2019 Fiscal Year Research-status Report
ブドウ球菌属の耐性獲得と水平伝播の背景は?:可動性遺伝因子の構造比較
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18K10055
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
漆原 範子 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (80396308)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
アウン メイジソウ 札幌医科大学, 医学部, 助教 (10749584)
小林 宣道 札幌医科大学, 医学部, 教授 (80186759)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ブドウ球菌 / MRSA / SCC / 可動性遺伝因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
ブドウ球菌は血液凝集素 coagulase の有無により大別される。最も病原性の高い黄色ブドウ球菌を初めとする数種が coagulase 陽性,その他は coagulase 陰性ブドウ球菌(CoNS)と呼ばれる。 Staphylococcus Cassette Chromosome (SCC)はブドウ球菌に共通の可動性遺伝因子で,両端を直接反復配列(DR)に囲まれ,内部に組換え酵素(cassette chromosome recombinase: ccr)を持つ。組換え酵素 CCR は DR を認識し SCC の挿入・切り出しを行う。SCC が複数連結した形で挿入され,SCC-composite island(SCC 複合体)を形成する場合もある。メチシリン耐性を担うmecA をコードする SCCmec は代表的な SCC である。SCCmec は,mec 周辺遺伝子構造(mec complex)と,ccr 遺伝子の多様性の組み合わせにより型別が決定され,分子疫学解析に広く用いられる。non-mec SCC にも多様な耐性を付与する遺伝子がコードされる。アルギニン代謝系酵素 arc 遺伝子群を持つ SCC (arginine catabolic mobile element: ACME)は宿主菌体に低 pH 耐性を付与する。市中感染型 MRSA の中で USA300 最も広範囲に分布するクローン の ゲノムに見られる ACME は,スペルミジンN-アセチル転移酵素遺伝子(speG)も同 SCC 内に保有し,ケラチノサイトから産生されるポリアミンへの耐性も獲得している。それら二つの形質により,USA300 は皮膚・皮膚軟部組織で優位に定着・生存できると考えられている。これらの配列を黄色ブドウ球菌と CoNS とで比較解析し,伝播の動態や遺伝子進化を明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までに arc 遺伝子,speG 遺伝子陽性の MRSA (SC640,SC792, SC955) の SCC 複合体の構造を明らかにした。いずれも USA300 とは異なり 各々別の SCC にコードされていた(ACME II' ならびに SCCspeG)。SC792 は新規の SCCmec タイプ,XIV を持っており,SC640 は染色体との接合部位のDRを欠いていた。組換え酵素の認識配列である DR 配列を失っていることから,切り出しされないとの予測がなされた。今年度は下記の 1.-3. の調査・解析を行った。 1. SC640 に見られた可動性を欠いていると予測される SCC の動態:抗生物質を含まない培地で継代を繰り返し,脱落する SCC を調べた。現在のところ,SC640 で SCCmec 類似配列が脱落したクローンは見つかっていない。一方 SC792 株では約 5 % 程度で脱落したクローンが得られている。 2. SCCspeG 中の speG 遺伝子の意義: USA300 と異なる系統に属する黄色ブドウ球菌での speG 遺伝子産物の表現系への寄与は検討されていない。ポリアミンのひとつ spermine に対する感受性を調べ,speG を保有株・非保有株とで比較検討し,保有株が優位に耐性を示すとの結果を得た。 3. 上記 SCC 複合体中の SCC の由来を探る: 本研究室にて 2012-2013 年度に収集された CoNS のひとつ S. haemolyticus の全ゲノム解析を行った。S. haemolyticus は最も早く耐性を獲得する種のひとつと考えられている。ポリアミン耐性遺伝子 speG ならびにその周辺配列,新規 SCCmec XIV 型と同様のmec complexと ccr 遺伝子の組合せを持つ SCC 等が見いだされた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに得られた知見を基に,下記の項目を行う。特に『1. SCC の構造比較を用いた,CoNS と黄色ブドウ球菌間の伝播の解析』を中心に行う予定である。 1. SCC の構造比較を用いたCoNS と黄色ブドウ球菌間の伝播の解析: 次の3つの遺伝子,並びにそれらを含む SCC の解析を継続して行う。