2020 Fiscal Year Research-status Report
筋肥大時に骨格筋の成長ホルモンに対する反応性は低下するのか
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18K10814
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
花井 淑晃 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50360730)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | GH受容体 / 筋肥大 / IGF-1 / GH |
Outline of Annual Research Achievements |
我々の研究室では、運動、トレーニングによって伴う骨格筋の適応のうち、筋肥大が生じるメカニズムについて注目して研究を行っている。成長ホルモンは下垂体前葉から分泌され、主として除脂肪組織の成長を促す同化ホルモンであるが、運動適応とも深く関わることが知られている。我々は予備的な研究において、ラットの代償性肥大モデルを用いて、骨格筋で発現し、GHの同化作用を伝える役割をもつGH受容体が筋肥大初期に発現が低下する可能性を示した。骨格筋におけるGH受容体発現の低下は、骨格筋のGHに対する反応性に影響をおよぼし、GHの受容性の低下によって、筋肥大にたいしてネガティブな貢献をしている可能性が考えられる。 本研究課題の研究目的は、この筋肥大初期に発現が低下する成長ホルモン受容体の機能と、その低下のメカニズムを明らかにすることである。今年度は、骨格筋のGH受容体遺伝子発現を調節する因子として「筋収縮」を想定し、腓腹筋に対して、筋肥大を生じる強度の高強度収縮を負荷した6時間後のサンプルの供与を受け、GH受容体の遺伝子発現の変化の検討を行った。その結果、GH受容体のmRNA発現量は、収縮刺激6時間後の時点で有意な変化は見られなかった。GHの作用を骨格筋組織内で仲介するとされるIGF-1についても、受容体のmRNA発現に変化は見られなかった。これらの結果より、高強度の骨格筋の収縮活動は、GH受容体の遺伝子発現を急性に調節する可能性は低いことが示唆された。ゆえに、代償性肥大の初期において観察される、GH受容体のmRNA発現量の一過性の低下に対して、その時、生じていると考えられる筋活動の増加が貢献している可能性は低いことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究課題の現在までの進捗状況については、「遅れている」との自己点検評価とした。 今年度得られた成果として、電気刺激を用いた高強度筋活動後のサンプル供与が得られたことから、高強度筋収縮後のGH受容体の急性の調節の有無については分析が完了して、GH受容体の発現の調節における筋の収縮活動の貢献については、ネガティブである可能性を示すことができた。しかしながら、昨年度は新型コロナウイルスの流行によって、研究活動、特に、研究室でのゼミや、実験手技、手法のトレーニングが大きく送れたことから、あらたな動物実験を実施することができず、実施する予定であった、下垂体摘除ラットの代償性肥大モデルにおけるGH投与後のIGF-1 mRNAの反応性を検討する実験を実施することができなかった。 現在までの進捗状況として、実験手法や実験計画については確立しており、分析手法や試薬についても準備ができている。研究費については本年度に繰越処置をしているので、実験を実施してデータを取得して成果を得たいと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の本研究課題の推進については、昨年度実施することができなかった動物実験を実施し、データを取得する予定である。実験の遂行に必要な手技、手法についてはすでに確立されている。 予算についても昨年度使用できなかった文を繰越ており、十分である。 内因性のGHの作用や他の下垂体ホルモンの作用を排除するために下垂体を外科的に切除したラットを使用し、片脚の代償性肥大を惹起する。その後、以前の研究でGH受容体遺伝子発現の低下が明らかとなっている、代償性肥大処置後4日の時点でGHを外因性に投与し、IGF-1の発現誘導がピークとなる、投与後7時間の時点でサンプリングを実施し、急性のGH投与に対するIGF-1反応を肥大脚と対照脚で比較して、筋肥大の影響について検討を行う。 現状で課題となっているのはこれまでの検討では少し肥大の程度が低かったことから、より確実な代償性肥大処置を行うためのプロトコルの確立であるが、これは共同研究者の手技により改善されるものと期待される。また、GH受容体の発現の変化はmRNAレベルでの発現の変化にとどまっており、実際の蛋白の変化としては同定できていない。骨格筋組織のGH受容体の発現レベルは非常に低く、骨格筋組織を対象としたウエスタンブロットでGH受容体を検出している報告は極めて少ない。これからウエスタンブロットによる蛋白の定量を確立することは困難かもしれないが、サンプルの処置法や、使用する抗体の再検討を行い、分析手法を確立したいと考えている。
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Causes of Carryover |
昨年度は、新型コロナの混乱によって、年度当初の先行きの不透明さから、科研費の実験を遂行するための時間を十分に確保することができず、動物実験を実施することができなかった。ゆえに、昨年度は実験の実施をあきらめ、今年度にほとんど繰越を行うこととした。 今年度の使用計画としては、動物実験を実施するので、実験動物の購入費、実験動物の飼育費用、サンプリングとサンプル処置、分析に用いる試薬、消耗品等に大部分を支出する予定である。 予定通りの成果が得られた場合には、学会発表のための旅費としての支出、および投稿論文の英文校正、科学雑誌への投稿費用にも使用する。
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