2022 Fiscal Year Research-status Report
黄色ブドウ球菌の咽頭保菌の実態解明および口腔保健行動による除菌の検討
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18K09917
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Research Institution | Saitama Prefectural University |
Principal Investigator |
村井 美代 埼玉県立大学, 保健医療福祉学部, 教授 (00200254)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 黄色ブドウ球菌 / 鼻腔保菌 / 咽頭保菌 / 口腔保健行動 / DNA型別 |
Outline of Annual Research Achievements |
若年健常者における鼻腔・咽頭の黄色ブドウ球菌保菌実態を明らかにすることを目的に、臨床検査学または口腔保健学を専攻する3・4年生を対象に、鼻腔と咽頭の保菌調査ならびに口腔保健行動を主とする質問紙調査を実施した。また、保菌者1名につき各部位から1株分離した菌株について、黄色ブドウ球菌の付着因子ファイブロネクチン結合タンパク(fibronectin-binding protein, FnBP)遺伝子の塩基配列の多型に基づくFnBP sequence typing (FnST)を、本研究室で開発した21タイプに型別可能なmultiplex-PCR法にて実施した。FnSTはゲノム系統を反映したMLSTに対応することがわかっている。 保菌調査では313名中、鼻腔保菌の116名(37%)に比べ咽頭保菌178名(57%)で有意に保菌率が高かった(OR:2.24, 95%CI:1.62-3.09)。鼻腔と咽頭両方に保菌する81名中、31名(38%)が異なる型の菌株を保有していた。鼻腔と咽頭由来株のFnST型分布には偏りが見られず、保菌にかかる菌側の因子は両部位で差がないことが推測された。 質問紙調査で咽頭保菌のリスク低減要因として有意差が得られた項目は、口腔保健学専攻(OR:0.30, 95%CI:0.19-0.49)、デンタルフロスの使用(OR:0.38, 95%CI:0.23-0.63)、歯磨き1日3回以上(OR:0.50, 95%CI:0.31- 0.79)であった。一方、鼻腔保菌は口腔保健行動により影響されず、リスク上昇要因はアトピー性皮膚炎(OR:2.07, 95%CI:1.06-4.04)と食物アレルギー(OR:2.83, 95%CI:1.31-6.12)の既往であった。 これらの結果から、黄色ブドウ球菌の鼻腔と咽頭の保菌は互いに影響は受けるものの独立した現象で、保菌のしやすさの要因は鼻腔と咽頭で異なるが宿主側にあること、咽頭保菌は口腔保健行動による影響を受けやすいことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究課題については元々2018-2021年度の4年間を予定し、特に後半の2020,21年度では口腔保健指導を伴う介入研究を予定していた。しかし新型コロナウイルス感染症流行の影響で、2020年度から新規の保菌調査や口腔保健指導介入を伴う研究を見送らざるをえなかった。2021年度の感染流行が一時的に収まった時期に、感染対策を施しながら保菌調査を安全に実施する方法を構築し、ユニバーサルマスキング生活を送る中での黄色ブドウ球菌の保菌状況を観察し、マスクが咽頭保菌率の減少に一定の役割を果たしている状況証拠を得た。 一方で、2018年度までに終了していた保菌調査および質問紙調査の詳細な解析により、咽頭保菌低減の要因は単に歯磨き回数や歯間清掃補助具の使用だけでなく、口腔保健学を専攻する学生であることが重要考えられたため、介入調査を実施するのであれば口腔保健学専攻の学生と同じレベルでの口腔保健指導を伴うが必要であると考えた。 ところが研究期間を延長した2022年度になっても、新型コロナウイルスの感染拡大が続き学生の感染者も相当数出たことから、学内で研究のために口腔保健指導を行うことに危機感を覚え、この研究費支給期間での介入研究は断念した。2022年度は得られた菌株の性状の精査を行い、さらにMRSA株のゲノム解析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
保存菌株を用いてMRSAの検出を行ったが、対象者述べ313名中、計4名がMRSAを保菌しており(保菌率1.3%)、そのうち2名が鼻腔と咽頭の両方、1名が鼻腔のみ、もう1名が咽頭のみに保菌し、分離した全ての黄色ブドウ球菌に占めるMRSAの割合は2.4%(7/293株)であることがわかっている。DNA型別や薬剤感受性試験の結果から、4名が保菌していたMRSAは、異なるクローンであることが明らかになっている。得られたMRSAクローンのゲノム解析を進めており、その結果を臨床株などと比較する予定である。
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Causes of Carryover |
理由:2020年度より新型コロナウイルス感染症流行のため、予定していた介入研究を延期していたが、研究対象者である学生の間でも感染が広まってきたことから、口腔保健行動の介入研究の実施は断念した。代わりにMRSAのゲノム解析を進めているが、追加の倫理審査などに時間を取られ、年度内には終了しなかった。 使用計画:2023年度はこれまでのデータに、MRSA株のゲノム解析の結果を加えて、論文としてまとめ投稿を予定している。経費残高は英文校閲や論文投稿費に充てる予定である。
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