2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K10875
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Research Institution | Osaka University of Commerce |
Principal Investigator |
久保山 直己 大阪商業大学, 公共学部, 准教授 (00412718)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | トレーニング科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は3つ目の取り組みでは、動的運動における複数の脳部位との機能的相補性の存在と中枢疲労及び中枢疲労耐性との関係について検討する。疲労困憊に 至る動的運動中に前頭前野や運動野などの運動発現に関わる皮質活性が漸減すると、他の脳部位に運動強度の持続に対する機能的相補性が出現する可能性が考えられる。そのため、運動中に前頭前野など含む複数の脳部位の血液量と動員される複数の筋肉の活動を同時に測定し、疲労困憊まで時系列的に測定する。動的運動を疲労困憊まで行いながら、複数の脳部位と筋肉の活動を測定することで、運動中の皮質制御と中枢疲労の発生過程、及び中枢疲労耐性との関係を明確にする計画であったが、新型コロナウイルス感染症の影響があり、研究計画を変更した。本年度は、運動時の飛沫を防ぐため運動様式を全身運動から咀嚼動作に変更し、咀嚼動作の頻度が脳の活性化に及ぼす影響について検討した。具体的には咀嚼動作の頻度と計算タスクのタスクスコアに及ぼす影響について検討を進めた。11人の健康な被験者(9人の女性、2人の男性)が本研究に参加した。被験者は、無味ガムを5分間、30Hz、70Hzおよび110Hzの3つの頻度で咀嚼する前後に、内田クレペリンテストを15分間実施した。左前頭前野の酸素化は、計算タスク中に近赤外分光法によって連続測定した。タスクスコアは、咀嚼頻度に応じて有意差は認められなかった(p> 0.05)。一方、110回/分(Hz)の咀嚼頻度での咀嚼後に測定された酸素化値は、咀嚼前に観察された値よりも有意に高かった(p <0.05)。咀嚼前後の酸素化レベルは、30Hzと70Hzの咀嚼頻度では有意差はなかった(両方でp> 0.05)。本研究の結果は、高い咀嚼頻度は脳の酸素化への影響を示唆したが、咀嚼動作及び咀嚼動作頻度によってタスクスコアや認知能力が向上する可能性が低いことを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理由 本研究の目的は、動的運動中の脳部位における機能的相補性による筋の協働作用の活性化と中枢疲労の発生過程及び中枢疲労耐性との関係を解明することである。5年間で下記の3つの検証に取り組み、本研究の研究目的を達する計画である。現在は、1つ目の取り組みが終了し、2つ目の取り組みの成果報告が終了した状況にある。今後は、3つ目の取り組みに移行することとなる。 1つ目の取り組みでは、NIRSでの測定における頭蓋血液量の影響を削除する方法を確立し、大脳皮質のみの血液量の変化を正確に測定することであった。この取り組みについては、全血液量から頭蓋のみの血液量を減じることで大脳皮質のみの正確な血液量を捉えることができた。2つ目の取り組みでは、動的運動時の対側及び同側の皮質における筋の協働作用の活性化の現象、及び対側と同側の皮質との間の機能的相補性について検討を進めることである。運動時に対側及び同側の皮質活動を検討した先行研究では、運動中に対側のみならず同側も活動することを報告している。しかし、同側の皮質活動の説明は確立されておらず、解明が必要であった。そこで、動的運動中にNIRSを用いて両側の血液量の変化を時系列に捉え、同時にその運動に動員されると推測される複数の筋肉の活動変化 も測定し、両側の皮質における筋肉の協働作用の活性化現象と機能的相補性の存在を検証している。本課題については、一定の成果を得ることができた。しかし、現象確認を明確にするため、動員される筋肉を制限した運動様式での実験であったため、全身運動等の運動様式で同様の結果が得られるのかについてはさらに研究が必要である。 本年度は3つ目の取り組みである動的運動における複数の脳領域との機能的相補性の存在と中枢疲労及び中枢疲労耐性との関係について検討する予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響により、実験が少々遅れ気味である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、3つ目の取り組みに移行することである。 2つ目の取り組みでは、全身運動様式を用いた動的運動時の対側及び同側の皮質における筋の協働作用の活性化の現象、及び対側と同側の皮質との間の機能的相補性について検討を進める。これまで研究に用いてきた運動様式及び運動負荷は、指タッピングといった運動肢を制限した様式での軽負荷での運動であった。しかし、両側の皮質における機能的相補性が動員筋群の増加や高負荷でも同様に発現するのかについては未解決である。そのため、今後はこの点についてもさらに深めていく。 3つ目の取り組みでは、動的運動における複数の脳部位との機能的相補性の存在と中枢疲労及び中枢疲労耐性との関係について検討する。疲労困憊に 至る動的運動中に前頭前野や運動野などの運動発現に関わる皮質活性が漸減すると、他の脳部位に運動強度の持続に対する機能的相補性が出現する可能性が考えられる。そのため、運動中に前頭前野など含む複数の脳部位の血液量と動員される複数の筋肉の活動を同時に測定し、疲労困憊まで時系列的に測定する。動的運動を疲労困憊まで行いながら、複数の脳部位と筋肉の活動を測定することで、運動中の皮質制御と中枢疲労の発生過程、及び中枢疲労耐性との関係を明確にする計画である。 また、これまでの研究では、成人や若年者といういわゆる一般の方を対象者としてきた。現象を一般化するという点では有効と考えている。しかし、これから始まる疲労困憊に関する研究では、長年にわたり動作習得の経験を有する一流もしくはそれに準ずるレベルのスポーツ選手を用いることが好ましい側面も考えられる。そのため、今後は本研究においては長期間トレーニングを行ってきたアスリート等を対象者として研究を行うことも視野に入れている。それにより、本研究目的をより明確な形で達成できると考える。
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Causes of Carryover |
本年度は本研究目的の主要課題となる中枢疲労と中枢疲労耐性の検討を推進していく計画であったが、新型コロナウイルス感染症拡大予防の観点から、実験計画を変更せざる得ない状況が生じた。今後は、全身運動様式を採用した当初の実験計画で進める予定である。被験者全員に同様の高負荷での全身運動を実施する際には、安全や安心を確保した上で実験を行う。そのような理由により次年度使用額が生じた。
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