2020 Fiscal Year Research-status Report
Investigating viral and cellular factors defining histopathological features of cervical cancer
Project/Area Number |
18K09307
|
Research Institution | National Cancer Center Japan |
Principal Investigator |
中原 知美 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 研究員 (60601177)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 子宮頸がん / 腺がん / ヒトパピローマウイルス / 発がんモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本邦における子宮頸がんは、近年予後不良の腺がんが増加し子宮頸がん全体の約25%に達している。子宮頸部腺がんの大部分は高リスク型ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を原因とするが、その発がん機構は未解明である。本研究は、正常ヒト子宮頸部上皮細胞に、HPVがん遺伝子E6/E7発現と、子宮頸部腺がんにおいて頻度の高い宿主遺伝子変化を導入することにより、HPVによる腺がんの発がんモデルの作製を目的とする。代表者らの樹立した正常子宮頸部由来上皮細胞株HCK1Tは、近年子宮頸がんの起源細胞であると報告されたSCJ細胞の形質を有する世界的に珍しい細胞株である。HCK1T細胞を用い、同一起源細胞から扁平上皮および腺がんの発がんを誘導することにより、組織型決定に関与する(1)HPV側要因および(2)宿主側要因の特定を目指す。HPV腺がんの本態を解明することにより、早期診断法や治療法の開発への発展が期待できる。 本年度は、これまでに作製した HPV16 あるいはHPV18由来のE6/E7と活性型変異体であるKRASV12Gおよびc-MYCを発現するHCK1T細胞に、腺細胞への分化を促す可能性が高い候補遺伝子を単独あるいは複数組み合わせて発現させて作製した細胞や腫瘍の性状を解析した。候補遺伝子として抽出した4遺伝子のうち遺伝子”X”の単独発現のみで、p63発現の低下、腺様構造および粘液産生細胞の出現が強く誘導された。一方でその他の3遺伝子は、単独でも複数遺伝子の共発現でもHCK1Tの性状にほとんど影響しなかった。以上から、遺伝子“X”が子宮頸部における線上皮の形質の誘導や維持に関わる重要な因子であることを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
子宮頸がんTCGAを用いて組織型別の遺伝子発現パターンを解析したところ、遺伝子“X”は腺がんにおいて発現が高いことから、発がん過程における遺伝子”X”の発現亢進が腺がんの形成や維持に主要な役割を担っていると考えらる。一方で、子宮頸部における遺伝子”X”の発現制御機構はほとんど明らかになっていない。最近、HPV16およびHPV18のE6が、遺伝子”X”の発現を誘導することが報告された。そこでHCK1Tを用いて、E6発現のみにより内在性の”X”発現が誘導できるかどうか検討したところ、E6発現によるXの発現亢進が観察された。すなわち、腺がんの発がん機構にE6によるXの発現誘導が関与する可能性が考えられた。しかしながら、単層培養においては、HPV16とHPV18のE6間でXの発現誘導能に明らかな差は観察されなかった。また、HPV18のE6/E7の造腫瘍能は、HPV16のE6/E7に比べて低く、現在のモデルではマウスxenograftモデルを用いたHPV型別の組織型比較が困難であることが示された。HPV型間の比較をより容易にする発がんモデルの改良を進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
E6は子宮頸がんの扁平上皮がん発がん過程においても必須のがん遺伝子であることから、E6高発現によるXの発現誘導のみで、腺がんへの分化は説明できない。子宮頸部腺がんの罹患率が特に若年層で高い理由のひとつとして、組織内エストロゲン濃度との関連が示唆されている。さらに子宮頸部扁平上皮がんのトランスジェニックマウスモデルでは、エストロゲンが発がんに重要であることが報告されている。我々が同定した遺伝子“X”は、少なくとも他の臓器において、エストロゲン受容体と協調して働くことが示されている。エストロゲンは、女性生殖器の分化や、乳がん・卵巣がんなどの女性特有の臓器由来のがんの発症に重要であるだけでなく、ミューラー管上皮の扁平上皮への分化を抑制することが報告されていることから、子宮頸がんの組織型決定におけるエストロゲンの役割について、特にXとの関係性に注目して解明を試みたい。 今後は、HPV型間の比較を可能にするモデルを開発し、特に遺伝子Xの発現誘導に着目して比較することにより、HPV型による組織型の偏りに重要な因子の解明を目指す。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症対策のため、国内外の学会の多くが中止され、開催されてもオンライン参加に変更したことから、学会参加に関わる費用のほとんどが未使用となり、次年度使用額が生じた。さらに、比較的早期に遺伝子Xで良い結果が出たため検討遺伝子の数がへり、検出試薬などの購入が少なくて済んだことなどにより、当初の予想より研究に関わる費用を全般的に抑制できた。来年度は、当初の計画より規模を広げてRNA-seqなどの解析を行い、幅広いデータの取得と解析を行う。得られる解析データは、本研究課題だけでなく、将来の研究基盤データとして活用できる。
|