2021 Fiscal Year Research-status Report
黄色ブドウ球菌の咽頭保菌の実態解明および口腔保健行動による除菌の検討
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18K09917
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Research Institution | Saitama Prefectural University |
Principal Investigator |
村井 美代 埼玉県立大学, 保健医療福祉学部, 准教授 (00200254)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 黄色ブドウ球菌 / 咽頭保菌 / 新しい生活様式 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題においてこれまでに、若年健常者を対象とした黄色ブドウ球菌の鼻腔や咽頭の保菌調査から、鼻腔よりも咽頭保菌者が多いこと、鼻腔と咽頭への保菌は独立した事象であること、口腔保健行動により咽頭への保菌は有意に減少することなどを明らかにしてきた。 黄色ブドウ球菌を新しく保菌する場合、汚染源は保菌者や保菌動物であり、飛沫、直接または間接の接触に加え、空中に一時的に舞っている菌塊を吸入することで伝播する。現在、新型コロナウイルス感染症対策として「新しい生活様式」、つまり人と身体的距離をとるか接触時にはお互いマスクを着用すること、手洗いをすること、密閉を避け屋内はこまめに換気することなどが推奨されている。本研究ではそのような生活様式が、健常者における黄色ブドウ球菌保菌に及ぼす影響を評価するため、臨床検査学専攻の3・4年生40名を対象に鼻腔や咽頭の黄色ブドウ球菌保菌調査を行い、新型コロナウイルス流行以前の2016~2019年に行った臨床検査学専攻の3・4年生延べ221名の保菌調査結果と比較した。 鼻腔保菌群は2019年以前と2021年で40%と変わらず、咽頭保菌群では2019年以前の67%から2021年は58%と9%減少していたが、有意差は認められなかった(OR=0.68, 95%CI: 0.34~1.35)。さらに、鼻腔・咽頭の少なくともどちらか一方に保菌している群は、2019年以前の75%から2021年では62%と13%減少したが、有意差は認められなかった(OR=0.57, 95%CI: 0.28~1.15)。 以前に行った検討で、黄色ブドウ球菌の鼻腔への保菌は持続性が高かったこと、一方咽頭では菌株の出入りが鼻腔に比べて多かったことから、マスク着用や換気といった「新しい生活様式」は、黄色ブドウ球菌の咽頭への新規保菌を減少させている可能性が高い。しかし2021年の調査対象者数が少ないこともあり、本検討では残念ながら有意差が認められていないため、さらなる検証が必要と思われた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2019年度までに咽頭保菌状況と口腔保健行動の影響を知るための基礎調査のデータ取得はほぼ終わっていて、一定の知見を得ることが出来ていた。2020年度には介入研究の予備的な調査を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の影響で、新規の保菌調査を伴う研究を見送らざるを得なかった。2021年度も引き続き新型コロナウイルス感染リスクの高い保菌調査は控えていたものの、感染流行が一時的に収まった時期に、感染対策を施しながら保菌調査を安全に実施する方法を構築した。具体的には、一度に実施する人数を絞り個別にパーティションの前で検体採取を行い、対象者の入れ替わり毎にアルコール消毒を実施した。さらに検体採取は、対象者自身に行ってもらった。これは授業で鼻腔や咽頭の検体採取の手技を学習する臨床検査学専攻の学生でなければ実施できなかったと思われる。保菌調査は、新型コロナウイルス感染症対策としての「新しい生活様式」が鼻腔や咽頭への黄色ブドウ球菌の保菌に与える影響について検証することを目的に行い、咽頭保菌に若干の減少を認めたものの、いままで研究課題としてきた口腔保健行動ほどの効果は得られないことがわかった。そこで当初の計画通り、口腔保健行動による本格的な介入調査が必要との結論に到ったが、再び新型コロナウイルスの感染拡大により、介入調査は未だ始められていない。
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Strategy for Future Research Activity |
検査専攻の学生を対象に、歯磨きおよびデンタルフロスの使用についての知識および正しい使用技術の講習を行った上で、1日3回の歯磨きおよびデンタルフロスの使用によって黄色ブドウ球菌の咽頭保菌が改善するかの介入研究を行う。 また、保菌調査で得られた菌株に関して咽頭に定着しやすい菌株の特徴を探る。すでにPCRで行うことが出来る型別については一通り行っているが、さらに詳細にクローンの特徴を捉えるため、各種毒素(PVロイコシジン、TSST-1、表皮剥奪毒素、エンテロトキシンなど)などの病原因子の検索、シークエンス法を用いた型別であるMLSTを進めたい。
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Causes of Carryover |
2021年度は引き続き新型コロナウイルス感染症流行のため、一部保菌調査を再開したものの、再拡大により介入研究を延期した。
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