2021 Fiscal Year Research-status Report
乳児の授乳拒否行動が示す母乳の匂いの変化と乳腺炎との関連
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18K10443
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
吉田 倫子 北海道大学, 保健科学研究院, 講師 (30463805)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
篠原 ひとみ 兵庫大学, 看護学研究科, 教授 (80319996)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 母乳 / 匂い / 乳腺炎 / 乳児 / 授乳拒否 |
Outline of Annual Research Achievements |
乳腺炎時は母乳の味や成分が変化するが、このメカニズムは母乳の匂いに影響を及ぼし、乳児の授乳拒否の原因となっている可能性がある。そこで本研究は産後1-2か月の母子を対象とし、調査1「正常な母乳と乳腺炎時の母乳の匂いを比較し、乳腺炎時の母乳の匂いの特徴を明らかにする」、調査2「乳児の授乳拒否時の母乳の匂いと乳腺炎時の母乳の匂いを比較し、乳腺炎時に児が授乳を拒否する原因に匂いの関与がどの程度あるのかを明らかにする」ことを目的とした。加えて、調査3「母乳分泌過程で変化の激しい産後1週間と母乳の分泌・成分が安定する産後1か月の母乳及び乳頭の匂いを明らかにする」こととした。本研究により乳児が示す授乳拒否行動の要因が明らかとなれば、乳腺炎の発症を予知することが可能となる。 調査3は、正常経過の褥婦39名を対象に、産後1日目、3日目、5日目、1か月目に乳頭・乳輪部および乳汁の匂い強度をポータブル型ニオイセンサを用いて測定した。得られた匂い強度データを反復測定による分散分析により比較した結果、乳頭・乳輪部の匂い強度は、1か月目の匂い強度に比べて、1日目と3日目の匂い強度が有意に高かった(1日目93.9 vs 3日目103.1vs 5か目76.3 vs 1か月目42.2)。一方で、乳汁の匂い強度は1日目~1か月目において有意差は認められなかった(1日目-0.2 vs 3日目8.5vs5か目-3.0vs 1か月目20.9)。この結果について令和3年度に学会発表を行った。 調査1と2はCOVID-19の感染拡大により実施が困難である。そこで令和3年度より、代替案として調査4「乳児の授乳拒否行動が示す母乳の匂いの変化と乳房の不調に関する母親へのインタビュー調査」を行うこととした。2名の褥婦に予備調査を行ったところ、カレーやニンニク等の匂いの強い食品とアルコールの摂取時に乳児の授乳拒否を経験していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
調査3は学会発表を終え、投稿の準備段階である。調査1と2は令和2年より開始予定であったが、COVID-19の感染拡大により研究協力機関の協力が得られ難く、開始の目処が立たない。加えて、研究者の研究機関移動のため研究が予定通り進められなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
調査3は速やかに論文を完成させ、投稿する。 調査1と2はCOVID-19により実施が難しいため、代替案として調査4「乳児の授乳拒否行動が示す母乳の匂いの変化と乳房の不調に関する母親へのインタビュー調査」を行うこととした。対象は産後6~12か月の母乳育児中の褥婦とする。COVIDへの対処としてスノーボールサンプリング法やビデオ会議システムを活用して調査を行う。予備調査により研究テーマに合致するデータが得られることを確認できた。しかし、経産婦へのインタビューでは上の児への授乳体験を述べる褥婦もおり、思い出しバイアスによる影響が考えられたため対策が必要である。 COVIDの流行は本研究の実施を難しくしたが、流行時の今だからこそ母乳育児中の経験を聞くという調査に変更したことは意味があると考える。それはCOVIDの流行により母乳育児の実施方法が変化しているためだ。産院での母乳育児支援の方法はCOVID陽性の場合と陰性の場合で全く異なる。日本の多くの産院ではCOVID陽性の褥婦は、産褥入院期間中は母子分離、直接授乳不可で母乳は搾乳して廃棄しなければならない。母乳を児に与えることが許可されるのは退院後であることが多い(つまり授乳の開始が遅れる)。助産師が通常行う母乳育児支援は長時間・濃密に接触をすることになるため、感染が疑われる褥婦にはパンフレット配布のみの場合もある(つまり母乳育児支援が不十分となる)。そして陽性の場合に限ったことではないが、COVIDは感染予防が重要とされるため、授乳の前に清浄綿での乳頭・乳輪部の清拭を行う褥婦が増えることが推測される。これは、乳頭・乳輪部から発せられる匂いを手がかりに哺乳をする乳児の自然な哺乳メカニズムを阻害する可能性がある。よってこのような事態による母乳育児への影響を調査4により明らかにする必要性がある。
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Causes of Carryover |
当初の予定では、調査1・2で島津テクノリサーチに依頼してにおい識別装置による匂い分析を行う予定であったが、COVID-19により実施が難しいため次年度使用額が生じてしまった。残りの費用は、調査3の論文作成と投稿料にあてる。また、調査4のデータ収集から論文作成までの費用、成果発表時の旅費として使用する。
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