2019 Fiscal Year Research-status Report
間葉系幹細胞ー血管内皮細胞相互作用を応用した新規歯周組織再生治療開発
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18K09570
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Research Institution | Osaka Dental University |
Principal Investigator |
岩崎 剣吾 大阪歯科大学, 歯学部, 講師 (40401351)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 歯周病 / 再生 / 歯根膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
歯周病は主に歯周病原細菌の感染による慢性炎症を特徴とする疾患である。歯を支える歯周組織が破壊されることにより進行した場合には歯は抜歯に至る。また歯周病が糖尿病や心臓血管疾患など全身性疾患の病態に関係しており、全身の健康という観点からも歯周病治療の重要性が認識されている。本研究課題は、歯周組織を再生する方策をする上で血管内皮細胞と間葉系幹細胞を利用できないかという発想に基づいている。平成30年度には骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)と血管内皮細胞の直接的な作用を共培養の系を用いて検討し、アルカリフォスファターゼ活性やvon Willebrand factor の発現亢進をMSC、血管内皮細胞で観察した。本年はこの結果を受け、歯周組織再生のカギを握る組織と考えられる歯根膜から培養されたMSCである歯根膜幹細胞(PDLSC)の液性因子による作用について検討した。比較の対象として皮膚由来の線維芽細胞を、また血管内皮細胞としてはヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞を実験に用いた。PDLSCは様々なタンパク質を産生する事が液体クロマトグラフィー質量分析によって明らかとなった。PDLSC由来液性因子を含んでいる培養上清をヒト臍帯静脈血管内皮細胞に作用させると血管内皮細胞のviability、細胞増殖の亢進およびアポトーシスの抑制が観察された。また血管内皮細胞の軟性ゲル上におけるnetwork 形成を観察したところPDLSCの培養上清中においてヒト臍帯由来血管内皮細胞は多くのcapillary-like 構造を形成した。これらのデータは歯根膜のMSC様細胞集団と考えられるPDLSCが細胞外へ放出する因子を介して血管内皮細胞の機能を制御している可能性を示しており、平成30年度の細胞-細胞間の直接的な作用と合わせてMSCが血管内皮細胞の機能を介して創傷治癒過程を変化させている事が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本実験では、まず健全抜去歯を採取し歯根膜組織を回収、collagenase/dispaseを用いた酵素処理法を用いてPDLSCを培養し実験に用いた。以前の研究からこの方法で得られたPDSLCが各種MSC細胞表面マーカーの発現プロファイルおよび骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞への分化能を有する事が確認されている。また、血管内皮細胞としてはPDLSCと同じヒト由来であり広く過去の研究に利用されているヒト臍帯由来血管内皮細胞を用いた。PDLSCから産生される液性因子は48時間の培養後に得られる培養上清として回収し、10kDaのカットオフ値を持つ限外濾過フィルタ―によってタンパク成分の濃縮を行った。PDLSCの培養上清を臍帯静脈由来血管内皮細胞へ作用させると72時間後のviability がコントロール上清(細胞を介さずに回収)と比較して上昇していた。その原因を検討するためアポトーシスによる細胞死および細胞周期において増殖期に入っている細胞数を定量した。その結果PDSLC培養上清中では臍帯静脈由来血管内皮細胞のアポトーシスは減少し、細胞増殖期を示す細胞数が増加している事が明らかとなった。さらに血管内皮細胞の血管新生機能に対する影響を検討する目的で、マトリゲルを用いたnetwork formationの実験系を用いた。臍帯静脈血管内皮細胞はコントロール培養上清中ではほとんどnetwork様構造を形成しない一方で、PDLSC培養上清存在下においては毛細血管様の多数のnetwork形成を示した。これらの結果は、PDLSCの培養上清が血管内皮細胞の増殖および機能を正に制御している事を示しており、細胞移植においては液性因子を介して血管内皮細胞による血管新生を増強する可能性を示している。歯周病の再生治療において間葉系幹細胞による血管新生を介した再生メカニズムを示唆していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
我々は、2018年度にはMSCと血管内皮細胞が細胞―細胞間の直接作用によってお互いに細胞分化の点で作用を及ぼしあっていること、そして2019年度には歯根膜のMSCであるPDLSCが細胞外へ産出する液性因子が血管内皮細胞の増殖と毛細血管様構造の形成を増強する事を観察した。いずれの結果も、MSCと血管内皮細胞が共存する事によって歯周組織再生が増強する方向へ変化する可能性を示唆するものと考えられた。 今後の研究の方向性としては、まず細胞間の相互作用に関係する点として血管内皮細胞の産生する因子からのMSCへの影響についての検討が残されている。これについては2019年度にMSC液性因子で行った検討を応用して研究を実行する事が可能である。すなわち血管内皮細胞の培養上清を用いてMSCの増殖・分化などの機能に変化が認められるか否かについて検討する事である。さらに、in vivoにおける組織形成をMSCと血管内皮細胞を実際に移植し、再生組織の形成量を観察する動物実験での検討も行う予定である。実験動物としてマウスを用いて頭蓋骨の骨欠損モデルにMSCおよび血管内皮細胞を同時に移植する。細胞については細胞シートとして移植する事が臨床応用を考慮した際に簡便であり実用的であると考えられることより、温度応答性培養皿を用いた細胞シート技術を利用する予定である。過去にPDLSC、骨髄由来MSCにおいて細胞シートの形成が可能であることは確認済みであるため、まず血管内皮細胞の細胞シート形成が可能であるかどうかについての検討が必要である。これが可能であれば、両細胞をシート化し骨欠損への移植を行い、経時的な骨組織の形成量の変化を組織学的方法あるいはマイクロCTの画像解析によって定量解析する予定である。組織切片上では血管新生および骨形成の詳細な観察が可能であることより再生メカニズムについても考察できるものと考えられる。
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Causes of Carryover |
次年度への繰り越しが発生しているが、予定された研究に対してなるべく無駄の無いよう費用の節約に努めた結果、若干の研究費の繰り越しが可能となった。翌年度についても、引き続き実験計画に則した使用状況となるよう努める。 2020年度には引き続いて培養細胞を利用した組織再生についてのin vitroおよびin vivoの研究が予定されている。そのため利用する細胞を培養、維持するための細胞培養消耗品や細胞の各種機能試験のために用いられる試薬に研究費を使用する予定である。また、動物実験については、実験動物の維持管理費用、細胞移植手術にかかる消耗品および手術器具などの費用が必要となる。さらに、組織再生プロセスの詳細な検討を予定しているため、切片作成および免疫染色に使用する各種抗体や試薬などの消耗品の使用が考えられる。ほぼすべての費用がこのような消耗品購入のために使用される予定である。備品の購入の予定は現在のところ無い。また、大阪歯科大学中央歯学研究所内に設置されている共用実験機器類を積極的に利用し経費を最大限有効に利用できるよう工夫しながら実験を進める。 研究期間も3年目になり研究結果の発表が可能と考えられる。そのため国内学会での成果発表を予定しており学会参加費、交通費、滞在費用の使用を予定している。さらに、実験により得られたデータを論文として情報発信する予定であり英文校正費用を捻出する。
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