2018 Fiscal Year Research-status Report
骨修復過程において性ホルモンを介してNOが果たす役割の解明
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18K09088
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Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
佐羽内 研 産業医科大学, 医学部, 助教 (70644863)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 骨修復能 / 一酸化窒素合成酵素 / 性差 / 性ホルモン |
Outline of Annual Research Achievements |
骨折治癒の過程は炎症反応とそれに続く骨リモデリングからなる。炎症期では骨折部位に様々な免疫応答や血管新生が生じて仮骨が形成され、破骨細胞と骨芽細胞によってリモデリングされて治癒に至る。これらの一連の過程には調節因子としてNitric Oxide Synthase(NOS)により発現されるNirtic Oxide(NO)も関与していると考えられる。本研究の目的は、我々が開発したNOSシステム完全欠損(トリプルnNOS/iNOS/eNOS-/-)マウスを用いて大腿骨にdrill holeによる骨損傷モデルを作製し、骨修復過程において性ホルモンを介してNOが果たす役割を明らかにすることである。 雌性8週齢の野生型(C57BL/6J)マウス及びトリプルNOS/-マウス、6週齢でOVXを行った雌性8週齢の野生型マウス及びトリプルNOS -/-マウスを用いて大腿骨骨幹部にドリルで直径1 mmの骨孔をあけて骨損傷モデルを作成した。術後1, 2, 4週目に骨損傷部位を動物用マイクロCTで撮影して骨修復過程における骨密度の経時的変化を測定した。また、雄性の野生型マウス、トリプルNOS -/-マウスについても同様の方法で骨損傷モデルを作成して損傷部位のBMDを経時的に測定した。各群の経時的な骨密度を比較検討して性差やNOの有無が骨修復過程に影響を与えるか否かを観察した。 さらに骨損傷部位の石灰化状態の評価と骨形態計測を行うために、骨損傷モデル作成後1週目と4週目に屠殺したマウスの大腿骨を採取して非脱灰薄切標本を作成した。 また、血中の骨代謝マーカーを測定するために、各群の骨損傷モデルを作成後、1,2,4週目に麻酔下に採血を行い血清を保存した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
野生型マウス及びトリプルNOS-/-マウスの骨損傷部位の骨密度は、術後1週から4週にかけて時間依存性に有意に増加した。雌性の野生型マウスとトリプルNOS-/-マウスの骨損傷部位の骨密度を比較すると、術後1週目と4週目で野生型マウスでは有意に骨密度が増加していた。一方、雄性の野生型マウスとトリプルNOS-/-マウスの骨損傷部位の骨密度には差がなかった。また、野生型マウスの雌雄の比較では、雌性マウスの骨損傷部位の骨密度が術後1,2,4週目のすべての時点で雄性マウスに比して有意に高かったのに対して、トリプルNOS-/マウスの雌雄の比較では骨損傷部位の骨密度に差がなかった。野生型マウスにおける雌雄の骨修復状態の違いを非脱灰薄切標本による骨形態計測で評価した。術後4週目の標本では骨修復がかなり進んでおり、評価が困難であったため、術後1週の標本を用いて評価を行った。雌性マウスの骨量(BV/TV)と骨量幅(Tb.Th)は、雄性マウスに比して有意に高かった。一方で、類骨面(OS/BS)については、雌性マウスが雄性マウスより有意に低かったことから、雌性マウスでは石灰化速度が雄性マウスに比して亢進していることが示唆された。これらの事実から、野生型マウスでは、骨損傷の回復過程において性差があることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究では骨損傷部位の骨密度の増加率から、野生型マウスにおける性差が修復速度に及ぼす影響が著明であることがわかった。そのため、損傷部位の骨形態計測に関しては、野生型マウスについての解析を主に進め、雌性の野生型マウスの骨密度の増加を裏付ける結果が得られた。これは性ホルモンが骨修復能に関与している可能性を示唆している。 雌性の野生型マウスとトリプルNOS-/-マウスの骨損傷部位の骨密度を比較すると、術後1週目と4週目で野生型マウスではトリプルNOS-/-マウスに比し、有意に骨密度が増加していた。骨におけるNOの発現にはエストロゲン等の性ホルモンも関与しており、17β-estradiolはeNOSの発現を増加させ持続的にNOを産生することで骨芽細胞の分化増殖を促すと言われている(O'Shaughnessy MC, Biochem Biophys Res Commun. Nov 2; 277(3):604-10, 2000)ことから、NOの欠損がこの結果の一因であると考えて矛盾しない。 今後は、性ホルモンが骨修復能に関与していることを調べるために、卵巣摘出マウスを用いて今年度と同様の骨損傷モデルを作成して骨修復速度を評価する予定である。 さらに性ホルモンとNOが関係性を保ちながら骨修復に関与しているかについても調査していく予定である。
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