2020 Fiscal Year Research-status Report
エナメル質を保全できる矯正歯科治療―量子力学・錯体化学・プラズマ物理学的展開―
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18K09826
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山方 秀一 北海道大学, 歯学研究院, 助教 (70292034)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | エナメル質 / ランタノイド / ナノ粒子 / 錯体 / 蛍光 / 矯正装置 / 接着 / ボンディング材 |
Outline of Annual Research Achievements |
エナメル質損傷を低減・回避できる矯正歯科治療法の構築を目指し、実験用ボンディング材に1)均一沈殿法によるユウロピウム賦活酸化イットリウム(Y2O3:Eu3+)微粒子、または2)ユウロピウム-β-ジケトン錯体[Eu(DBM)3Phen]を添加し、1)では微粒子の分散性、光物理特性、および機械的特性に及ぼす微粒子含有率の影響を、2)では光物理特性および機械的特定に及ぼすモノマー[ウレタンジメタクリレート(UDMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)]混合比の影響を検証し、以下の成果を得た。 1)微粒子含有率5, 10 wt%の試料では、蛍光強度は後者のほうが約4倍高いという結果が得られた。これに関しては、単純な含有率による量子収量の差ばかりではなく、ボンディング材重合体内部における微粒子の増加に伴う拡散反射の増加が寄与したと推測している。また、微粒子含有率の増加に伴う重合収縮率の低下と曲げ弾性率の増加は、ボンディング材として具備する特性として良好な範囲内であることも明らかにできた。総合的にみれば、より望ましい含有率の特定には一層の検証が必要であると考えている。 2)については、ボンディング材の蛍光強度はベースモノマー混合比の影響を受けず、曲げ弾性率は影響を受けると仮説を立て、4種の混合比で検討を加えた。今年度の結果からは、重合体の蛍光強度はベースモノマー混合比によらずほぼ同等であったが、UDMA比率の高い試料では蛍光強度の僅かな低下が認められた。これについては、高粘度モノマーほど微細な気泡を含みやすく、結果として重合体内で気泡による望ましくない拡散反射が起き、量子収率が低下することが理由であろうと推測している。一方、曲げ弾性率の仮説に関する今年度の実験結果だけでは、傾向は認められたものの結論付けるには不十分と判断した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第3年度末までに、1)Y2O3:Eu3+微粒子を用いる研究ルートでは、①均一沈殿法開始液の尿素濃度と微粒子のサイズならびに蛍光特性との関係を評価できている点、②微粒子の均一な分散を制御し得るモノマー配合比の目途を立てられている点、③段階的に好適な微粒子含有率の特定に向かっている点で順調といえ、2)ユウロピウム-β-ジケトン錯体を用いる研究ルートでは、①Eu(DBM)3Phenとジメタクリレートをベースモノマーとするボンディング材との相性に高い実用的可能性を見いだせている点、②ベースモノマー混合比が蛍光特性および機械的特性に及ぼす影響についての基礎的データが得られている点で順調といえる状況にある。さらに、両研究ルートに共通して、①ほぼ可視光域に近い395 nm付近に励起極大波長を持つユウロピウムに有用性を見い出せた点、②bisphenol Aを骨格に持つBis-GMAを用いることなく、UDMAを主体とするモノマーブレンドで代替できる可能性を示せた点、③重合体試料の作製が高い品質管理を保って可能となっている点からも、成果の面においては次年度の研究実施に向けて順調な進捗状況にあると考えられる。 蛍光ボンディング材の開発においては時間や環境による各種特性の変化に関する実験ならびに牛歯エナメル質への接着強さの評価に関する実験、大気圧低温プラズマの応用においては牛歯エナメル質の表面化学結合の分析ならびに剪断試験による接着強さの評価を開始できる段階にあり、準備の面においても次年度の研究実施に向けて順調な進捗状況にあると考えられる。 これらのことから、研究期間全体を通して予定どおりの成果が得られる見込みであると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、令和2年度の研究成果に基づき、UDMAとTEGDMAの混合比の変化が光学・色彩学的特性および粘度、重合度、重合体の機械的特性に及ぼす効果等について、より詳細な検証実験に最優先で取り組む。続いて、時間や環境による各種特性の変化に関する実験を行う。このための、疑似口腔環境で長期経過させた試料の蛍光特性、透明度、接着強さ等の実験の構想については概ね具体化できているが、適宜修正を加えながら実験の実施計画を策定していく。これらの進捗次第で、牛歯エナメル質への接着強さに関する実験を実施する予定である。なお、蛍光体にはこれまでどおりEu錯体[Eu(DBM)3Phen]およびY2O3:Eu3+微粒子の両方を用いることとし、両研究ルートを並行して進める予定である。 一方で、窒素ガス大気圧低温プラズマによる表面改質については、XPSによる牛歯エナメル質試料表面の化学結合状態の解析ならびに接着強さに関する剪断試験、引張試験を行う。また、八フッ化プロパン(C3F8)ガス大気圧低温プラズマによるエナメル質表面の疎水化処理を開始する。これは、ブラケット接着後に周囲エナメル質を疎水化することで細菌叢吸着の抑制、耐酸性の向上を試みる実験として位置付けられる。 当該研究課題の研究期間全体を通して得られる成果を、その先の展開領域へとつなげる戦略的検討を行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額(B-A)は、令和3年3月までの使用計画に従った発注・納品に伴って発生した純粋な未使用残額である。未使用額のほとんどは、完全オンライン開催となった国際学会への出席のために計上していた費用(参加費、旅費、ポスター製作費)である。 次年度助成額への組み入れ後には、当該研究課題開始当初に計画した内容に加え、論文投稿を増やすことで意義ある予算執行に充てることを予定している。
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Research Products
(7 results)