2020 Fiscal Year Research-status Report
新規神経回路解析法を用いたブラキシズムの発症メカニズムの解明
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18K09527
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
望月 文子 昭和大学, 歯学部, 講師 (10453648)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井上 富雄 昭和大学, 歯学部, 教授 (70184760)
船戸 弘正 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 客員教授 (90363118)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 睡眠時ブラキシズム / セロトニン / SSRI / うつ病 / 光遺伝学 / 薬理遺伝学 |
Outline of Annual Research Achievements |
ブラキシズムは歯ぎしりや食いしばりなどの口腔悪習癖の総称で、ストレスや薬剤の服用など、さまざまな因子が複雑に関与して発症する多因子疾患であるが、その発症メカニズムはいまだ不明である。我々は、ブラキシズムの誘発因子の一つで抗うつ薬であるセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)をマウスに投与し、睡眠中、とくにノンレム睡眠中の咀嚼筋の活動性が上昇することを明らかにしたが(Ikawa Y. et al. Neurosci Res, 2016)、強い増強効果は認められなかった。そこで本研究では、①セロトニンの感受性が増強しているうつ病モデルマウスを用いて、ブラキシズムモデルマウスを確立する、②任意のタイミングで脳内のセロトニン神経系の活動を操作できる最新の研究手法を応用し、ブラキシズム発症に関わるセロトニンの役割を生体レベルから細胞レベルまで解明することを目的とする。 2018年度では、さまざまなSSRIのうち、マウスの咀嚼筋、特に咬筋の活動性が上昇するSSRIの特定を試みた。Ikawaらの論文では、野生型マウスにシタロプラムというSSRIを投与したので、今回はシタロプラム以外のSSRIとして、野生型マウスにフロキセチンとパロキセチンをそれぞれ14日間投与し、咬筋の活動性を検討した。さらに2019年度では、フロキセチンあるいはパロキセチンを14日間投与したときの、睡眠・覚醒状態にどのような変化が生じるか脳波について解析した。さらに2020年度は、三叉神経運動核にGABAニューロンの軸索を投射する中脳水道周囲灰白質腹外側部(ventlateral PAG: vlPAG)に存在するGABA産生ニューロンの活動性を制御したときの咬筋活動性を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度では、さまざまなSSRIのうち、野生型マウスの咀嚼筋、特に咬筋の活動性が上昇するSSRIの特定を試みた。Ikawaらの論文で報告したときは、計測環境の制限により、SSRIの1種であるシタロプラムを6日間投与するのが限界であったが、その後、記録系に改良を加えた結果、14日間の長期投与後に生体電気信号を記録することが可能となった。なお、生体電気信号の取得は14日以上記録することが可能であるが、SSRIを充填した浸透圧ポンプをマウスの皮下に留置して投与する持続的投与方法では、実験を行った当時では14日投与することが最長であった。そこで、シタロプラム以外のSSRIとして、野生型マウスにフロキセチンあるいはパロキセチンを14日間投与し、咬筋の活動性を検討したところ、フロキセチンではシタロプラムと同様に、暗期後半と明期前半のノンレム睡眠時に咬筋の活動性が有意に増加したが、パロキセチンではこのような作用は認められなかった。さらに2019年度では、フロキセチンとパロキセチンを14日間投与したときの、睡眠・覚醒状態にどのような変化が生じるか検討した。マウスにフロキセチンあるいはパロキセチンを投与する前(投与0日目)と投与14日目の24時間記録した脳波を解析したところ、フロキセチンもパロキセチンも、一定時間あたりのレム睡眠の持続時間が有意に延長し、レム睡眠の出現回数が減少することがわかった。また、三叉神経運動核にGABAニューロンの軸索を投射する中脳水道周囲灰白質腹外側部(ventlateral PAG: vlPAG)に存在するGABAニューロンの活動性を抑制したときの咬筋活動性を検討したところ、睡眠覚醒時間は変化がなく、咬筋活動性にもほとんど影響が認められなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
三叉神経運動核にGABAニューロンの軸索を投射する中脳水道周囲灰白質腹外側部(ventlateral PAG: vlPAG)に存在するGABAニューロンの活動性を薬理遺伝学的手法であるDRREADDのhM4Diを用いて抑制したときの咬筋活動性を検討したところ、睡眠覚醒時間は変化がなく、咬筋活動性にもほとんど影響が認められなかった。そこで、vlPAGに存在するGABAニューロンの活動性を活性化させたとき咬筋の活動性がどのように変化するか、さらには、GABAニューロンの活動性を人為的に制御できる状態でSSRIを投与したとき咬筋活動性はどのように変化するか検討することで、ブラキシズムの発症メカニズムにセロトニンとGABAがどのように関与しているかを詳細に解析する予定である。
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Causes of Carryover |
(理由) 三叉神経運動核にGABAニューロンの軸索を投射する中脳水道周囲灰白質腹外側部(ventlateral PAG: vlPAG)に存在するGABAニューロンの活動性を薬理遺伝学的手法であるDRREADDのhM4DiをAAVを用いて発現させ、GABAニューロンを抑制して検討したところ、睡眠覚醒時間は変化がなく、咬筋活動性にもほとんど影響が認められなかった。そこで、2021年度はhM3Dqで活性化したときどのような変化があるか検討することとしたため。 (使用計画) vlPAGのGABAニューロンを活性化させるために、Addgene社などから購入するAAVベクターを応用した光遺伝学的、または薬理遺伝学的手法を用いて、GABA神経系特異的に活性化あるいは不活性化させる予定である。
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