2019 Fiscal Year Research-status Report
神経ステロイドのオートファジー活性化作用を介した緑内障性視神経症の抑制効果
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18K09438
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
石川 誠 秋田大学, 医学系研究科, 准教授 (10212854)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉冨 健志 福岡国際医療福祉大学, 視能訓練学科, 教授 (60191623)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 緑内障 / 眼圧上昇 / 神経節細胞 / オートファジー / 神経ステロイド / 神経保護 |
Outline of Annual Research Achievements |
緑内障は本邦における主要な失明原因であり,眼圧上昇は緑内障の最も重要な危険因子である。しかし,眼圧上昇による緑内障の発症メカニズムについては、未だ不明な点が多い。 オートファジーは飢餓状態において誘導され,エネルギー産生・タンパク質新生のために,細胞内のタンパク質を分解・回収するメカニズムである。一方,オートファジーは十分な栄養下でも機能し,傷ついたミトコンドリアや凝集タンパク質を特異的に排除し,恒常性の維持に貢献する。近年,オートファジーが,緑内障の発症メカニズムに関与する可能性が報告された。 神経ステロイドであるAllopregnanolone (AlloP)は網膜神経節細胞で生成され、興奮抑制性伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)の受容体(GABAA受容体)に直接作用し神経保護的に作用することから,近年,注目されている。 AlloPはGABAA受容体を介する作用以外にも,オートファジーを活性化して神経保護的作用を発揮する可能性が報告されている。我々は,「神経ステロイドAlloP及びAlloPの誘導体を投与するとオートファジーが賦活化されて,緑内障性視神経傷害を抑制できる」という作業仮説を立て,ex vivoラット緑内障モデルとin vivoラット緑内障モデルを用いて仮説を検証した。その結果、いずれの緑内障モデルにおいても、眼圧が上昇すると網膜神経節細胞におけるオートファジーが停滞し,軸索傷害とアポトーシスが誘導された。AlloP及びAlloPの鏡像異性体(ent-AlloP)を投与すると、オートファジーが賦活化され、緑内障性視神経傷害を抑制することができた。これらの結果は、これまでと作用機序が異なる,新しい緑内障神経保護治療薬の臨床開発に向けたエビデンスであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ex vivo緑内障モデルを用いて、以下の知見を得た。 1.オートファジー賦活薬は神経保護的に作用する。ex vivo分離眼球標本を培養液中に沈め、閉鎖型加圧装置で75 mmHg、24時間加圧すると、網膜神経節細胞(RGC)の軸索の腫脹とアポトーシスが誘導された。AlloP、ent-AlloP、及びオートファジー賦活薬(ラパマイシン、トリン2)を培養液に添加して加圧すると、RGCの加圧傷害は抑制された。一方、オートファジー阻害薬(バフィロマイシン、SAR405)をAlloP及びent-AlloPと混合して培養液に添加して加圧すると、AlloP及びent-AlloPの神経保護効果は失われた。 2.AlloPとent-AlloPはオートファジー・マーカーの発現を誘導すること。ex vivo分離眼球標本を培養液中に沈め、AlloP及びent-AlloPを培養液に添加して加圧すると、オートファジー賦活化マーカーであるLC3B-IIの発現は上昇し、オートファジー停滞マーカーであるp62の発現は低下することが免疫電気泳動法で明らかとなった。電子顕微鏡観察では、AlloP及びent-AlloPを投与すると、オートファゴゾームとオートライソゾームの密度の上昇がみられた。 in vivo緑内障モデルにおいても、オートファジー賦活薬(ラパマイシン、トリン2)は神経保護的に作用し、オートファジー阻害薬(バフィロマイシン)をAlloP及びent-AlloPと混合して培養液に添加して加圧すると、AlloP及びent-AlloPの神経保護効果は失われた。以上の結果、AlloPとent-AlloPはオートファジーが賦活化して、緑内障性視神経傷害を抑制することが明らかとなった。AlloPの知見は、Autophagy. 2020 Feb 27:1-18に掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年、FDAで産後鬱の治療薬として認可されたBrexanolone(商品名Zulresso)はAlloPそのものであるが、GABA受容体刺激による意識消失の副作用がある。意識消失を回避する目的で、AlloPの光学異性体であるent-AlloPが期待されている。ent-AlloPは、AlloPと比較してGABAA受容体に対する親和性が低く、意識消失は起こさない。しかも、今回の我々の検討で、緑内障に関する神経保護効果は、ほぼ同等と考えられている。現在我々は、ent-AlloPを緑内障治療薬として、米国特許申請(US Provisional Application 62/801,187:The Enantiomer of Allopregnanolone for the Prevention and Treatment of Retinal Degeneration via Autophagy. 出願日:2019年2月5日)している。今後、FDAの認可を受けるべく、ワシントン大学医学部精神科と国際共同研究を行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定より、消耗品費(旅費)が節減できたため、次年度使用額が生じた. 残額を、令和2年度の研究費とあわせて、新しいオートファジー賦活薬を用いた追加実験に使用する予定である。
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Research Products
(5 results)