経細胞の増殖・移動等に係わることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大脳皮質運動野損傷の実験的片麻痺モデルマウスに対する治療法として、ヒトiPSから神経幹・前駆(NSP)細胞を作成し損傷部下部線状体に移植して、後肢運動機能回復を見た。 この回復機構に関し、大脳皮質発生に係わるReelinに着目した。その細胞内アダプタータンパク質であるDab1が遺伝子欠失で機能不全なyot/yotマウスの異常な表現型は、Dab1が係わる発生期以降の機能を示す。中枢神経の一部である海馬の組織学的特徴から、Dab1が海馬の神経細胞である錐体細胞や顆粒細胞の増殖・移動、層構造形成、シナプス形成に係わることが分かった。運動神経機能不全から、運動神経形成にも係わることが分かった。 正常マウスのニューロスフェアの細胞を移植したマウスの損傷部の移植細胞にはApoer、Vldlr(両者Reelinレセプター)、pDab1のほか、Integrin α5、β1、Ncadherinの発現が認められ、Reelin経路が動いたことが確認できたが、yot/yot由来のニューロスフェアの細胞を移植では、移植細胞は線状体移植部位に留まっていた。 ニューロスフェア由来細胞のin vitroでの各種分子の発現を、Reelin、Reelin関連分子(Apoer、Vldlr、Dab1、pDab1)、運動ニューロン関連分子(Nestin、Nfm、Ctip2、他)、Reelin関連接着分子(active Integrinβ1、Ncadherin、他)で見たら、yot/yot由来細胞ではpDab1、active Integrinβ1の発現が全く見られなかった。次にyot/yotマウスのニューロスフェア細胞にDab1遺伝子を導入したら、正常細胞に並行した運動神経マーカーの発現が観察できた。神経分化におけるDab1の関与は代替経路がなく必須と示された。
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Strategy for Future Research Activity |
yot/yotマウスのニューロスフェアの細胞の移植では、Reelinが移植細胞のレセプターApoer2やVldlrに作用しても、Reelinの細胞内アダプタータンパク質Dab1へのシグナルがストップし、続くGSK3(神経細胞細胞骨格、樹状突起形成、細胞移動などの作用)、また、Rap1を介したNcadherinおよびIntegrinα5β1へシグナルが伝わらず細胞移動が行われなかった。ここでyot/yotマウスの海馬構成神経細胞である錐体細胞、顆粒細胞を調べたところ、それらの増殖・移動、層構造が見られなかったこと、Dab1、Aktのリン酸化の低下が観察されたようにこれら下流領域のシグナル伝達に障害が生じたこと、またすでにpDab1、ApoER2、EphrinB2がシナプスで複合体を形成することが報告されている。yot/yotマウスのニューロスフェア由来の細胞にDab1遺伝子を導入した組換え細胞の細胞分化において、シナプス前構造およびシナプス後構造の分化が行われるかどうか、さらにそれらがシナプス形成を行うかどうか、シナプス形成に重要な役割を果たしているレセプター・リガンドであるEphrin-Ephレセプターの発現を調べて確認する。in vivoにおけるEphrin-EphR発現は脳損傷マウスにおける正常ニューロスフェア細胞の移植後に期待できるがyot/yotマウスNSP細胞の移植後の損傷部位では期待できない。 成体ではほとんど発現が見られないReelinは細胞接着因子integrinを活性化、細胞外基質との接着亢進によって神経細胞配置を制御する。運動神経とその回路にReelinの脳室持続投与が正作用を示すので、治療に応用できる。Reelin、SDF1シグナル伝達経路に関与するBDNFやSema3Aなどのシグナルについての脳損傷時の相互作用を調べる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍による物品(消耗品)の調達ストップが数カ月に及んだこと、研究代表者の体調不良による実験停止の期間が数週間に及んだこと、教室スタッフの転職に伴う教室業務のしわ寄せが本研究課題遂行に影響を与えたこと、などが挙げられる。今後の使用計画は、以上の遅れを挽回すべく器材調達の追加、実験研究体制の正常化が行われると予想される。
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