2019 Fiscal Year Research-status Report
細胞遊走因子LRP1の歯周組織修復環境における機能的役割
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18K09625
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
二宮 禎 日本大学, 歯学部, 准教授 (00360222)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小出 雅則 松本歯科大学, 総合歯科医学研究所, 准教授 (10367617)
中村 浩彰 松本歯科大学, 歯学部, 教授 (50227930)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | LRP1 / 間葉系幹細胞 / 骨組織修復 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、LRP1が制御するMSC細胞遊走機能のメカニズムおよび組織修復に適した微小環境を明らかにすることで、新たな歯槽骨代謝制御システムを開発することを目的としている。令和元年度は、MSCsによる硬組織修復過程でのLRP1とp53の相互関係を検討した。 硬組織修復においてMSCsは、損傷部位への細胞遊走から始まり、骨芽細胞分化を経て、骨組織形成までの工程に関わっている。本研究では、細胞遊走能、組織修復能、および細胞増殖能に関して、野生型(WT)マウス由来MSCsよりもp53欠損マウス由来(KO)MSCsの方が、高い能力を有することを明らかにした。また、BMP2の添加よる骨芽細胞分化の誘導では、p53KOMSCsはアルカリフォスファターゼやオステリクスなどの骨芽細胞マーカー発現に加えて、オステオカルシンやオステオポンチンなどの骨基質タンパク発現もWTMSCsよりも高値を示した。これらの結果は、骨組織修復過程でp53が重要な役割を担っていることを示唆している。さらに、骨欠損部位から単離した(BD)MSCsは、正常な骨髄から採取した(Normal)MSCsよりもp53発現が減少した。一方、LRP1発現は、Normal MSCsよりもBD MSCsの方が高値を示した。次に、LRP1の機能的役割を解明するために、siRNAによってLRP1発現をノックダウンすると、MSCsのBMP2, BMP4, およびオステオプロテゲリンの発現が減少した。以上の結果は、骨に損傷が生じると、MSCsはp53が低下し、細胞遊走能や細胞増殖能が亢進する。それと同時にMSCsは、LRP1が高発現することで、BMP2刺激が加わり、骨芽細胞分化が誘導されると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、実験動物飼養エリアの確保が困難であったため、p53欠損マウスの入手に時間を要してしまった。その影響で、p53欠損マウスの骨欠損修復の組織学的評価やこのマウスでのLRP1陽性MSCsの細胞挙動や細胞頻度の解析によるp53とLRP1の関係性の検討の遂行が困難であった。しかし、令和元年度でp53欠損マウスを飼育・繁殖することが可能になったため、平成30年度に予定していた実験計画を達成することができた。また、p53欠損マウスの飼育・繁殖が安定するまで、令和元年度の予備実験を行っていたため、令和元年度の実験を円滑に進めることが可能となり、これまでの遅れを取り戻すことができた。したがって、本研究は、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は、LRP1が機能する微小環境の検索とLRP1が歯周組織修復に寄与することを明らかにするために、以下の実験を行う。 1. 組織修復の微小環境におけるLRP1の役割を明らかにする。① 微小環境に必須な細胞外基質(ECM)の検討:1型コラーゲン、4型コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンのうち複数種類を混合したECMをハイドロゲル上に作製する。そのプレート上にLRP1 KO MSCsおよびLRP1を過剰発現したLRP1 Tg MSCsを播種し、それぞれのMSCs接着能を評価する。② 骨組織修復に適したECMの検討:前実験で決定したECM上でLRP1 KO MSCsおよびLRP1 Tg MSCsを培養し、細胞増殖および骨芽細胞マーカー発現を検索する。 2. LRP1発現によって歯槽骨量が調節されることを明らかにする。① LRP1 KOマウスの骨量変化:LRP1KOマウスの第一臼歯を抜歯し、その抜歯窩の修復をマイクロCTおよび組織化学的に評価し、野生型(WT)マウスと比較・検討を行う。② LRP1KOマウス臼歯の矯正移動:LRP1は、病的状態のみならず、矯正力が加わった際にも骨代謝のバランスを調節していると考えられる。そのため、LRP1KOマウスの臼歯を矯正装置によって移動させ、その際の歯の移動および骨形成・骨吸収を形態学的に観察する。
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Causes of Carryover |
キャンペーンなどを利用したため、当初の予定より物品費が安く抑えられた。さらに、コロナウイルスの影響によって日本解剖学会が紙面開催となったため、旅費および宿泊費の出費がなくなり残金が生じた。次年度への繰越金は、令和2年度の助成金と合わせて、細胞を用いた実験の消耗品に使用する。特に、細胞の微小環境を検討するための細胞外基質やサイトカインは高価なため、これらの購入に使用することで、重要な実験の実施への負担が軽減される。
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Research Products
(8 results)