2020 Fiscal Year Research-status Report
宿主の転写共役因子によるHPV遺伝子発現制御機構の解明と抗HPVペプチド薬の開発
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18K09244
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Research Institution | National Institute of Infectious Diseases |
Principal Investigator |
森 清一郎 国立感染症研究所, 病原体ゲノム解析研究センター, 主任研究官 (80342898)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | パピローマウイルス / 遺伝子発現 / 転写因子 / 転写共役因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトパピローマウイルス(HPV)はヒトの上皮細胞に感染し、子宮頸がん等の原因となる。HPVの初期遺伝子はウイルスのがんタンパク質であるE6、E7などをコードすることから、その発現機構を解明することはHPVによる発がん過程を理解するために重要である。 細胞の転写因子TEADは、特定のDNA配列に結合するが転写活性はなく、種々の共役因子と複合体を形成して転写を調節する。TEADがHPVの遺伝子発現に関わることが報告されているが、共役因子等の詳細は不明である。本研究の目的は、HPVの初期遺伝子の発現に必要な転写共役因子を特定し、TEADを介したHPVの遺伝子発現機構を明らかにすることである。昨年度までに、転写共役因子VGLL1がTEAD1を介してHPVゲノムの転写調節領域(LCR)の複数の部位に結合し、初期遺伝子の転写を活性化することを明らかにした。TEAD1が広範な細胞種で発現しているのに対し、VGLL1は組織特異的に発現し、主に上皮細胞の増殖や分化に関わっていることが報告されていることから、VGLL1はHPVの上皮細胞特異的な遺伝子発現に関わる重要な宿主因子の1つと推測された。 本年度は、VGLL1/TEAD1複合体と協調してHPV初期遺伝子の転写を調節する他の宿主因子を探索した。HPVの LCR DNA(野生型プローブ)およびTEAD1結合配列に変異を導入したLCR DNA(変異型プローブ)に結合する子宮頸がん細胞の核タンパク質を質量分析によって網羅的に調べた。TAED1、VGLL1を含む約40種類の宿主タンパク質の変異型プローブへの結合が、野生型プローブに比べ1/4以下に減少していた。これらのタンパク質の中には、VGLL1/TEAD1複合体と協調してHPV初期遺伝子の転写を調節しているものがあると考えられ、今後詳細な解析が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
転写因子TEAD1とその共役因子VGLL1の複合体がHPVの初期遺伝子の転写に必要なことを明らかにし論文発表したことから、おおむね順調に進んでいる。当初は、VGLL1/TEAD1複合体の形成を阻害するペプチド薬を開発する計画であった。しかし、VGLL1は、HPVの細胞指向性や発癌部位を決める重要な宿主因子である可能性が考えられたことから、VGLL1/TEAD1複合体と協調して転写を調節する他の宿主因子をさらに探索した。従って、ペプチド薬の開発については遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
VGLL1/TAED1複合体と協調してHPV初期遺伝子の転写を調節する宿主因子を明らかにする。LCRのTEAD1結合配列に変異を導入することで結合が減少した約40種類のタンパク質について、siRNAを用いたノックダウンによってHPV遺伝子発現への関与を調べる。ノックダウンによってHPVの遺伝子発現が低下するタンパク質は、VGLL1/TEAD1複合体と協調して転写を調節すると考えられる。同定されたタンパク質のLCRやVGLL1/TEAD1複合体との結合を、クロマチン免疫沈降、共免疫沈降等を用いて調べる。転写複合体の詳細を明らかにし、複合体形成を阻害する薬剤の開発につなげる。
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Causes of Carryover |
年度末納品等にかかる支払いが、令和3年4月1日以降となったため。当該支出分については次年度の実支出額に計上予定であるが、令和2年度分についてはほぼ使用済みである。
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