2018 Fiscal Year Research-status Report
エナメル質を保全できる矯正歯科治療―量子力学・錯体化学・プラズマ物理学的展開―
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18K09826
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山方 秀一 北海道大学, 歯学研究院, 助教 (70292034)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | エナメル質 / ランタノイド / ナノ粒子 / 錯体 / 蛍光 / 矯正装置 / 接着 / ボンディング材 |
Outline of Annual Research Achievements |
エナメル質損傷を低減・回避できる矯正歯科治療法の構築に向け、以下の成果を得た。 まず、Tris (1,3-diphenyl-1,3-propanedionato) (1,10-phenanthroline) Eu(III) [Eu (DBM)3 Phen]を用い、PMMA/MMA-BPO/アミン系レジンおよび4-META/MMA-TBB系レジンへの添加の効果について評価した。前者ではEu錯体含有率依存的に蛍光強度が増加するのに対し、後者ではほとんど蛍光を発しないことを明らかにした。前者では395 nmに励起極大波長が、579, 591, 613および652 nmにそれぞれEu3+イオンの5D0 → 7F0, 5D0 → 7F1, 5D0 → 7F2および5D0 → 7F3遷移による蛍光が認められ、613 nmが蛍光極大波長であることを確認した。後者の原因は、n-TBBによるDBMの異性化とそれに伴う配位圏内でのカスケード遷移の不成立であると結論づけた。 次に、ジメタクリレートをベースとする7種の光重合型蛍光ボンディング材を試作し、光学・色彩学的評価を行った。自然光下での色は、カンファーキノンおよびEu錯体の含有率をともに0.1 wt%まで下げることで無色に近い淡黄色にできた。すべての試料で395 nmに励起極大波長、613 nmに蛍光極大波長が現れ、蛍光強度はEu錯体含有率依存的に増加した。最大蛍光強度y は、Eu錯体含有率(x)が0.1 wt%以下の場合には指数関数的に増加するが、0.1 wt%を超えると増加が鈍化することを明らかにした。色彩については、EU錯体含有率0.2, 0.4 wt%の試料の蛍光は鮮やかではあるものの明度が高すぎるため、0.1 wt%未満の試料では励起光(青-青紫)が優勢となるため、臨床応用には0.1 wt%が好適であると結論付けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新規性の高い材料開発の領域では、その作製方法に通法と呼べるものは特にないため、作製方法のプロトコール確立に多大な時間と作業が必要となる。初年度からジメタクリレートおよび光重合開始剤、還元剤、重合阻害剤の調合に関する配合比ならびに合成手法に目途を立てられたことは非常に大きな成果であった。また、高い品質管理を保って評価用重合体試料の作製が可能となっていること、ならびに各実験から今後の展開にとって有益な結果が得られたことは特筆に値する。特に、発光中心(Eu3+)の励起波長として利用し得る253 nm(間接励起)および395 nm(直接励起)のうち、前者は強い蛍光を得られるものの生体に対する破壊性が極めて高いUVCであるため口腔内での使用は禁忌である。そのような観点からも、ほぼ可視光域に近い395 nmに励起極大波長を持つEuを選択し、蛍光の量子効率を最大限に引き出せるEu錯体[Eu (DBM)3 Phen]とジメタクリレートベースのボンディング材との相性に高い実用可能性を見いだせたことは非常に大きな成果であったといえる。 また、既に、蛍光ボンディング材の開発に関しては、さらに様々なジメタクリレートの利用や、より優れた配合比を検証するための実験プラン、ならびに牛歯エナメル質への接着強さの評価を行うための準備が、大気圧低温プラズマの応用に関しては、牛歯エナメル質の表面化学結合の分析ならびに剪断試験による接着強さの評価を開始できる準備が整っており、第2年度の研究遂行に向けて順調な進捗状況にある。 これらの実験の継続実施および展開によって、研究期間全体を通して予定どおりの成果が得られる見込みであると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、平成30年度の研究成果に基づいた検証実験に加え、ウレタンジメタクリレート(UDMA)とトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)の混合比の変化が光学・色彩学的特性および粘度、重合度、重合体の機械的特性およぼす効果に関する実験へ最優先で取り組む。続いて、Bis-GMAなどのジメタクリレートも候補に加え、同様に評価していく予定である。これらの進捗次第で、早ければ2019年度内に牛歯エナメル質への接着強さの評価を開始することも視野に入ってくると考えている。また、並行して行っているユウロピウム賦活酸化イットリウム(Y2O3:Eu3+)ナノ粒子の合成について効果的な原子比および尿素濃度、焼成温度を特定するとともに、ジメタクリレート内への分散についてナノ粒子の表面改質を主とする実験的評価ならびに制御法の考案を進める。また、X線回折装置(XRD)によるナノ粒子の微細構造評価ならびにエネルギー分散型X線分析装置(EDS)による元素マッピングに基づく構成元素」解析を行い、Y2O3へのEu3+ドーピングの限界を物理量として明らかにしていく。さらに、2020年度以降の実施が予定される疑似口腔環境で長期経過させた試料の蛍光特性、透明度、接着強さ等の実験の具体的構想を策定する。 一方で、窒素ガス大気圧低温プラズマによる表面改質については、XPSによる牛歯エナメル質試料表面の化学結合状態の解析ならびに接着強さに関する剪断試験、引張試験を行う。また、八フッ化プロパン(C3F8)ガス大気圧低温プラズマによるエナメル質表面の疎水化処理を開始する。これは、ブラケット接着後に周囲エナメル質を疎水化することで細菌叢吸着の抑制、耐酸性の向上を試みる実験として位置付けられる。 さらには、当該研究課題の研究期間全体を通して得られる成果を、展開領域へとつなげる戦略的検討の基礎としていく予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額(B-A)は、平成31年3月までの使用計画に従った発注・納品に伴って発生した純粋な未使用残額である。
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Research Products
(17 results)