2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K09020
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
松井 誠 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任助教 (40572376)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | DDS技術 / 骨折治療 / 骨再生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、骨折部位への薬物送達技術の確立し短期間での骨折治療を目指すものである。骨折部位における出血を利用して受動的に患部に薬物を送達可能な薬物送達キャリアを創製する。本研究では、骨粗鬆症治療薬としてすでに臨床応用されているアレンドロネート(ALN)を骨形成促進剤として使用した。ALNはpH7で難水溶性であるため、静脈注射製剤としては使用できない。また、ALNは経口投与した際の腸管吸収性が高くなく、吸収量を向上させるために投与量を増加させると消化管毒性が懸念される。そこで、ALNを静脈投与できるように水可溶化し、なおかつ投与後の血中滞留性を向上させるために、ポリエチレングリコール(PEG)をpH応答リンカーを介して化学結合した。創製したPEG-ALNは、核磁気共鳴(NMR)、ならびに高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて物性を評価した。次に、PEG-ALNの生理活性を破骨細胞、ならびに骨芽細胞を用いてin vitroで評価した。その結果、PEG-ALNには殺破骨細胞効果、および骨芽細胞の骨細胞分化誘導効果を持つことがわかった。次に、血中滞留性、組織分布、ならびに骨折治療に最適な投与量を調べた。PEG-ALNを脛骨骨折モデルマウスに尾静脈経路で投与したところ、投与1時間後には高効率(10% dose/g tissue)で骨折部位に集積し、時間経過とともに増加することがわかった。続いて、骨折治療に最適なPEG-ALNの投与量を決定するために、異なる濃度のPEG-ALNを脛骨骨折モデルマウスに投与後、骨折部位周辺の組織を採取して骨芽細胞の増減をフローサイトメトリーにて評価した。その結果、6.15 x 10-2 mgのPEG-ALNを投与した群が最も骨芽細胞数を増加することがわかった。平成31年度は、決定した投与量を元に、脛骨骨折モデルマウスを用いた骨折治療実験を実施する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成30年度には、骨折部位をターゲットとした薬物送達キャリアの創製とその体内動態解析とを実施する計画を立てていた。しかし、PEG-ALNの合成、in vitroでの活性評価、ならびに体内動態評価が想定期間より早く終了することが出来た。そのため、平成31年度に実施を予定していたin vivoにおけるPEG-ALNの活性評価と骨折治療に最適なPEG-ALN投与量の最適化を前倒しで実施することができた。具体的に述べると、当初の研究計画では、PEG-ALNを骨折部位にとどめるために抗体など炎症部位を認識するリガンドが必要となると想定していた。ところが、体内動態試験の結果からPEG-ALNはリガンド分子を結合せずとも骨折部位に集積した後、長期間滞留することが明らかとなった。これは、PEG-ALNが未修飾ALNと同様にハイドロキシアパタイトと高い親和性を持つためだと考えられる。この発見により、骨への滞留性向上を目的としたリガンド分子の最適化を省略することが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度に実施を予定していたin vivoにおけるPEG-ALNの活性評価、および骨折治療に最適な投与量検討試験は、平成30年度に前倒しで実施することが出来た。そこで、本年度は、平成30年度に最適化した骨折部位において最も骨芽細胞増殖を誘導するPEG-ALN投与量を元にして、脛骨骨折モデルマウスにおける骨折治療実験を実施する。具体的には、骨折モデルマウス作製直後に6.15 x 10^-2 mgのPEG-ALNを投与する。すなわち、ALNの投与量は1.37 x10^-9 molとなる。投与後、1、2、3、および4週で骨折肢を採取し、μCTによる撮像、ならびに組織化学的に骨折部位の骨癒合を評価する。一方、骨芽細胞の増殖を誘導するPEG-ALN濃度と骨再生を促進する濃度とが異なる可能性も考えられる。すなわち、平成30年度に最適化したPEG-ALN濃度では骨折治療効果が得られない可能性がある。骨折治療効果が得られなかった場合は、骨癒合に最適なPEG-ALN投与量を調べる。また、投与したPEG-ALNにより副作用が発現しないかも調べる必要がある。一般的に知られるALNの副作用には、消化管毒性や低カルシウム血症、腎障害、顎骨壊死、大理石病などが挙げられる。そこで、PEG-ALN投与後、採血、ならびに全身組織標本を作製する。血中カルシウム濃度、血中尿素窒素量、ならびに肝機能などは採血した血液を使用することで解析する。また、消化管や腎臓、顎骨などは組織切片を作製することで組織学・形態学的な評価を実施する。上記研究計画は、若年齢マウス(生後8週齢マウス)で作製した骨折モデルにおける治療効果の評価である。若年齢の骨折モデルマウスにおける骨折治療に対して良好な結果が得られた場合は、卵巣摘出によって作製した骨粗鬆症モデルマウスにおける骨折治療効果についても前倒しで検討する。
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Research Products
(1 results)