すなわち mecA (薬剤耐性),arc 遺伝子群(低 pH 耐性),speG(ポリアミン耐性)である。CoNS には重金属耐性遺伝子をコードする SCC も多く検出されることから(例: カドミウム,水銀,ヒ素),これらの重金属耐性遺伝子を含む SCC にも着目することとする。SCC ユニット内の遺伝子構成を比較解析し,更に遺伝子毎の塩基配列を基にした系統解析,保有率の調査結果等から,CoNS と黄色ブドウ球菌間での動態を推定する。データとして用いるゲノム配列は当研究室で決定した臨床分離株の配列,及びデータベース上に登録された配列である。CoNS の新規の配列決定は,ブドウ球菌属の中で最も薬剤耐性獲得が早いと考えられている S. haemolyticus を用いて行ってきた。S. haemolyticusのSCC/ SCC 複合体は,黄色ブドウ球菌のそれに比べ大きく,いっそう多様性に富んでいるため,次世代シークエンス法を多く活用したい。 2. 長期培養間の SCC の動態とその表現系への影響: 選択圧の無い培地で長期培養し,SCC ユニットの脱落や,表現系の影響(耐性の消失)を調査する。 3. トランスポゾンによる耐性の伝播: SCC は各ユニットが 10~数10 kb の可動性遺伝因子である。比較的小さな可動性因子としてトランスポゾン(数 kb~20数kb)が挙げられ,既に多くの知見が得られている。新たなトランスポゾンが見つかれば,上記 1. に記したものと同様の解析を行う。
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Causes of Carryover |
次世代シークエンスの急激な普及拡大に伴い,複数の企業から廉価の解析プランが提供されるようになった。よって全ゲノム解析が計上した額よりも低価格で行えた。継代培養に伴う SCC 脱落の検討を行うにあたり,実験系の変更等から試薬に係る費用が当初の試算に比べ低く抑えられた。主としてこれらの理由により次年度使用額が生じた。 繰り越した助成金は,昨年度までの結果から更に複数の株での全ゲノム解析の必要性が考えられた為,次世代シークエンス解析に用いることを計画している。 また 2020 年度は海外での学会発表を2回計画していたが,COVID-19 感染の拡大により既に1つの学会(19th International Symposium on Staphylococci and Staphylococcal Infections)は次年度以降に開催が延期となり,本課題の期間内に計上した旅費を執行できないこととなった。これについては繰り越すか,オープンアクセスジャーナルに投稿することがあれば,その投稿費に充てる等の可能性も考えている。
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Research Products
(8 results)
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[Journal Article] Molecular Characterization of Methicillin-Susceptible and -Resistant Staphylococcus aureus Harboring Panton-Valentine Leukocidin-Encoding Bacteriophages in a Tertiary Care Hospital in Myanmar.2020
Author(s)
Aung MS, San T, Urushibara N, San N, Oo WM, Soe PE, Kyaw Y, Ko PM, Thu PP, Hlaing MS, Kawaguchiya M, Kobayashi N.
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Journal Title
Microb Drug Resist
Volume: 26
Pages: 360-367
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Molecular Epidemiological Characterization of Staphylococcus argenteus Clinical Isolates in Japan: Identification of Three Clones (ST1223, ST2198, and ST2550) and a Novel Staphylocoagulase Genotype XV.2019
Author(s)
Aung MS, Urushibara N, Kawaguchiya M, Sumi A, Takahashi S, Ike M, Ito M, Habadera S, Kobayashi N.
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Journal Title
Microorganisms
Volume: 7
Pages: -
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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