2018 Fiscal Year Research-status Report
Development of a multidisciplinary anti-metastasis treatment against lymph node metastasis of head and neck squamous cell carcinomas
Project/Area Number |
18K09379
|
Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
矢野 元 愛媛大学, 医学系研究科, 准教授 (00284414)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 頭頸部扁平上皮がん / リンパ節転移 / 細胞外小胞 / エクソソーム / リジルオキシダーゼ / 前転移期ニッチェ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、頭頸部扁平上皮がんのリンパ節転移を阻止する治療の開発を究極的な目的としている。リンパ節転移に至る過程のうち、i) 腫瘍細胞塊の原発巣からの離脱と組織内の浸潤、ii) 腫瘍細胞の移動に先立つ標的臓器 (本研究においてはリンパ節) における組織改変の誘導、の二点を標的としてそれらを並行して抑制することで真に効果的な転移抑制を図る。前者においては集団的細胞運動という特徴的な細胞運動が観察され、その維持に必須な因子としてすでにナトリウムイオン/プロトン交換輸送体1(NHE1) を見出している。また後者に関しては、腫瘍細胞から分泌されてリンパ流や血流に乗って標的に至る液性の誘導因子としてリジルオキシダーゼ様因子2 (LOXL2) をすでに見出している。両因子のノックダウンや、それぞれに対する阻害剤の併用により、集学的に転移過程を阻害することで、上記の「真に効果的な転移抑制を」目指している。 初年度は、後者である LOXL2 について、それが単なる液性因子として細胞外に分泌されているのでなく、現在各方面で大変高い注目を集めている細胞外小胞 (Extracellular Vesicles: EVs)、なかでもその粒径からエクソソームと呼ばれるものの画分に含有されることが判明したことから、それが患者血液から観察されうるのか、について検討した。約 40 例の患者血清由来エクソソーム画分において検討したところ、健常者血清エクソソームに比して高い (平均値として約 9 倍) 量の LOXL2 含量が観察された。この傾向は特に、比較的病期として初期の症例、すなわちリンパ節転移の開始前後において強く、血清エクソソーム LOXL2 含量が、転移の危険性を反映している可能性があることが分かった。現在論文のリバイス作業中であり、早期の出版が期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究が新規治療法の確立を目指しているものであるため、前述したような臨床試料中における対象分子の動態は、研究の真価を決める重要な要件である。この臨床試料における検討とともに、集学的転移抑制治療の動物モデルにおける効果検討の準備が並行しており、準備状況としては順調であると考えている。この中で、当初より LOXL2 のバイオマーカーとしての価値には注目・期待してはきたが、実際の測定から比較的初期のがんにおいてより強い相関が得られたことは、好ましい予想外の展開である。扁平上皮がんのマーカーとして、すでに SCC-ag が実用に供されているが、それは比較的高度の進行がんの検出に適しているとされる。LOXL2 においてわれわれが見出している傾向は、がん診断に対して SCC-ag と相補的な価値・位置づけをもたらすことの期待を新たにもたらしたと言え、この点に関して論文投稿における査読者からの評価も得ている。そしてそれがこれから転移を起こす可能性がある腫瘍細胞の存在を示唆することが描出できるなら、転移の危険度診断系としての開発の可能性も拓かれる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、進行中のモデル作成の樹立を目指すことに加え、前項に挙げた臨床試料における検討の深化を併せ行う。具体的には、現在のところ初診時の血液においてのみ行っている検討を、処置前後や再発時との比較、さらには初発部位、喫煙・飲酒ら生活習慣、パピローマウイルス感染の有無などの要因と LOXL2 含量の相関についてのものへと拡充する。このために例数の追加が必須であり、関係諸方面の協力態勢を構築中である。 また LOXL2 の挙動に関して不思議な点もおおい。たとえば血清画分中では活性が観察されないのに、エクソソーム画分にすると活性が発生することや、細胞系では 92 kDa として観察されるものが臨床試料中では 50 kDa として観察されることなど、いまだ未解明の分子過程が数多く存在することが強く示唆される。これらのことが、集学的抑制による転移抑制の試みに影響してくる可能性が想定されるので、これらを可能な限り併せて検討していく。 一方、NHE1 を介する腫瘍細胞の集団的細胞運動機構についても未解明か問題が山積している。NHE1 が存在することが集団に何をもたらすのか、それがどのような分子機作に依っているのか、などである。観察事実は集団としての平面極性維持への関与を強く示唆しているが、いまだその分子機作を具体的に明らかにするに至っていない。上記同様、こうした問題が集学的抑制による転移抑制の試みに影響してくる可能性をにらみ、並行して解析を行っていく。 また、LOXL2, NHE1 ともに、特異的抑制剤が存在しはするものの、いずれも試薬レベルである。臨床における使用を企図した抑制剤の探索を並行して行っていく。
|
Causes of Carryover |
計画していた物品購入において、キャンペーンによるものや想定以上の値引きが得られることがあったため、当初の予定よりやや少ない金額にて購入が可能となった。このため次年度に繰り越せる金額が生じたが、このことにより、次年度可能な検討がさらに充実することと考えられ、有意義な次年度使用額の発生と言える。
|