2018 Fiscal Year Research-status Report
羊膜由来間葉系幹細胞がもつEPA-レゾルビン産生と早産予防効果の検討
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18K09214
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
大西 俊介 北海道大学, 医学研究院, 准教授 (10443475)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 幸司 北海道大学, 医学研究院, 特任助教 (70608322)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 羊膜MSC / EPA / レゾルビン / 早産 |
Outline of Annual Research Achievements |
羊膜由来間葉系幹細胞(MSC)は、出産時に廃棄される卵膜に存在していることが知られており、次世代の再生医療材料として期待されている。申請者らは、ヒト卵膜から短期間でMSCを分離培養する技術を確立し、その細胞を炎症性疾患発症動物モデルに投与したところ、その病態を有意に抑制していることを明らかにしてきた。しかしながら、羊膜MSC由来のどのような因子が、さまざまな炎症性疾患を抑制しているのかの詳細は明らかにされていない。 近年、魚油などに含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサエキサエン酸 (DHA)などの多価不飽和脂肪酸は、人体で合成されない必須脂肪酸として知られており、これらの多価不飽和脂肪酸は、主に生体内では細胞の脂質二重膜に存在し、細胞膜の柔軟性などを規定している。細胞膜への刺激が加わると、EPAならびにDHAは、ホスホリパーゼ A2 (PLA2)により膜から細胞質内に遊離され、その後、代謝される。細胞質内に遊離されると、細胞内でEPA由来レゾルビン、ならびに、DHA由来プロテクチンに代謝され、これらの代謝物における抗炎症効果が知られている。さらに近年、炎症性早産誘導性マウスモデルにおいて、EPA、ならびに、その代謝物であるレゾルビンの投与が早産を有意に抑制させることが報告され、生体におけるEPAならびにレゾルビンの摂取が早産を予防する重要な因子であると想定される。申請者らはこれまでに、複数の組織由来MSCを培養すると、正常羊膜由来MSCのみで、レゾルビンが産生されること、また、その産生に関連するPLA2の遺伝子発現が培養時間とともに上昇することを明らかにしている。申請者らは、羊膜MSC内で代謝産生されるEPA-レゾルビン産生経路が早産における重要な予防因子であると考え、その詳細を明らかにすることで早産における新規治療法の開発を探索する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度では、EPAならびにその代謝産物がもたらす早産予防効果の可能性を探索するために、羊膜由来MSC内EPAならびにその代謝産物の網羅的解析を行った。具体的には、ヒト正常由来胎児付属物を細切して、コラゲナーゼ(200 U/ml)を添加し、37℃で1時間振盪する。その後、10%胎児ウシ血清含有培養液にて培養し、MSCを分離培養する。培養後、1×107個の細胞を回収し、有機溶媒を用いた前処理後、液体クロマトグラフ質量分析(LC-MS)、ならびに、超臨界流体クロマトグラフィー質量分析 (SFC/MS)を用いてMSC内に含まれるEPAを解析した。結果としてMSC内には、EPAが存在していること、また、それに付随した代謝物の存在が明らかとなった。一方で、今年度実施予定にしていたヒト早産由来MSCならびに羊水の解析については、対象ドナーの検体が確保できなかったため次年度以降への実施を予定している。そのため、平成31年度に予定していた項目について実施した。具体的には、妊娠7日目のラットを用いて、10mgのEPAを1日1回の割合で妊娠17日目まで連続投与する。その後、ラットの羊膜を採取し、コラゲナーゼ(200 U/ml)を添加し、37℃で1時間振盪する。妊娠17日後、10%胎児ウシ血清含有培養液にて分離培養し、細胞ならびにその培養上清を回収し、有機溶媒を用いた前処理後、LC-MS、ならびに、SFC/MSを用いてMSを解析した。結果として、妊娠ラットモデルにEPAを投与するとEPAの代謝物であるレゾルビンの産生がコントロール群に比較して高い上昇傾向を示していた。これによりEPAの投与が羊膜MSC内EPAの含有量を高める結果、レゾルビンの産生を促進し抗炎症効果を発揮している可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の予定としては平成31年-32年度までに以下の項目について実施を予定している。 1. ヒト正常ならびに早産由来羊水中の代謝物の網羅的解析 具体的には、超音波の器械で胎児や胎盤、羊水の位置を観察しながら、穿刺針を子宮の中へ挿入して、100μlのヒト正常ならびに早産由来羊水を採取する。その後、有機溶媒を用いた前処理後、LC-MSならびにSFC/MSを用いて羊水中に含まれる代謝物の網羅的解析を行う。2. EPA投与後の妊娠ラット羊膜MSC内EPAならびに羊水中の代謝物の網羅的解析 具体的には、妊娠7日目のラットを用いて、10mgのEPAを1日1回の割合で2週間連続投与する。2週間後、ラットの羊膜を採取し、コラゲナーゼ(200 U/ml)を添加し、37℃で1時間振盪する。その後、10%胎児ウシ血清含有培養液にて分離培養する。培養後、1×107個の細胞を回収し、有機溶媒を用いた前処理後、LC-MS、ならびに、SFC/MSを用いてMSC内EPAを解析する。また、正常ならびに早産由来妊娠ラットから100μlの羊水を採取する。その後、有機溶媒を用いた前処理後、LC-MSならびにSFC/MSを用いて羊水中の代謝物の網羅的解析を行う。3. 早産リスクを予想する羊水内代謝産物のバイオマーカー探索 具体的には、妊娠ラットを用いて100-500ngのLPSをラットの経腟的に子宮頸部へ投与し、早産を誘発させる。その後、正常ならびに早産由来ラット羊膜MSC(1×107個)と羊水(100μl)を経時的に採取し、上記と同様な方法で前処理を行い、LC-MSならびにSFC/MSにて羊膜MSC内EPAの含有量ならびに羊水中のEPA由来代謝物の変化を解析する。さらに、ヒト由来正常ならびに早産由来羊水中代謝産物との比較解析を行い、早産リスクを事前に予測できる早期診断バイオマーカー候補の探索を行う。
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Causes of Carryover |
次年度に計画している質量分析系を用いた羊膜MSC内ならびに羊水中のEPA代謝経路の網羅的な解析を予定している。その解析には高額な解析費用が見込まれるため、次年度への予算として計上した。
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Research Products
(1 results)