2019 Fiscal Year Research-status Report
石綿関連悪性中皮腫の次世代シークエンスで同定した融合遺伝子の発癌・治療標的性解析
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18K10046
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
嘉数 直樹 九州工業大学, 戸畑地区保健センター, 教授 (20264757)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 悪性中皮腫 / 融合遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの種類の固形腫瘍において、その発生や悪性化に深く関与していると考えられる融合遺伝子が続々と明らかになってきた。近年の代表的な発見例として、神経膠腫や悪性黒色腫等の様々な固形腫瘍におけるNTRK融合遺伝子が挙げられる。こうしたNTRK融合遺伝子陽性の腫瘍については、生成される融合蛋白のキナーゼ活性を阻害する薬剤であるエヌトレクチニブやラロトレクチ二ブの臨床的有効性が明らかになり、我が国において分子標的治療薬として相次いで製造販売が承認された。このように、病態に本質的に関与している融合遺伝子の発見は発癌経路の解明だけではなく、分子標的治療薬の開発にもつながることが期待される。 我々は悪性中皮腫の原因候補となる融合遺伝子を探索すべく、臨床検体ではないが、細胞株を対象にしてRNA-seq解析を先行研究で行った。その結果、Podoplanin(PDPN)、MET、STAT3遺伝子がそれぞれ関与する融合遺伝子を同定していた。これらは、融合遺伝子のデータベースであるChimerDB等で検索してもヒットしなかったことから、新規の融合遺伝子であると考えられた。融合遺伝子データベースでさらに検索を進めると、上記の3つの融合遺伝子とはパートナー遺伝子との組み合わせは異なるものの、PDPN、MET、STAT3遺伝子のそれぞれと融合する遺伝子として、VEZT、WNT2、ETV4が新規に見出された。PDPN、MET、STAT3の3遺伝子は、その遺伝子内の変異によって悪性中皮腫で高頻度に活性化されていることが既に報告されている。従って上述の融合遺伝子形成に伴っても恒常的に活性化し、悪性中皮腫の発生や悪性化に関わることは十分に予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の初年度目の後半に遠方の研究機関への異動が生じた。異動の前後は移転作業により研究活動を大幅に中断せざるを得なくなった。さらに、異動先の研究機関では実験環境を一から立ち上げ、さらに十分に整備する必要があった。この段階で、当初の予想より多くの時間を要したため、研究への着手が遅れて、進捗にずれが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
悪性中皮腫細胞株をRNA-seqによって解析し、Podoplanin(PDPN)、MET、STAT融合遺伝子が同定されていた。最近は固形腫瘍においては、発生部位の病理組織型ではなく、特定の融合遺伝子の種類によって分類されるようになってきている。例えば、「ALK融合遺伝子陽性腫瘍」がその良い例である。今や肺癌や腎癌では、ALK融合遺伝子が同定されれば、病理組織型にかかわらず、「ALK陽性肺癌」や「ALK陽性腎癌」とも呼ばれるようになってきた。 上記のPDPN・MET・STATについてもパートナーは異なっていても融合遺伝子が他の悪性中皮腫において複数認められないか、データベース、PCR、シークエンス、FISH解析等で確認する。さらに、これらの融合遺伝子の遺伝子構造を決定し、PDPN、MET、STAT3の3遺伝子が融合によって恒常的に活性化し、悪性中皮腫の発生や悪性化に関わっていないか検証を進めていく。
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Causes of Carryover |
本研究課題の初年度目後半に遠方の研究機関への異動が生じた。異動の前後は移転作業により研究活動を大幅に中断せざるを得なくなった。さらに、異動先の研究機関では実験環境を一から整備する必要があった。この段階で当初の予想より研究の中断期間が長くなり、初年度目と2年度目を通して直接経費の執行が思うように進まなかった。以上が次年度使用額が生じた状況である。次年度使用額は翌年度分と合わせ、同じく物品費として使用する計画である。
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