2018 Fiscal Year Research-status Report
マラッセ上皮遺残は歯周組織恒常性を制御するシグナルセンターか?
Project/Area Number |
18K09526
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Research Institution | Iwate Medical University |
Principal Investigator |
大津 圭史 岩手医科大学, 歯学部, 准教授 (60509066)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
原田 英光 岩手医科大学, 歯学部, 教授 (70271210)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | マラッセの上皮遺残 / 歯周組織 / 歯根膜 / 上皮間葉転換 / 歯根 / 恒常性維持 / Hertwig上皮鞘 |
Outline of Annual Research Achievements |
歯周組織はセメント質、歯根膜、歯槽骨からなる機能的ユニットとして、発生から萌出後に至るまで一定の幅を維持するよう保たれているが、この恒常性が破綻するとさまざまな疾患が引き起こされる。しかしこの歯周組織の恒常性がどのようにして維持されているのかはほとんど理解されていない。 近年我々は、実験的に歯の萌出時期あるいは萌出後で歯根膜内のマラッセの上皮遺残(ERM)を消失させると、歯根膜幅の減少や萎縮が生じることを見いだした。従って、ERMが歯周組織の恒常性維持に対して必須の役割を担っていると考えられるが、その分子メカニズムは明らかではない。本研究では我々が確立した独自の実験系を用いて、ERMの形成メカニズム、分子生物学的特性を明らかにするとともに、歯周組織恒常性維持におけるERMの役割と分子制御メカニズムを明らかにする。そしてそのメカニズムを応用して、予知性の高い歯周病や骨性癒着の予防・治療法の開発、歯周組織再生にむけた新しいコンセプトを提案したいと考える。 本年度はまず、ERM特異的に赤色蛍光タンパクが発現する遺伝子改変マウスの開発を行った。恒常的にERMで赤色蛍光タンパクが発現するマウスとタモキシフェン投与後にERMで赤色タンパクが発現するマウスの2種類を作成し、両者ともERM特異的に赤色蛍光タンパクが発現することを確認した。さらにこのマウスからERM形成中の臼歯を摘出してリアルタイム観察を行ったところ、ERMはこれまで考えられていた形成プロセス(Hertwig上皮鞘(HERS)の断裂)ではなく、HERSから一つ一つの細胞が脱離し、特有の動態を示したのち再凝集することによって形成されることがわかった。また、このプロセスはHERS細胞における上皮間葉転換(EMT)と間葉上皮転換(MET)のスイッチングによって制御されていることが組織学的解析より明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はERMを特異的に識別できる遺伝子改変マウス、ERM特異的にRhoAシグナルを抑制して歯根膜の減少や萎縮を生じさせる遺伝子改変マウスの作成と解析をメインテーマとして行い、前者の目的はほぼ達成された。またこのマウス臼歯を用いたin vitroリアルタイムイメージングでERMの動態を直接捉えることに成功し、ERM形成プロセスがこれまで組織学的観察から推測・提唱されていたものとは異なることを明らかにした。このことは当初の計画以上の成果である。後者のマウスも現在作成が終了して順次解析を行なっており、データの集積を行なっていることころである。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は現在進行中の実験を継続することにくわえ、研究計画に沿ってERMが特異的に分泌する因子を探索する。具体的には,マイクロダイセクションによってERMとその周囲細胞を採取し、mRNAやタンパクの網羅的解析を行い、発現の差異の解析からERMが産生するキー因子を同定する。また、同定された分子の発現局在を免疫組織学的方法にて確認する。そしてPathway解析などから、同定した因子とRhoAをつなぐシグナル経路を明らかにする。さらにここから同定した因子の歯根膜細胞に対する作用をin vitroの系で明らかにする。
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Causes of Carryover |
本年度は研究費を主に動物作成とその組織解析、リアルタイムイメージングに関わる費用として使用したが、当初予定した額より低額であった。くわえて、オミックス解析の実施を次年度に回した結果として、次年度使用額が生じた。次年度は前年度から継続の実験に加え、新たにオミックス解析や細胞培養実験を行う予定にしており、本年度以上に多くの予算が必要であると考えられる。したがって、次年度使用額を含めた計画通りの研究費使用が可能であると考える。
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