2020 Fiscal Year Research-status Report
慢性歯周炎によるがん化シグナルメカニズムの解明から漢方薬物由来創薬開発
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18K09929
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Research Institution | Osaka Dental University |
Principal Investigator |
王 宝禮 大阪歯科大学, 歯学部, 教授 (20213613)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今村 泰弘 松本歯科大学, 歯学部, 講師 (00339136)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 歯周医学 / がん / 抗ガン薬 / 漢方薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性炎症とがんとの間には関連性のあることが疫学的に示唆されている。歯周病原菌の構成成分は宿主細胞への持続的な刺激により炎症性サイトカイン産生を誘導し、慢性炎症疾患である歯周病を発症・進行させる。歯周病などで産生される炎症性サイトカイン、特にIL-6はがん細胞の増殖、転移、浸潤などといった生物学的活性を促進する。また、がん細胞が微小環境中に分泌する様々な因子の中で、IL-6はオートクライン的にがん細胞の生物学的活性化を誘導し、がんの悪性度を高めて悪液質へと導く。本研究の目的は歯周病の慢性炎症ががんを誘発するメカニズム解明とがん細胞のIL-6産生並びにIL-6刺激によるがん細胞の活性化を抑制する薬物が必要となる。近年、漢方薬は免疫賦活化作用および抗悪性腫瘍作用を期待して患者に投与されることが多い。また、科学的根拠に基づいた漢方薬の厳選並びに投与が行われていないのも現状である。そこで、本研究では将来的な漢方薬による抗悪性腫瘍薬としての適切な適用とまだ明らかにされていない作用機序の解明を目指すところにある。現在は候補漢方薬の絞込みに至った。次に、IL-6プロモーターをルシフェラーゼ(Luc)遺伝子に連結したレポータープラスミドを癌細胞に導入後、効果の認められた漢方薬を添加し、IL-6の転写活性を解析し、細胞生存率をMTTアッセイにて解析できた。がん細胞はIL-6がその受容体に結合することにより、主に以下のシグナルが伝達され、活性化される。JAK/STAT経路により転写因子STAT3が、また、MAPキナーゼ経路によりElk-1、NF-IL6などの転写因子が活性化される。その結果、細胞接着分子(ICAM-1やVCAM-1など)などといったがんの転移、浸潤に関わる遺伝子の発現が誘導される。これにより、がんの悪性度は上昇する。そこで、これらの情報伝達系を阻害する漢方薬を探索した結果、黄連湯に可能性を見出した。、
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
がん細胞のIL-6産生を抑制する漢方薬の探索とその作用機序を分子レベルで解明した。この結果は、漢方薬の歯周病への適応(効能追加)に繋がる知見となる。炎症誘発に関係するIL-6は主に免疫細胞などから分泌されるが、がん細胞からも産生され、血流を介して全身に分布し、がんの微小環境に影響を及ぼす。これは、がんの転移や浸潤、血管新生亢進などによるがんの悪性度と関係がある。そこで、以下の実験により、歯周病と関連があるとされる口腔扁平上皮癌、食道癌、大腸癌細胞(IL-6産生細胞)などに様々な漢方薬を添加し、IL-6産生量の変化をELISAにより解析した。興味深いことに、IL-6産生量を減少させる漢方薬とIL-6産生量を増加さた漢方薬あるいは、変化させない漢方薬が明らかになった。IL-6を減少させた漢方薬は計画通りに細胞内情報伝達系を探求できたが、上昇させた漢方薬はB細胞など他の免疫担当細胞との反応を追及することはできなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
がん細胞のIL-6産生を抑制する作用機序解明のためにIL-6プロモーターのデレーションミュータントを用いて、漢方薬で影響されるIL-6の転写調節領域を決定。また、そこに結合する転写因子についてゲルシフトアッセイやフットプリンティング法などにより解析(DNAの結合配列を決定)。次に、漢方薬処理或いは未処理の癌細胞から核抽出物を調製し、転写因子に関するDNA-核タンパク質アレイを行い、不活性化(脱リン酸化など)された或いは低発現となった転写因子を検索し、その転写因子を同定する。この転写因子の活性化に関わるシグナル伝達経路において、抑制的に働く因子などをタンパク質アレイで解析。また、ウェスタンブロット法などでこれら因子のリン酸化や発現量を解析していく。漢方薬は複数の生薬により構成されている。効果のあった生薬成分についても上記と同様に解析する予定である。次に作製された細胞株にIL-6存在下で様々な漢方薬を添加後、STAT3及びElk-1による転写活性をLucアッセイにて解析。また、細胞生存率をMTTアッセイにて解析する。さらに転写抑制効果のあった漢方薬について、JAK/STAT経路やMAPキナーゼ経路に関わる因子の発現やリン酸化などについてタンパク質(抗体)アレイにて解析。効果のあった漢方薬の構成成分(生薬)についても上記と同様に解析していく。
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Causes of Carryover |
コロナの影響により、研究室の使用に制限が加えられ、かつ、試薬などの納入に時間がかかった。次年度の実験のための物品費として用いる。
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Research Products
(1 results)