2018 Fiscal Year Research-status Report
集中リハビリテーションにおける神経回路レベルでの作用機序の解明と臨床応用への展開
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18K10718
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
石田 章真 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (20632607)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | リハビリテーション / 皮質赤核路 / 赤核 / 皮質網様体路 / 網様体 / 内包出血 / 神経可塑性 |
Outline of Annual Research Achievements |
脳損傷後には中枢神経系の構造的・機能的再編が生じ、これらは障害された機能の再獲得における生物学的基礎であると考えられる。 本研究は、集中的なリハビリテーションが神経回路の再編、特に皮質-脳幹系においてどのような作用を及ぼすかを捉えることを目的としている。前年度までの検討により、リハ終了後に皮質赤核路を遮断すると改善した運動機能が低下すること、皮質赤核路を遮断してリハを行うと皮質網様体路において豊富な軸索分枝を生じること等が示されている。本年度は、予め皮質赤核路および皮質網様体路に対しウイルスベクターを感染させておくことで、両経路を選択的に機能遮断できる系を用い、運動機能との関連性を検証した。 結果として、皮質赤核路を遮断してリハを行い、その後皮質網様体路の選択的な抑制を行うと、改善した運動機能が低下することが示された。これは皮質赤核路遮断によりみられる皮質網様体路の賦活が運動機能回復と関連を有することを証明するものである。更に、リハ終了後に皮質赤核路を遮断すると改善した運動機能が低下するが、そのまま遮断を維持すると運動機能が徐々に改善する。この時点で皮質網様体路を遮断すると、運動機能が再度低下することが示された。 これらの結果は、皮質赤核路が遮断されると皮質網様体路へのダイナミックなスイッチングが生じ、この現象がリハによる運動機能の回復と密に関わることを示唆するものであり、脳血管障害後のリハにおける神経回路レベルでの作用機序の一端を詳らかにするものであると考える。本年度においては更にウイルスベクター感染に関する電気生理学的および組織学的証明を加え、海外誌に投稿を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は皮質赤核路と皮質網様体路の関係性を調べるため、ウイルスベクターを用いた両経路の選択的遮断を行い、リハビリテーションによる運動機能改善効果との関連性を検証した。その結果、皮質赤核路から皮質網様体路へのスイッチングという、非常に興味深い現象を捉えることに成功した。加えて、このウイルスベクターによる選択的遮断に関しては、電気生理学的手法および組織学的手法において有効性の証明を行っており、データの信頼性を確認している。 上記の通り、主な研究テーマについては一連の解析を終了することが出来た。ただし、発展的なテーマである、赤核および網様体における促通性亢進関連因子の探索やオプトジェネティクス法を用いた実験に関しては準備段階に留まっている。 全体としては、本年度は前年度までの結果をまとめ、海外誌への投稿までを終えることが出来ており、概ね良好に進んだものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの検討により、内包出血後の集中的リハビリテーションにおける皮質-脳幹回路の動態および運動機能回復との因果性については概ね検討を終えている。今後は①神経回路の再編を引き起こす因子に関する分子生物学的探索や、②皮質-脳幹回路の刺激によるリハビリテーション効果の増幅について検討を行う所存である。 具体的な方策として、①に関しては集中リハ終了後に赤核および網様体を切除し、マイクロアレイ法にて発現の変動する遺伝子を解析する。変動が著明な遺伝子に関してはreal-time PCR法にて別途再検証を行う。加えて、皮質-赤核路を遮断して集中リハを行った個体に関しても同様の検討を行い、遺伝子発現の変化を探索する。②に関しては集中リハと並行して運動野-脳幹路の賦活を行い、集中リハの効果が増強されるかを確認する。集中リハ実施前および実施中に運動野-脳幹路を刺激し、機能改善効果が増進されるかを確認する。刺激にはウイルスベクターによりチャネルロドプシンの導入し、光刺激による賦活を想定している。
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Causes of Carryover |
平成30年度はウイルスベクター二重感染法による皮質赤核路および皮質網様体路の選択的遮断に関する実験を実施する予定であった。しかし、当初の計画よりもスムーズに実験が進捗したため、見込んでいた追加の実験を行う必要がなくなったため、次年度使用額が生じた。また、先行して行う予定であった、集中リハによる運動野-脳幹路の再編成を惹起する因子の探索についての検討が遅れていることも次年度使用額が生じた理由である。 使用計画として、平成31年度において上記の集中リハによる運動野-脳幹路の再編成を惹起する因子の探索を行う予定であり、そちらに使用したいと考えている。また、平成32年度に実施予定の運動野-脳幹路の選択的賦活法による集中リハの機能改善効果の増幅の検討について、一部を前倒しして実施する計画であり、そちらに充填する所存である。
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